魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

「階層主?」

 ヒカリがきょとんと小首を傾げた。

「それぞれの階層を支配する魔物のことだ。強大な力を持っていて、他の魔物を従えている」
「1層のボスという感じでしょうか?」
「その認識で問題ないな」
「こんなところで遭遇するなんて……よくあることなんですか?」
「下層の階層主は自分だけの部屋を持ち、冒険者を待ち構えているが……上層の階層主は部屋を持つことなく、ダンジョンを徘徊しているからな。運が悪いと出くわすことになる」
「なるほど。それで……どうしましょうか?」
「とりあえず見学かな」
「え? 助けないのですか?」

 ヒカリが目を丸くした。

「階層主といっても、まだ1層だ。それほど強くはない。ミノタウロスの方がまだ強い。まあ、四人もいれば問題ないだろう」

 俺の言葉を証明するように、冒険者パーティーは連携のとれた動きを披露して、次々と攻撃魔法を放っている。
 それなりに善戦していた。

「下手に手を出すと、横取りってことで揉める可能性もあるからな。問題のないうちは見学しておいた方がいい」
「ですが、少しもったいないですね。階層主ならば、それに見合う稼ぎを得られそうですが……」
「ヒカリの言う通り、ちょっともったいないな。階層主となれば、魔石は5キログラムは固いだろうしな」
「今すぐ倒しましょう。横取りなんて気にしたらいけません」

 ヒカリの目が金マークになっていた。

「問題のないうちは手を出さないぞ。面倒事はごめんだ」
「残念です」
「まあ、階層主はしばらくしたら復活する。どういう仕組みかわからないが、階層主を含めて、魔物は一定周期で復活するんだ。それ故に、ダンジョンから魔物が消えることはない。ついでにいうと、ダンジョンの構造も一定時間で変化する」
「厄介な場所ですね」
「だからこそ稼げている、っていう現実もあるんだけどな。まあ、今回は運がなかったと思って諦めるしかない。おとなしく、階層主の魔石はあのパーティーに譲ることにしよう」
「いえ……そういうわけにもいかないかもしれませんよ」

 ヒカリが焦りを含んだ声でそう言った。

「ファイアーデトネーション!」
「エアロデトネーション!」
「フリーズデトネーション!」

 冒険者パーティーが魔法を乱打する。
 炎、風、氷……色々な属性の攻撃魔法が炸裂して、階層主の巨大な体を包み込んだ。
 破壊の嵐が吹き荒れて、階層主の体を傷だらけにする。

 しかし……

 超高速で階層主の傷が再生した。
 時間を巻き戻しているかのような異常な速度だ。
 ダメージを与えても与えても、すぐに回復してしまう。

「くそっ、なんて再生速度だ!」
「これが階層主の力……1層だからといって甘く見ていたか!」

 冒険者パーティーに焦りの表情が浮かぶ。

「みんな、離れて!」

 冒険者パーティーの一人が杖を構えた。
 その先端に光が収束していく。

「メガ・ライトデトネーション!」

 中級魔法が炸裂した。
 光があふれて、世界を白く染めていく。
 全てを埋め尽くす光の奔流に階層主が飲み込まれた。

 例えるなら、下級魔法は剣や槍などの対個人の武器だ。
 対する中級魔法は、対攻城兵器。
 威力も範囲も下級魔法とは桁違いで、Bランクの上位の魔物にまでダメージを与えることができる。

 それだけの威力を持つ中級魔法が使われたのだから、階層主とはいえ無事でいられるはずがない。
 ないのだけど……

「ガァアアアアアッ!!!」

 光が晴れると、右肩から先が消失した階層主の姿があった。
 肉と骨が覗いていて、血が滝のように流れ出る。
 しかし、その血が生き物のようにうねり、手の形を取る。
 やがて実体を伴い、右肩から先が再生した。

