魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 遭難した冒険者二人組は、レッドフォグの領主と繋がりを持つ有力貴族の親戚だった。
 叔父の力となるために冒険者として自らを鍛えていたらしいが……
 罠にかかってしまい、女が毒に侵されて動けなくなってしまう。
 そのまま、遭難してしまったらしい。

 大きな怪我もなく、毒は俺が除去した。
 ただ失った体力がすぐに回復することはなくて、今も治療中だ。

 それはともかく。

 無事に成し遂げたことで、依頼主が直接礼を言いたいらしい。
 俺たちは貴族の屋敷に招かれた。

 ちなみに、アトリーとその他の冒険者はいない。
 「自分たちは役に立つようなことはしていない」と辞退してしまったのだ。
 一人ではマッピングすることはできないし、遭難者を見つけたのはアトリーだ。
 役に立ってないということはないのだけど……
 まあ、無理をして誘うようなことでもない。

「はじめまして。ロズウェル・ラインハルトだ。この街の……いや、小難しいことを言っても仕方ないな。簡単に言うと、領主さまの秘書のようなことをしている」
「……スタック・ラインハルトです。ロズウェルの息子です」

 屋敷の客間に案内されて、壮年の男と若い男に挨拶をされた。

 壮年の男は60くらいだろうか?
 無駄に歳を重ねてきたわけではなくて、年相応の貫禄というものを感じられた。
 顎にたくわえたヒゲが彼の貫禄を増していて、頼もしさすら覚える。

 若い男は俺より少し上……20半ばだろうか?
 息子と名乗ったが、かなり歳が離れているように見えた。
 豪華な服を着ているが、着こなしているという感じはしないで、服に着られている。
 俺に対して厳しい目を向けていた。

「イクス・シクシスです」
「ヒカリです」

 ヒカリも同行していた。
 ヒカリは仲間だ。
 なので、剣にならずに、こういう時も一緒についてきてもらうことにした。

「ギルドに聞いたところ、イクス殿の活躍で甥と姪を助けることができたとか。改めて、お礼を言わせてほしい。ありがとう」
「報酬のためだからな。礼の必要はない」
「貴様っ、無礼ではないか!」

 スタックが目を吊り上げて吠えた。
 そんな息子を、ロズウェルは視線で制する。

「よい、気にするな」
「しかし、父上……」
「わしは気にするな、と言ったぞ?」
「……わかりました」

 渋々という感じでスタックが引き下がる。
 しかし、完全に納得していない様子で、こちらを睨みつけていた。

 ……癖がありそうなヤツだ。
 できることなら関わりたくないな。

「イクス殿は素直な方なのだな。普通、報酬のためとは言わないぞ」
「不快にさせたなら謝る」
「いや。スタックにも言ったが気にしていない。むしろ、そういう素直なところは好ましいと思う。おい、例のものを」

 ロズウェルの合図でメイドが現れた。
 小さな袋を渡される。
 中を見ると、拳大ほどの魔石が収められていた。

「今回の報酬だ。10キログラムほどはある。冒険者と聞いたから、現金よりは魔石の方がいいのではないかと思ったが……問題はあるかね? リムを用意することもできるが」
「いや、これで構わない」

 財布にある程度の余裕はある。
 魔石を全て現金に換金するだけではなくて、なにかあった時にためにストックしておきたいと思っていたところだ。
 ちょうどいい。

「聞けば、イクス殿は剣士でありながら常識を越えた力を持つという」
「父上。お言葉ですが、そのようなことはありえないかと。剣士が魔法使いを越えるなどという話、聞いたことがありません。ギルドの報告は全てデタラメでしょう」
「わしはアトリーという男を知っているが、彼はウソはつかない男だ。それに、ウソの報告などをしたら後でどうなるか……そのことがわからないほど、ギルドはバカではない」
「ちっ……」

 ロズウェルの言葉を覆すことができず、八つ当たりのようにスタックがこちらを睨みつけてきた。

 どうもこの男……魔法使いであることに相当な誇りを持っているらしい。
 落ちこぼれの剣士の方が優れていたなんていう話を聞かされて、苛立っているみたいだ。

「失礼。話が逸れてしまったな」
「気にしていないさ。それよりも、俺を持ち上げてどうしたいんだ?」
「ふむ。わしになにかしらの目的があると察しているか。なかなかどうして。力だけではなくて、頭の回転も早いみたいだ。すばらしい才能だ」
「いや。俺は、単なる落ちこぼれの剣士だ」
「謙遜しなくてもいい」

 今のは謙遜でもなんでもなくて、本心なんだけどな。

「実は、イクス殿の力を見込んで頼みたいことがある」
「頼みたいこと?」
「近々、大規模なダンジョンの攻略を計画している。それに、イクス殿も参加してほしい」
「大規模な攻略とは、どういうことですか?」

 ヒカリが口を挟む。
 とはいえ、俺も気になっていたことなので諌めることはしないで、ロズウェルの返答を待つ。
 ロズウェルは気を悪くした様子はなく、説明をしてくれる。

