魔力ゼロの無能剣士、擬人化した聖剣少女に懐かれて魔法最強の世界を斬り開く

「結婚?」

 いつものように剣の訓練をして……
 その後、部屋に戻ったところで、父と母に大事な話があると言われた。

 どのような話だろうか?
 緊張しながら応接間に移動すると……開口一番、「おまえをクレイン家に婿入させることにした」と言われた。

 俺は……イクス・ヴァルハイトは、18歳でとっくに成人しているので結婚することができる。
 ちなみに、成人は15歳からだ。
 しかし、クレイン家などというところは聞いたこともない。
 今、初めて知ったばかりだ。

「えっと……父さん? それだけじゃ、どういうことなのかわからない。詳しく説明してくれないか?」
「いいだろう、詳しく教えてやる」

 そういう父は厳しい顔をしていた。
 俺に対して、侮蔑に近い視線を送っている。

「我がヴァルハイト家は、宮廷魔術師に就いた者もいる魔法の名門だ。この国の貴族の中で、ヴァルハイト家の名前を知らない者はいない」
「そんな栄誉あるヴァルハイト家ですが……一つ、汚点がありました。それが、イクス……あなたなのですよ」

 追随するように母が言う。
 父と同じように冷たい顔をしていた。
 実の息子に見せる顔じゃない。

「今は魔法の時代です。戦いだけではなくて、日常生活にも魔法が必須と言われています。それほどまでに魔法は便利なもので、深く深く浸透しています。魔法なしでは今の社会は成り立たない、と言われているほどですからね。魔法の重要性、イクスは理解していますか?」
「それは……ああ。理解しているさ」

 神様から授かったといわれている奇跡の力……魔法。
 その力はすさまじいもので、無から有を生み出すことができる。

 魔法が生まれた後、世界の戦争の構図は一変したと聞く。
 圧倒的な力を持つ魔法の前では、剣や槍はまるで役に立たない。
 どれほど優れた剣士であろうと、魔法の一撃で沈んでしまうのだ。

 魔法は戦いに利用されるだけではない。
 人々の日常生活にも深く関係していた。

 火を一瞬で点けることができて……
 光を生み出して闇夜を払い……
 結界を展開して獣を追い払う……

 最強であり、万能の力。
 それが魔法だ。

「魔法の重要性を理解しているのなら、なぜ、イクスは剣を捨てないのですか? 毎日毎日剣を振り続けて……どうして、そんな無駄なことをしているのですか?」
「無駄なんてことは……!」
「無駄です」

 ぴしゃりと言われてしまい、次の言葉を紡ぐことができなくなってしまう。
 代わりに父が口を開く。

「イクス、お前の事情は理解しているつもりだ。お前は誰もが持っているはずの魔力を持っていない……魔力がゼロで、魔法を使うことができない」
「ああ……そうだな」
「イクスのソレは特異体質で、ある意味で病気のようなものだ。病故に魔法を使うことができないことを、わざわざ責めることはしない」

 ウソだ。
 現に、こうして責めているだろう?
 そんなことを思うが、火に油を注ぐだけなので黙っておいた。

「魔力がゼロなのだから、魔法を使うことはできない……しかし、可能性がまったくないわけではないだろう? 訓練を重ねれば、もしかしたら魔法を使えるようになるかもしれない。それなのにおまえときたら、魔法の練習をしないで剣を振るばかりだ。なぜそんなことをする? 剣技なんて無用の長物を習得して、どうするつもりだ?」
「それは、魔法が使えないから、代わりに剣技を磨こうと……」
「その考えが間違っていることになぜ気づかない!?」
「剣なんて時代遅れの代物なのですよ!? まったく役に立たないものを見につけて、イクスはどうするつもりなのですか? 魔法は使えないけれど剣を扱えると、そう言うつもりなのですか? そのようなことをするなんて……恥ずかしい!」

 恥ずかしい、って……

 あんまりな言葉じゃないか?
 俺は、実の親にそんな風に思われていたのか?

 俺なりにできることを探して、堅実に力を身に着けようとしていただけなのに……
 どうして、その努力を認めてくれない?
 確かに魔法は優れた力だけど、剣技も負けていないかもしれないじゃないか。
 剣技を極めれば、いつか魔法を打ち負かすことができるかもしれないのに。

 どうして、俺の気持ちを理解してくれないんだ!?

 どうしようもない悔しさを覚えて、叫びたくなる。

「もうおまえの面倒を見ることはできない。おまえは我がヴァルハイト家の恥さらしだ」
「せめて、最後に私たちの役に立ってちょうだい」
「クレイン家は大した力を持たない貴族だが、それでも、多少は役に立つだろう。縁を結んでおくに越したことはない」
「これが、イクスにしてあげられる、私たちからの最後の贈り物よ」

 贈り物?
 そんないいものではなくて、それは、あんたたちのエゴというんだ……!

 俺はうつむいて、拳を握りしめた。
 その後の話は全て聞き流していたので、まるで覚えていない。

 ただ、俺のためとか、家のためとか……
 父さんと母さんは、そんな話ばかりしていたような気がする。

(俺はただ、褒めてもらいたかっただけなんだけどな……)

 魔法が使えないのなら剣技を磨いて、そして、父さんと母さんの力になりたかった。
 よくやった、と褒めてもらいたかった。

 それだけなのに……
 それだけのことすらも叶わない。

 そう理解した瞬間、色々なものがどうでもよくなった。



――――――――――



 父さんと母さんの話は、あれから1時間ほど続いた。

 今回の縁談がいかにいいものであるかを語り……
 そして、剣は時代遅れで、早く目を覚ますように言われた。

「ああ、そうだな。目が覚めたとも」

 あんな両親に従い、褒められたいと思っていた自分がバカみたいだ。

 どこともしれない貴族のところに婿入りすることが幸せ?
 剣を捨てることが正しい?

 クソくらえ……だ。

 そんな戯言はどうでもいい。
 父さん母さんのことも、もうどうでもいい。
 俺は俺の好きに生きる。
 それを邪魔することは許さない。
 俺の邪魔をするヤツがいるのなら、誰が相手でも、この剣で斬って捨ててやるさ。

「というわけで、さよならだ」

 俺は荷物をまとめて、窓から外に出た。
 さようなら、ヴァルハイト家。
 これからは、ただのイクスとして生きるよ。

 ……こうして、俺は家を捨てた。