 再生したものの、痛みは感じていたらしい。
 怒りの咆哮を響かせながら、部下を率いて突撃する。

「ひっ!?」
「し、シールドデトネーション!」

 とっさに、冒険者パーティーの一人が防御魔法を唱えた。
 不可視の壁ができて階層主の一撃を受け止める。
 しかし、他の雑魚にまでは手が回らなかったらしく、乱打を受けていた。
 雑魚の攻撃は結界でなんとかなっているか、階層主の攻撃まで防げるとは思えない。
 攻撃力だけなら、ミノタウロスに近いものがありそうだ。

 ……これ以上はダメだな。

「ヒカリ、頼む」
「はい。マスターの望むままに」

 ヒカリが聖剣に変化して、俺の右手に収まる。

「はっ!」

 剣を手に駆けて、その勢いのまま斬りつけた。
 階層主の肩から腹にかけて深い傷ができる。
 しかし、それもすぐに再生してしまう。

 とはいえ、今の一撃で倒すつもりはない。
 こちらに注意を向けるためのものだ。

「き、君は……?」

 冒険者パーティーのリーダーらしき男が驚いた顔で尋ねてきた。

「コイツは俺が引き受ける。あんたたちは雑魚を頼む」
「わ、わかった!」

 剣を持つ俺を見て、男は微妙な顔になるが……
 このような状況で言い争いをしている場合ではないと悟り、すぐに決断を下した。
 仲間に指示を出して、群れるゴブリンたちを蹴散らしていく。

 いい判断だ。

「グルァ!!!」

 そして狙い通り、階層主は怒りの表情で俺を睨みつけた。
 俺を一番のターゲットとして認識したらしい。

「ガアッ!!!」

 階層主が巨大な棍棒を振り下ろしてきた。
 遅い。
 俺に近接戦を挑むなら、もっと鍛えてから出直してこい。

 一気にしとめる。

 俺は魔剣を鞘に収めた。
 それから前かがみになるように構えて……

「一之太刀……疾風!」

 超速の一撃が階層主の首を斬り飛ばした。
 階層主とはいえ、所詮はゴブリンの亜種。
 そんなヤツに負けるつもりは……

「……おいおい」

 斬り飛ばされた頭と胴体の間に血管のようなものが無数に走り、結合して……再生した。
 まさか、頭を斬り飛ばされても再生できるなんて……

 さすがに予想外だ。
 どうするか?

「グアアアッ!」
「ふっ、はっ!」

 怒り狂う階層主の攻撃を避けながら考える。

(とんでもない再生能力ですね)

 ヒカリが念話で話しかけてきた。

(そうだな。上級魔法で塵も残さずに吹き飛ばさないと、倒せないのかもしれない)
(あるいは、粉微塵に斬り刻むとかでしょうか)
(それは疲れるから、あまりやりたくないな)
(え? できるんですか?)
(できるが、それが?)
(冗談で言っただけなんですが、本当にできるんですか? え? え? おかしくないですか?)
(別におかしくないと思うが)
(おかしいですよ! 普通に考えて、そんなことできませんからね?)

 ヒカリと話をしながら、時折、剣を振るう。
 試しに足の腱を斬るが、すぐに再生して動けるようになった。

「まてよ?」

 ふと思い、連続で階層主を斬りつけた。
 左右の胸の辺りが切り開かれて、二つの心臓が一瞬露わになった。

「なるほど。あれが異常な再生能力の正体か」

 二つの心臓を持つことで、階層主は異常な再生能力を得ているのだろう。
 おそらく、二つの心臓を同時に潰さないといけない。
 片方をつぶしても、すぐに再生するだろう。

(二つの心臓を同時に潰さないといけない……ですか。難しいですね……少しでも遅れれば、すぐに再生してしまう。マスターの斬撃がいかに優れていたとしても、一度に二箇所を攻撃することはさすがに……)
(なんだ、簡単な話じゃないか)
(え?)
(種がわかればつまらない話だな。さっさと終わらせることにしよう)
(え? え? 鉄の塊のような肉体を突き破り、二つの心臓を同時に潰すなんて……いったい、どうするつもりなんですか? いくらなんでも、そんなことは……)
(うん? そんなに難しい話じゃないだろう)
(いえいえいえ、難しいに決まっているじゃないですか。いったい、どうすればそんなことが……)
(まあ、見ていてくれ)
(……さすがに、驚き疲れてきましたよ)
(なんで驚く?)
(いえ……とにかく、できるのならお願いします)

 矢を引き絞るように魔剣を構えた。
 体をまっすぐにして……駆ける!