「このレッドフォグのダンジョンは、9層までしか確認されていない。10層以下に到達した者はまだおらぬ。わしは、最下層に到達する冒険者を求めている。このレッドフォグのダンジョンを完全踏破したいのだ」
「ロズウェルさんは冒険者なんですか?」

 ヒカリがそう尋ねた。

「いや、元冒険者だ。今は、さきほども言ったが領主さまの秘書のようなことをしている」
「それなのに、ダンジョンの踏破を目的としているのですか? 昔の血が騒ぐとか、そういう理由なのですか?」
「ははは。それも否定はしないがな。ただ、それだけではない。ダンジョンからは魔石だけではなくて、色々なアイテムを手に入れることができる。過去の遺物や、未知の技術が使われた道具など……それらを得ることで、我々は大きく前に進むことができた」

 なるほど、話が見えてきた。

「下層に潜れば潜るほど、より質の良いアイテムが見つかる。そのために、もっと深くに潜りたいのだよ」
「なるほど。それで、報酬はいかほどなのですか?」

 なぜか、ヒカリが俺のマネージメントをしていた。

「9層以降の階を一つ踏破する毎に50万リム。また、探索で手に入れた魔石やアイテムは自分のものにして構わない」
「ずいぶんと奮発しますね……しかし、それではロズウェルさんが得られるものはなにもなくなるのでは?」

 ヒカリはストレートに切り込んでいく。
 しかし、ロズウェルは気を悪くした様子はない。
 むしろ、楽しそうにしていた。
 ヒカリの見た目の年齢を考えると、孫のように思っているのかもしれない。

「得られるものならたくさんあるさ。ダンジョンは何層まであるのか? 9層以降に生息する魔物の種類は? また、どんな罠があるのか? なにか新しい仕掛けはあるのか? そういった情報が手に入る。情報を手に入れれば、今後は、ダンジョン攻略がかなり捗るだろう。たくさんのアイテムや魔石がスムーズに持ち帰られるようになり、それらが流通することで、結果的に街が潤う……ということになるのだよ」
「なるほど、そういうことですか。理解しました」

 二人のやりとりで、俺も詳しい事情を理解することができた。
 このロズウェルという男、なかなか優れた治世者らしい。

「現在は9層まで到達している。次の攻略で、最低でも15層に到達したい。無論、それよりも先……最下層に到達できるのならば、それに越したことはないが」
「どの規模のパーティーを作る予定だ?」
「8人×3の24人を一組として、それを3組。交代交代で挑んでもらう」
「全部で72人か……それはまたすごい数だな」
「ダンジョンではなにが起きるかわからない。これでも少ないと思っている」
「ただ、闇雲に数を集めても仕方ないだろう? 最下層を目指すとなると、最低でもBランクは必要になると思うが、それだけの数は……うん? まてよ。俺はFランクだが、問題はないのか?」
「Fランクだって? あなたはその程度のランクで父上の依頼を受けようと……」
「スタック」
「……失礼しました」

 ロズウェルに睨みつけられて、スタックが押し黙る。

「確かに、イクス殿の言う通り、今回の依頼はランク制限を設けている。最低でDランク以上だ。しかし、イクス殿は特例として扱いたい」
「そんなことをしていいのか? 他から不満が出るぞ?」
「うまく抑え込む。また、イクス殿が剣士ということで文句をつける者が出ないように、あからじめ手配しておこう。その他、要望があれば聞こう」
「大盤振る舞いだな。どうしてそこまでしてくれる?」
「それだけイクス殿の力を買っているのだよ」
「ふむ」

 考える。
 ロズウェルの言葉が本当なら、煩わしいことに手をとられることはなさそうだ。
 それに、報酬も魅力的だ。

 未だ3層しか行ったことのない俺が、いきなり最下層を目指すとなると、かなりの危険が伴うが……
 ヒカリはもっと下層を目指しても問題はないと言うしな。

 ちらりとヒカリを見る。
 ヒカリはコクリと力強く頷いた。
 俺なら大丈夫、そう言っているかのようだ。

「わかった、引き受けよう」
「おおっ、そうか! ありがたい」
「攻略についての話が……まだ決まっていないか。詳細な話をする必要があるだろうが、次はいつここに来ればいい?」
「ふむ。他の冒険者の方とも連絡をとらないといけないからな……その時は、わしの方から改めて連絡をしよう。今はどこに滞在を?」
「街の宿で世話になっている」

 宿の名前を教えた。

「夜はできるだけ宿に戻るようにする。もしもいない時は、伝言を頼んでおいてくれ」
「了解した。そのようにしよう」
「話は終わりだな? ダンジョンの攻略に向けて準備をしたいから、俺はここで失礼する」
「協力は惜しまない。なにか必要なものあれば、遠慮なく言ってほしい」
「その時は頼むよ」

 そう言い残して、俺はロズウェルの屋敷を後にした。