窓を突き破って射し込んでくる灼熱の太陽、SIT(特殊犯捜査係)隊員たちから放たれる焦燥が、場の空気を炎上させていた。
防刃ベストを装着し民家へと入っていく彼女の背中を送ってから、数分しか経っていない。しかし、あらかじめ仕込んでおいた盗聴器とカメラは、切断されていた。
小ビルの三階、テナントが入っていない場所に急遽立てられた帳場は、現場から目と鼻の先にある。でなければ、好き好んで冷房設備のない狭い部屋を借りる道理はない。本来であれば、管轄署の会議室で、十分に冷房が効いた環境の中に身を置きたいところなのだが、事件が事件だ。一刻を争う事態に、呑気なことは言っていられない。
「おい、お前んとこの部下はどうなってんだ!」
痺れを切らしたSITの主任警部補が振り返り、唾を飛ばしながら怒鳴った。
いままで、散々彼女の破天荒さに振り回されてきた。ずっと隣にいた自分であれば、その手綱を引いて多少制御することもできる。しかし、自分の手から完全に放れてしまったいま、彼女が何をしようとしているのか皆目見当もつかない。
「……申し訳ありません。自分も、何が起こっているのか――」
次の瞬間、自分の声を遮るように、無線から女性の悲鳴が飛んできた。現場付近で待機していたSITの突入班と繋いでいた無線からだ。
「突入!」
主任警部補の一声で、窓の外の向こうがやけに騒がしくなった気配がした。
嫌な予感が胸をよぎる。
気が付けば捜査本部を飛び出て、階段を一段飛ばしで駆け下りていた。
現場の民家の周りは、マスコミと野次馬で包囲されており、それをかき分けながら規制線の中へと入る。
民家の中から、SIT隊員に両脇を抱えられた岨原が、手錠を掛けられた状態で出てきた。魂が抜けたようなその顔には、赤い手形のようなものがべっとりとくっついていて、グレーのスウェットの腹部には禍々しい赤が染み込んでいる。しかし、怪我をしている様子ではない。
「……嘘だ」
「立ち入らないでくださいっ!」
玄関口を塞ごうとする隊員を払いのけ、靴も脱がずにそのまま上がり込んだ。
ありとあらゆる家具がなぎ倒されている中、部屋の隅で膝を抱え込む少年がまず目に入る。
そしてその傍らに、二人の女性を囲む隊員の姿。顔は装備で隠れていてよく見えないが、その背中からは緊迫感がひしひしと伝わってきた。
「――至急、救急車の手配を!」
ざわざわと蠢く不安に突き動かされ、隊員をかき分けて前に出る。
畳に広がる鮮血――そこで横たわる二人の女性。一人は頬から、もう一人は腹部から大量に出血している。
その場に膝をついた。
体中から血の気が引いていくとはこういうことなのか。
血を流す彼女を見て、白くなった頬を見て、柄にもなく咽び泣いたことに気づいたのは、応援要請を受けて駆けつけた部下たちに支えられてからだった。



