アトリーは他の冒険者を連れて、遭難者の捜索を急いでいた。
途中、何度も後ろを振り返ってしまう。
一人で魔物の大群に立ち向かう勇敢な剣士の手伝いをしたいと思う。
しかし、ぐっと堪えた。
彼は己の身を犠牲にしてくれた。
アトリーたちを助けるために。
そして、遭難者を助けるために。
その献身を無駄にしてはいけない。
無駄にするわけにはいかない。
絶対に遭難者を見つけて助けてみせる!
アトリーはそう決意して、ダンジョンを進んでいく。
「あっ……!?」
ほどなくして、物陰に隠れるようにして倒れている男女を見つけた。
慌てて駆け寄り、その身体を支える。
「大丈夫かい!?」
「うっ……」
アトリーの呼びかけに、男の方は小さく身じろぎをした。
体力を失っているみたいだが、大きな怪我は見当たらない。
問題は女の方だった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
荒い吐息をこぼして、顔を赤くしていた。
熱がある。
それだけではない。
頬が痩けていて、唇が紫色に変色していた。
「これは……もしかして毒なのか?」
アトリーは焦った。
解毒薬は持ってきていない。
3層までに出現する魔物に、毒を使うような相手はいない。
また、毒の罠も5層からだ。
行軍を早くするために、余計な荷物は減らしたのだけど……
それが裏目に出てしまった。
「なんてことだ……まさか、こんなことになっているなんて!」
「どうした?」
「それが、女性の方が毒に……うん?」
自分は今、誰と話をしているのだろう?
怪訝に思い顔を上げると……
「イクス!?」
自分を犠牲にしたはずの男がそこにいた。
――――――――――
「イクスっ、どうしてここに!? あっ、そうか、思いとどまってくれたんだね? よかった……いくら遭難者を探すためとはいえ、イクスを犠牲にするなんてできないからね」
「なんの話だ?」
「うん? だから、魔物の大群への突撃はやめたんだろう?」
「いや、突撃したぞ?」
「え?」
「え?」
話が噛み合わないな。
アトリーはなにを言いたいんだ?
「魔物なら全て蹴散らしてきた。それで、後を追いかけて、追いついた。ただ、それだけの話だろう?」
「……おかしいな。疲れているのかな? 今、幻聴が聞こえたような……」
「それで正しいですよ」
擬人化しているヒカリが、アトリーに同情するような感じで言う。
「マスターは魔物の大群を片付けました」
「え? いや、でも……ありえないだろう?」
「私もそう思うのですが……ですが、実際に目の前で全て斬り伏せていましたからね」
「百を越えて……千に届く魔物の大群を全て斬った? この短時間で? いやいや、そんなバカな……」
「不思議なことじゃないだろう? 相手は、Eランクの魔物ばかりで、Dランクの魔物が少し混じっている程度だ。高ランクの魔法使いが上級魔法を数発使えば、問題なく殲滅できるだろう」
「そ、それはそうなんだけど……でも、イクスは剣士で……い、いったいどうなっているんだ……?」
アトリーは頭を抱えてしまう。
俺は、それほどおかしいことを言っただろうか?
言っていないよな?
