Silent Summer ~姉に初恋を奪われた~




 「アオくん、待った?」
 仕事を終えた麗と共に、碧との待ち合わせ場所へ走る。

 碧は大型ドラッグストアの無料スペースで私たちを待っていた。
「遅くなってごめん!」
「ううん、大丈夫。本読んでた」
 手の中の単行本にはカバーが掛かっている。
「なに読んでたの?」
 麗の質問に碧はふっと笑みを見せて言った。
「内緒」
「キィッ! またかっこつけた!」
 麗はすぐさま碧の返事に文句を言い、賑やかな会話に突入する。
「行こう!」
 私たちはその空気のままわいわいと映画館へ移動した。

 今日は、三人でレイトショーを観に行く。
 私が、今までしたくてもできなかったことを並べていったら、それらをひとつずつ叶えていこう、という話になり――今日が記念すべき第一弾となった。


 ロビーは上映待ちの客でごった返していた。
 テーマパークみたいな風景に胸が高鳴る。大好きな友だちがそばにいることも手伝って、夢の世界に入ったみたいな気持ちになった。
 ――『映画館で映画を見る』
 ……昨日は、ワクワクしすぎて眠れなかったな

 そんなことを思っていたら碧が小さな声で言った。
「むーちゃん、今日映画の途中で眠くなったら、肩貸してくれる?」
「えっ!」
 内緒話のように伝えてきたそれに、私は一瞬で真っ赤になった。
 麗が「なにごとだ」という顔をしてきて、唇をぎゅっと閉じたまま慌てて首を横に振る。
「――ごめん。黙ってすればよかった……ね?」
「いっ、言ってくれて……よかった、心の準備しておかないと……?」
 恥ずかしくて、何を言っているのか分からなくなった。……なんの準備よ、
 自分に突っ込む。
 麗が「チケット取ってくる」と券売機に行ってしまい、私たちの間にまた妙な空気が戻ってきた。

 ポップコーンの甘い匂いと、碧のむずむずしている口元、私の頭の中に現れたお花畑。……どうしよう。

「……」
「……」
 碧が、ちょっと悪戯っぽい表情で私を見た。
 ……この近さはやばすぎじゃ?
「……アオくん、なにか、言って」
 たまらずに言った。
 恥ずかしさに両手で顔を覆う。
 耳まで熱い。
「わかった。言うね」
 碧が急に緊張した。
「あ!」
 その表情を見たら、それが『告白』だと気づけてしまった。
「だめっ! 私が――私が、先に言わないと!」
 碧に約束したのは自分だった。 
 ――話したいことがあるの。……全部終わったら、聞いてくれる?

 あれから、告白するタイミングがないわけじゃなかった。
 ただ復讐が終わって周りが見えるようになって――もしかしてアオくんが好きなのは私?――そこに行き着いた瞬間から、急に恥ずかしくなってしまった。
 ……だって、告白したら、始まっちゃうよ

 それを願っているくせに、まったく矛盾している。

「えっと……、もうちょっと、待ってて、くれる? 私からちゃんと、言うから、だから」
「……」
 碧はなにか考え込むように少し黙ってから、笑顔をくれた。
「わかったよ、むーちゃん」
 だけど、と碧は続けた。
「あんまり待てないよ? むーちゃんが言えなかったら俺が先に言うからね」
「!」
 ……その余裕、反則じゃない?
 もじもじしていると碧がぼそっと「むーちゃん……かわいい」と言った。
 !
 私はまた恥ずかしくなった。

「おまたせ」
 麗が戻ってきた。そして言った。
「てか、ふたりともアウト!」
 麗が私たちの間に流れる甘い何かを笑いでさらっていった。

「……ぎ、ぎりセーフ、じゃない?」
 遠慮のない指摘に、私は真っ赤な顔のままムキになった。
 


 私の世界は、今、動き出している。