魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

 一人、脱落してしまうというトラブルがあったけれど……断じて俺のせいじゃない。
 救助隊が編成されて、ダンジョンに挑むことになった。

「みんな、よろしく頼む。遭難者を見つけるだけではなくて、僕たちも誰一人欠けることなく、みんなで無事に帰ろう」

 ダンジョンの入口まで移動したところで、一人の男がそう言った。

 リーダーに選ばれたのは、単独で活動している冒険者のアトリーだった。
 アトリーはCランクの冒険者で、一部ではあるが、上級魔法を使うことができる。
 冒険者としての知識も豊富で、人柄も問題ない。
 それ故に、救助隊のリーダーに選ばれることになった。

「どうして、マスターがリーダーではないのでしょうか? むう……マスターが一番強いのですが。確かに、序列で言うのならばマスターは最下層ですが……力で計るならば、一番上になりますね。そこのところを、もう少し考慮されてもいいと思いますね」

 ヒカリは俺がリーダーに選ばれなかったことが不満らしい。
 小さな声でぶつぶつと文句をこぼしていた。

「俺は助かるけどな。リーダーなんてめんどくさいもの、やってられん」
「でもでも、リーダーなら報酬も大きいですよ?」
「……それでも面倒だからな」
「今、少し迷いましたね」
「うるさい」

 口の減らない聖剣である。

「やあ。少しいいかな?」

 アトリーに話しかけられた。

「なんだ?」
「隊列についての相談があるんだけど……えっと……」
「イクスだ。イクス・シクシス」
「僕は、アトリー・ロックウェイだ。よろしくね」

 笑顔で握手を求めてきた。
 裏に隠している感情はないと思う。

 見た目通りに良いヤツなのだろう。
 握手に応えた。

 その時、とある違和感を覚えた。
 この感触は……

「それで隊列についての相談なんだけど……イクスには前衛をしてほしいんだけど、どうかな?」
「まあ、妥当な判断だな」

 俺のように魔法を使えない者がパーティーに参加する場合は、前衛を務めることがほとんどだ。
 魔法を使えない=攻撃力を持たない、ということになるため、敵の攻撃から味方を守るタンク役が割り当てられる。

 まあ、魔法使いには結界があるため、今の時代、タンクも廃れているが……
 いるのならば、それはそれで問題はない。

「前衛はイクスだけになってしまうけど……でも、イクスの腕なら問題はないと思う。それに、僕たちもすぐに攻撃をして、できる限り負担をなくそうと思う。どうかな?」
「どうもこうも、別に問題はない。剣士が前衛をやるのは、当たり前のことだろう?」
「そう言ってくれると助かるよ。ナビは僕が務めるから、イクスは前衛に集中してほしい」
「わかった」
「それじゃあ、よろしく頼むよ」

 そう言い残して、アトリーは後ろの方に下がった。
 それを見たヒカリが唇を尖らせる。

「自分だけ安全なところに退避して、マスターを前に押し出そうとするなんて……気に入らないですね」
「自己保身ってわけじゃない。こうすることが、今の時代、当たり前のことなんだ」
「マスターはなにも思うところはないのですか?」
「なにもないぞ?」

 剣士などは前衛を務める。
 魔法使いは後衛を務める。
 それが当たり前の常識なので、疑問を持ったことはない。

「この時代の剣士は、本当に不遇な扱いを受けているのですね……そして、マスターもそれを受け入れていて、疑問に思わないなんて……むう、モヤモヤします」
「なんでヒカリがそんな顔をするんだ?」

 ヒカリは納得がいかないというように、微妙な表情をしていた。

「マスターのことが心配だからに決まっています。マスターが余計な心労を抱えていないかどうか……マスターの剣として、主を心配するのは当たり前のことですよ」
「……そっか」

 今まで誰かに心配されたことなんてない。
 魔力ゼロの落ちこぼれを気にかける奇特なヤツなんていない。
 実の両親でさえ、俺のことを心配することはなかった。

 でも、ヒカリは違う。
 出会ったばかりなのに、俺のことを心配してくれている。
 気にかけてくれている。
 素直にうれしいと思えた。

「……ありがとな」
「え? どうしてお礼を言うのですか?」
「そういう気分だったんだ、気にするな」

 そこで話を打ち切り、俺たちはダンジョンへ移動した。



――――――――――



 行方不明になった冒険者パーティーは、事前の話によると、3層を目指していたという。
 3層なら、寄り道をしないで階段だけを探していけば、3時間ほどで到着できるだろう。
 アトリーのナビに従いながら、ダンジョンを進んでいく。

 打ち合わせ通り、俺が前衛だ。
 そして、後衛に七人の魔法使い。
 けっこうな大所帯なので、よほどのことがない限り、二重遭難ということにはならないだろう。

 それにヒカリは優れた感知能力を持っているらしく、非常に役立ってくれていた。

(マスター、二時の方向に魔物の反応です。数は三。ランクはEです)
「わかった」

 後衛のアトリーたちに指示を出して、足を止めた。

 様子を見ること少し……
 三匹のリザードマンが現れた。

「気をつけて、イクス! リザードマンだ!」

 アトリーが鋭い声を飛ばしてきた。

「大した身体能力は持たないが、武器を手に戦うという特性がある。下手をしたらDランクの冒険者でも怪我をすることがあるから、決して侮ることはできない魔物だ。イクスは無理のない範囲で足止めを頼む! すぐに僕たちが魔法を……」
「はっ!」

 襲いかかるリザードマンを三匹まとめて斬り伏せた。

「……」
「ん? なんか言ったか? 悪い、戦いに集中してて聞いていなかった」
「いや……なんでもないよ。うん、なんでも……」

 アトリーが唖然としていた。

「いくらEランクのリザードマンとはいえ、三匹をまとめて倒してしまうなんて……しかも、一太刀で。もしかして、僕が思っている以上に、イクスはすごいのでは……?」

 なにやら、そんなつぶやきが聞こえてきたが、スルーしておいた。