「私のマスターは、何度も常識を壊してくれますね。驚き疲れてしまいますが……ですが、誇らしくもありますね。私は、このマスターの従者なのですよ、と胸を張ることができますよ」
「誇るところなのか、それ?」
「しかし、マスターを剣士というカテゴリーに収めていいのか、迷いますね。剣士を超えたなにか、と表現した方がいいのでは?」
「人をイロモノみたいに言わないでくれよ」
「実際、イロモノじゃないですか」
きついツッコミを入れられてしまう。
「おかしいな……ヒカリはなぜ驚く? 聖剣の力を借りているんだから、これくらいは当たり前だろう?」
「私を使えばそれなりの力を出せますが、マスターの力は、その想像以上ですよ。マスターの力は、私でも計ることができませんね」
「持ち上げるようなことを言わないでくれ。俺なんて、しがない剣士だ」
「しがない剣士が、高ランクの魔法使いと同レベルのことをやれるとは思えませんが」
「ふむ……そうだな。そう言われると、確かに不思議だな。もしかして、俺は高ランクの魔法使いと同じくらいの力を持っているのか?」
「あっ、ようやく自覚したのですか?」
「……いや。そんなことはありえないな。俺は魔法を使えない落ちこぼれだ。自惚れることなく、もっと精進しないといけない」
「どうして、そういう考えになるんですか!」
再びツッコミを入れられてしまう。
ヒカリにあれこれと言われるのも、最近は慣れてきたな。
って、そんなことはどうでもいい。
今は遭難者を優先しないと。
「それで……その二人が遭難者なのか?」
「あ……うん、そうだよ」
アトリーも、今は遭難者のことを優先させることにしたらしい。
気持ちを切り替えた様子で、遭難者のことについて語る。
男は体力を失い動けないものの、大きな怪我はなくて、命に別状はない。
しかし、女は毒を受けているらしく危険な状態だ。
一刻も早く治療しないといけないが、解毒薬がないらしい。
「危ない状態だな」
「わかるのかい?」
「それなりの知識はある。すぐに処置をしないと危険だ」
とはいえ、薬がないのか……
ダンジョン内のマッピングはしている。
数日毎にダンジョンの構造は変化するが、まだその周期ではないはずだ。
急いで戻れば1時間とちょいで地上にたどり着けるかもしれないが……
それじゃあ遅い。
女は体力も失っていて、とてもじゃないけれど、あと1時間も保つように見えない。
ここまできて失敗という事態は避けたい。
どうするか?
「……ヒカリ。以前、負の感情を斬ったことがあるな。あれは、聖剣なら当たり前のようにできることなのか?」
「そうですね。私は聖剣なので、そういうことは得意としていますよ」
ヒカリの言葉を受けて考える。
聖剣ならなんでも斬ることができる。
それならば、俺が考えることも可能なのでは?
「ヒカリ、頼む」
「はい、わかりました」
言われるままヒカリは剣になり、俺の右手に収まる。
(どうするつもりですか?)
(試してみたいことがある)
剣を手に、毒に侵された女の前に立つ。
「アトリー。そのまま、しっかりと抱きかかえておいてくれないか」
「それは構わないけど……いったい、どうするつもりだい?」
「いいから頼んだぞ」
具体的な説明をしたら反対されるかもしれない。
そう思った俺は、説明をすることなく剣を構えた。
目を閉じて集中する。
精神を研ぎ澄ませる。
感じる。
この場にいる皆の魂と心、肉体と心臓の音がする。
俺はゆっくりと息を吸い……
一気に吐くと同時に聖剣を振る。
キィンッ!
何かが砕けるような甲高い音がした。
目を開ける。
特に目に見えた変化はない。
(マスター? 今、なにを……)
「こ、これは……!?」
アトリーが驚きの声をあげた。
見ると、さきほどまでとは違い、女が穏やかに呼吸をしていた。
「毒が消えている? そんな、いったいどうして……」
「どうやらうまくいったみたいだな」
「これは、もしかしてイクスが……? 解毒薬は持っていないはずなのに、どうやって……?」
「状態異常を斬ったんだ」
「は?」
擬人化したヒカリが目を丸くした。
「ヒカリは聖剣で、色々なものを斬ることができる。人の感情といった、実体のないものも斬ることができる。なら、状態異常を……毒を斬る、っていうのもできるんじゃないかな、って思ってな」
「な……」
アトリーも目を丸くした。
「ただの思いつきだから、うまくいくかどうか不安だったが……成功したみたいだな。よかった」
「えっと……イクス。君は本当に剣士なのかい……? もしかして、素性を偽って剣士のフリをしている、大賢者さまとか、そういうオチじゃないのかい……?」
「そんなオチはないぞ。俺は落ちこぼれで、どこにでもいる剣士だ」
「「どこにでもいるわけないから(ありません)!!」」
ヒカリとアトリーがぴたりと息を合わせて、いつものようにツッコミを入れるのだった。
途中、何度も後ろを振り返ってしまう。
一人で魔物の大群に立ち向かう勇敢な剣士の手伝いをしたいと思う。
しかし、ぐっと堪えた。
彼は己の身を犠牲にしてくれた。
アトリーたちを助けるために。
そして、遭難者を助けるために。
その献身を無駄にしてはいけない。
無駄にするわけにはいかない。
絶対に遭難者を見つけて助けてみせる!
