魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

(マスター、魔物の反応です。ゴブリンがまとめて5匹ほど)
「気をつけて、イクス! 今、僕たちが魔法を……」
「はっ!」

 斬撃を四回。
 五匹ずつ斬り伏せて、ゴブリンの群れを一掃した。



――――――――――



(マスター、魔物の反応です。スライムがまとめて10匹ほど)
「気をつけて、イクス! 今、僕たちが魔法を……」
「ふっ!」

 極大の一撃。
 スライムの群れをまとめで薙ぎ払う。



――――――――――



(マスター、魔物の……)
「気をつけて、イクス! 今……」
「一之太刀……疾風!」

 二人がなにか言うよりも先に、超高速の斬撃を繰り出した。
 襲いかかろうとしていたオーガの首が飛んで、そのまま魔石と化した。



――――――――――



(ふう……)

 ヒカリがため息をこぼした。

(疲れたのか? 休憩するか?)
(いえ、疲れたわけではなくて……驚いているのやら呆れているのやら……そんなところです)
(どういうことだ?)
(私のナビなんて必要ないというように、斬って斬って斬り捨てていますからね。マスターはどれだけ規格外なのですか?)
(そう言われてもな……)

 俺にとってはこれが当たり前のことだ。
 他の剣士を知らない……つまり、『普通』を知らないから、なんともいえない。

(マスター、アトリーさんを見てください)
(うん?)

 言われて後ろを見ると、アトリーを始め、皆、どこか呆然としていた。

「あれだけの魔物を何度も、同時に相手にできるなんて……しかも、ほぼほぼ瞬殺。いったい、イクスはどうなっているんだろう……?」
「ひょっとして、俺たち、役立たずなんじゃあ……?」
「アイツ一人にまかせても問題ないんじゃないか……? むしろ、俺たちがいると足を引っ張るんじゃあ……?」

 暗い顔で、ぶつぶつとつぶやいていた。

(ほら。マスターがやらかすものだから、みなさん、自信を喪失していますよ)
(そんなことを言われてもな……)

 前衛である俺が手を抜くわけにはいかないし……
 俺で完結できるのだから、わざわざ後衛の手を借りる必要性が感じられない。

 もちろん、いざという時は力を貸してもらうつもりでいるが……
 俺一人でなんとかなるのならば、任せてもらいたい。
 楽ができるのなら、それに越したことはないだろうに。

 まあ、俺は俺のやりたいようにやらせてもらおう。
 そう決めて、ダンジョンを進んでいく。

(マスター!)

 目的地の3層にたどり着いて、少しした時のことだ。
 ヒカリが鋭い声を発した。

(魔物の反応か?)
(はい。ですが、これは……)
(どうした?)
(無数の魔物の反応が近づいています。数え切れないほどで……最低でも数百。ひょっとしたら、千に届くかもしれません)
(それほどの数が……)
「イクス、どうしたんだい?」

 俺の様子を見て、アトリーが怪訝そうに問いかけてきた。
 ヒカリの言葉をそのまま伝えてやる。

「な、なんだって!? それほどの数の魔物が!?」

 アトリーが大きな声をあげて驚いた。
 他の冒険者たちは顔を青くしていた。

「確かな情報かい?」
「間違いないだろうな」
「まずいな。もしかしたら……モンスターハウスかもしれない」

 アトリーが顔を青くしたまま、小さな声で言った。
 聞き覚えのない言葉だ。

「モンスターハウス?」
「ダンジョンに存在する罠の一つなんだ。たまにあるんだよ、ありえないほどの数の魔物が湧いて出てくることが」
「なるほど……なぜか知らないが、その罠が発動して……大量に魔物が発生して、ソイツらがここへ向かっている、というわけか」
「でも、モンスターハウスの魔物たちは、その部屋に留まることが普通で、外に出ることなんてないんだけど……」
「わからないことを話しても仕方ない。今は対策を考えよう」
(やれやれですね)

 頭の中でヒカリの呆れたような声が響いた。

(アトリーさんは優秀な魔法使いみたいですが、こういう時に慌てているところを見ると、リーダーの資質があるとは言えませんね)
(そう言うな。百を越える魔物が迫っていると聞いて、冷静でいる方が難しい)
(マスターは冷静ですね?)
(これでも驚いているぞ)
(ぜんぜんそんな風には見えないですが……この事態も、苦労することなく切り抜けられると思っているのでは?)
(否定はしないな)
(肯定されました!? えっ、ホントに切り抜けられるのですか? 百以上の魔物を相手にできるのですか? ありえないのですが……)