「ニ之太刀……紫電!」

 一瞬で階層主との距離を詰めた。
 その勢いのまま魔剣を突き出す。

 三段突き。

 階層主の左右の心臓と、ついでに頭を潰しておいた。
 階層主は悲鳴をあげることも許されず、倒れて……その体が魔石に変化した。

「終わり」

 主がやられたことで配下のゴブリンたちは恐慌状態に陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 冒険者パーティーが唖然としていた。
 なにを驚いているのだろうか?

「驚くに決まっていますよ」

 ぼんっ、と擬人化したヒカリがどこか呆れるように言う。

「視認できないほどの速度で動いただけではなくて、超威力の突きを同時に三つも放つ……マスターは、どれだけ人間離れした動きを見せれば気が済むんですか? それだけの力を持つことは、私としては誇らしくありますが、さすがに驚きの方が大きくなってきました……」
「剣の初心者に同じことができるかと問われたら、できないと答えるが……多少練習すれば、これくらいは問題なくできるようになるだろう? 無名の剣士の俺ができるんだから、他の人もできるはずだ」
「できませんから!」

 できないのか?
 そうなのか……?

 他の剣士を見たことがないから、その辺りのことは、よくわからないんだよな。
 一般的な魔法使いの実力ならわかるが、一般的な剣士ってどれくらいの実力なんだ?
 俺は愚直に剣の練習を続けただけだから、大した力は持っていないと思うのだが……
 しかし、ヒカリは違うと言う。
 少しは自信をもっていいんだろうか?

 いや……自信過剰は禁物だ。
 驕ることなく、常に上を目指していないと、すぐに剣が鈍ってしまうだろう。
 剣に関しては、これからも謙虚な気持ちを忘れることなく、まっすぐに向き合っていかないといけない。

「やれやれですね。マスターにかかれば、階層主すら雑魚というわけですね」
「再生能力だけが取り柄の階層主なんて、雑魚だろう? 俺が特別なわけじゃないさ。ある程度の魔法使いなら簡単に倒すことが……」
「できませんから!」

 再びツッコミを入れられてしまう。
 なぜだろうか?
 俺、おかしなことは言っていないよな……?

「あ、あの……」

 冒険者パーティーのリーダーに声をかけられた。
 彼ら、彼女たちは怪我はないみたいだ。

 冒険者パーティーは横に並ぶと……
 揃って頭を下げた。

「「「「ありがとうございました!」」」」

 それから、代表するように一人が話をする。

「あなたのおかげで助かった。本当に感謝している。ありがとう」
「……別に。俺は階層主の魔石が欲しかっただけだ」
「それでも、ありがとう。あなたがいなかったら、俺たちはここで死んでいただろう。命の恩人だ。本当にありがとう、あなたは俺たちの英雄だ!」
「剣士なのにすさまじい力を持っているんだな。本当にすごいと思う。憧れるよ。どうしたら、そんな風になれるんだい?」
「あっ、こら。一人で抜け駆けしないで。あたしにも話をさせなさいよ。こんにちは、剣士さま。助けていただき、ありがとうございます♪ よかったら、今度お食事でも……」
「露骨な真似はしないように。なにはともあれ、本当にありがとうございました。すばらしい腕をお持ちなのですね。憧れてしまいます」

 冒険者パーティーは全員、目をキラキラとさせて、あれこれと話しかけてきた。
 まるで、おとぎ話に出てくる勇者と出会ったような反応だ。

 振り返ると、ヒカリが優しい笑顔を浮かべていた。

「マスターが評価されて、私はとてもうれしいです。これからも、この調子でがんばりましょう。マスターならきっと、本当の英雄になれるはずです」
「……どうだろうな」

 この先、どうなるかはわからないが……
 俺は剣士として、ヒカリと一緒の道を歩いていこうと思う。