アトリーはそう決意して、ダンジョンを進んでいく。
「あっ……!?」
ほどなくして、物陰に隠れるようにして倒れている男女を見つけた。
慌てて駆け寄り、その身体を支える。
「大丈夫かい!?」
「うっ……」
アトリーの呼びかけに、男の方は小さく身じろぎをした。
体力を失っているみたいだが、大きな怪我は見当たらない。
問題は女の方だった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
荒い吐息をこぼして、顔を赤くしていた。
熱がある。
それだけではない。
頬が痩けていて、唇が紫色に変色していた。
「これは……もしかして毒なのか?」
アトリーは焦った。
解毒薬は持ってきていない。
3層までに出現する魔物に、毒を使うような相手はいない。
また、毒の罠も5層からだ。
行軍を早くするために、余計な荷物は減らしたのだけど……
それが裏目に出てしまった。
「なんてことだ……まさか、こんなことになっているなんて!」
「どうした?」
「それが、女性の方が毒に……うん?」
自分は今、誰と話をしているのだろう?
怪訝に思い顔を上げると……
「イクス!?」
自分を犠牲にしたはずの男がそこにいた。
――――――――――
「イクスっ、どうしてここに!? あっ、そうか、思いとどまってくれたんだね? よかった……いくら遭難者を探すためとはいえ、イクスを犠牲にするなんてできないからね」
「なんの話だ?」
「うん? だから、魔物の大群への突撃はやめたんだろう?」
「いや、突撃したぞ?」
「え?」
「え?」
話が噛み合わないな。
アトリーはなにを言いたいんだ?
「魔物なら全て蹴散らしてきた。それで、後を追いかけて、追いついた。ただ、それだけの話だろう?」
「……おかしいな。疲れているのかな? 今、幻聴が聞こえたような……」
「それで正しいですよ」
擬人化しているヒカリが、アトリーに同情するような感じで言う。
「マスターは魔物の大群を片付けました」
「え? いや、でも……ありえないだろう?」
「私もそう思うのですが……ですが、実際に目の前で全て斬り伏せていましたからね」
「百を越えて……千に届く魔物の大群を全て斬った? この短時間で? いやいや、そんなバカな……」
「不思議なことじゃないだろう? 相手は、Eランクの魔物ばかりで、Dランクの魔物が少し混じっている程度だ。高ランクの魔法使いが上級魔法を数発使えば、問題なく殲滅できるだろう」
「そ、それはそうなんだけど……でも、イクスは剣士で……い、いったいどうなっているんだ……?」
アトリーは頭を抱えてしまう。
俺は、それほどおかしいことを言っただろうか?
言っていないよな?