 なにやらヒカリが驚いていたが、今は相手をしていられない。
 アトリーと話をしないと。

「どうする?」
「……撤退しよう」

 アトリーの決断は早かった。
 ヒカリが言うほど、リーダーの資質がないとは思えない。

「このままだと全滅は確実だ。そうなる前に引き返そう」
「遭難者はどうなる?」
「……残念だけど、見捨てるしかない。再捜索をする時間もないだろうし……仕方ないよ。このままだと二重遭難になってしまう」
「ふむ」

 アトリーの言うことはもっともだ。

 ただ、このまま撤退をして救助の失敗したとなると、今後の活動に支障が出るかもしれない。
 逆に成功させることができれば、色々と有利に働くだろう。
 遭難者は偉いヤツの関係者と聞くし……

 今後のために、ここでがんばることにするか。

「まて」
「どうしたんだい? 早く撤退の準備をしないと……」
「魔物の群れは俺が食い止める。だから、アトリーはこのまま捜索を続けろ」
「えっ!?」

 合理的な提案をしたつもりなのだけど、なぜか驚かれてしまう。

「キミは死ぬつもりなのかい……? 一人で百を越える魔物を食い止めることなんて……」
「死ぬつもりなんてない。できると思うから、こういう提案をしているだけだ」
「な……」

 アトリーが絶句した。

(俺、おかしいことを言っているか?)

 ヒカリに尋ねてみる。
 ジト目をしているような、そんな声が返ってくる。

(おかしいという自覚がないんですか……? 百を越えて、千に届くかという魔物の大群を一人で相手にする……これがどれだけ異常なことか理解していないんですか?)
(大変なこと、っていうのは理解しているさ。ただ、まだ3層だ。大抵は、さっきのリザードマンのようなEランクの魔物だけで……たまに、オーガのようなDランクが混じっている程度だろう? それくらいの魔物なら、どれだけの数が群れても大した脅威じゃないさ」
(十分な驚異ですよ!?)

 ヒカリが声を荒げてツッコミを入れてきた。

(なんていうか、もう……マスターの常識はおかしいですね。魔力と同時に、常識も忘れてしまったのでしょうか?)
(そんなことはない。これくらいのこと、高ランクの魔法使いなら当たり前のようにやってのけるぞ?)

 上級魔法は戦略級兵器に匹敵する。
 そんなものを連発する高ランクの魔法使いならば、Dランク以下の魔物なんて、いくら群れても敵ではないだろう。

 俺は魔法は使えないが……
 代わりにヒカリがいる。
 聖剣の力を使うことができる。
 ヒカリの力を借りれば、似たようなことはできるだろう、という自信があった。
 俺の剣士としての腕はまだまだだが、ヒカリの神具としての力は確かだからな。

 ……というような考えを話すと、ますますヒカリが呆れた。

(まったく……どうして、マスターはこと自分に関する評価はことさらに低いのでしょうか? なんでそんな考えに至るのか、理解に苦しみます)
(それで、ヒカリは手伝ってくれるか?)
(私はマスターの剣です。マスターの力になれることこそが喜びであり、使命といっても過言ではありません。どうぞ、私を使ってください)
(助かる)

 感謝を忘れないようにしないといけないな。

「とにかく、だ。アトリー、俺に任せてくれないか?」
「しかし……」

 アトリーが迷いを見せた。

「俺のことは気にしなくていい。捨て石程度に考えてくれ。いざとなれば見捨ててくれて構わない。それで恨むことはないし、気にすることもない。前衛が抜けたとしても、大して影響はないだろう? うまくいけば御の字、程度に思ってくれ」
「キミは、どうしてそこまでするんだ……?」
「立ち止まりたくないからだ」

 俺は魔法が使えない。
 だから、代わりに剣の腕を磨いた。
 でも、まだまだ未熟だ。
 もっともっと強くならないといけない。
 だから、たかが魔物の大群ごときに怯むわけにはいかないのだ。

「……わかった。キミに任せるよ。ただ、絶対に無理はしないで。ダメだと思ったら撤退してほしい」
「わかった。約束しよう」
「健闘を祈る」

 アトリーは他の冒険者を連れて、遭難者がいると思わしき方へ駆けていった。
 対する俺は、剣を手に魔物の大群へ向かう。

(ヒカリ、準備はいいか?)
(はい、いつでもどうぞ。私の力の全ては、マスターのために)
(なら……いこうか)

 俺は相棒と共に、一歩を踏み出した。