「私のマスターは、何度も常識を壊してくれますね。驚き疲れてしまいますが……ですが、誇らしくもありますね。私は、このマスターの従者なのですよ、と胸を張ることができますよ」
「誇るところなのか、それ?」
「しかし、マスターを剣士というカテゴリーに収めていいのか、迷いますね。剣士を超えたなにか、と表現した方がいいのでは?」
「人をイロモノみたいに言わないでくれよ」
「実際、イロモノじゃないですか」
きついツッコミを入れられてしまう。
「おかしいな……ヒカリはなぜ驚く? 聖剣の力を借りているんだから、これくらいは当たり前だろう?」
「私を使えばそれなりの力を出せますが、マスターの力は、その想像以上ですよ。マスターの力は、私でも計ることができませんね」
「持ち上げるようなことを言わないでくれ。俺なんて、しがない剣士だ」
「しがない剣士が、高ランクの魔法使いと同レベルのことをやれるとは思えませんが」
「ふむ……そうだな。そう言われると、確かに不思議だな。もしかして、俺は高ランクの魔法使いと同じくらいの力を持っているのか?」
「あっ、ようやく自覚したのですか?」
「……いや。そんなことはありえないな。俺は魔法を使えない落ちこぼれだ。自惚れることなく、もっと精進しないといけない」
「どうして、そういう考えになるんですか!」
再びツッコミを入れられてしまう。
ヒカリにあれこれと言われるのも、最近は慣れてきたな。
って、そんなことはどうでもいい。
今は遭難者を優先しないと。
「それで……その二人が遭難者なのか?」
「あ……うん、そうだよ」
アトリーも、今は遭難者のことを優先させることにしたらしい。
気持ちを切り替えた様子で、遭難者のことについて語る。
男は体力を失い動けないものの、大きな怪我はなくて、命に別状はない。
しかし、女は毒を受けているらしく危険な状態だ。
一刻も早く治療しないといけないが、解毒薬がないらしい。
「危ない状態だな」
「わかるのかい?」
「それなりの知識はある。すぐに処置をしないと危険だ」
とはいえ、薬がないのか……
ダンジョン内のマッピングはしている。
数日毎にダンジョンの構造は変化するが、まだその周期ではないはずだ。
急いで戻れば1時間とちょいで地上にたどり着けるかもしれないが……
それじゃあ遅い。
女は体力も失っていて、とてもじゃないけれど、あと1時間も保つように見えない。
ここまできて失敗という事態は避けたい。
どうするか?
「……ヒカリ。以前、負の感情を斬ったことがあるな。あれは、聖剣なら当たり前のようにできることなのか?」
「そうですね。私は聖剣なので、そういうことは得意としていますよ」
ヒカリの言葉を受けて考える。
聖剣ならなんでも斬ることができる。
それならば、俺が考えることも可能なのでは?
「ヒカリ、頼む」
「はい、わかりました」
言われるままヒカリは剣になり、俺の右手に収まる。
(どうするつもりですか?)
(試してみたいことがある)
剣を手に、毒に侵された女の前に立つ。
「アトリー。そのまま、しっかりと抱きかかえておいてくれないか」
「それは構わないけど……いったい、どうするつもりだい?」
「いいから頼んだぞ」
具体的な説明をしたら反対されるかもしれない。
そう思った俺は、説明をすることなく剣を構えた。
目を閉じて集中する。
精神を研ぎ澄ませる。
感じる。
この場にいる皆の魂と心、肉体と心臓の音がする。
俺はゆっくりと息を吸い……
一気に吐くと同時に聖剣を振る。
キィンッ!
何かが砕けるような甲高い音がした。
目を開ける。
特に目に見えた変化はない。
(マスター? 今、なにを……)
「こ、これは……!?」
アトリーが驚きの声をあげた。
見ると、さきほどまでとは違い、女が穏やかに呼吸をしていた。
「毒が消えている? そんな、いったいどうして……」
「どうやらうまくいったみたいだな」
「これは、もしかしてイクスが……? 解毒薬は持っていないはずなのに、どうやって……?」
「状態異常を斬ったんだ」
「は?」
擬人化したヒカリが目を丸くした。
「ヒカリは聖剣で、色々なものを斬ることができる。人の感情といった、実体のないものも斬ることができる。なら、状態異常を……毒を斬る、っていうのもできるんじゃないかな、って思ってな」
「な……」
アトリーも目を丸くした。
「ただの思いつきだから、うまくいくかどうか不安だったが……成功したみたいだな。よかった」
「えっと……イクス。君は本当に剣士なのかい……? もしかして、素性を偽って剣士のフリをしている、大賢者さまとか、そういうオチじゃないのかい……?」
「そんなオチはないぞ。俺は落ちこぼれで、どこにでもいる剣士だ」
「「どこにでもいるわけないから(ありません)!!」」
ヒカリとアトリーがぴたりと息を合わせて、いつものようにツッコミを入れるのだった。



