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バイトの後で、麗と近くのカフェに入った。
私は周囲の客を気にしながら録画ファイルを麗のスマホに送った。
麗は、暴行を受ける私の映像を見て両手で顔を覆った。
「厚塗りだと思ったら……、むーちゃん、こんなの、やだよ」
「でもメイクって便利なものだよね」
「……」
今なら分かる。睦美の傷痕は油性マジックか母の化粧品で作った偽物のはずだ。
「それとね、ママも睦美の本性に気づいたかもしれないの」
「えっ?」
母は今朝も思いつめた表情で必死に目配せをしてきた。……気付くに決まっている。だってそれは、私がずっと母に送ってきた信号と同じだったから。
「どうにかして、ママとふたりになりたいけど難しいだろうな」
今の睦美は間違いなく警戒している。私と母を近づけないようにこれまで以上に目を光らせるはずだ。
「この動画、ママに見せたいな……」
「だよね、傷痕のことまでばっちり語ってるもんね」
そうなれば私のこれまでの言動の、誤解を解くことができる。
「ねえ、お母さんが気づいたなら、お父さんにも伝わってるって思っていいよね?」
麗の言いたいことも分かる。
母が無理なら父に見せればどうかという提案だ。けれど……
「パパが睦美のしてきたことを知っても、私の味方はしてくれないんじゃないかな」
「まさか、そんなはずないよ」
麗は否定してくれるが、私は弱く首を横に振る。
父は、母と違って自分だけの親ではない。睦美の父でもあるのだ。
「それにママと睦美の母親、両方とつきあってたんだよ。サイテーじゃない?」
母の故郷で過去の話を聞いてから、私は父を嫌いになる努力をしてきた。心の中でも何度もひどい言葉を投げつけた。なのに隙あらば、思い出の中の優しい父が瞼の裏側に現れた。
「子供の頃さ、パパにすごく可愛がってもらったんだよね、それ、なかなか忘れられないね」
「うん。私も覚えてるよ。むーちゃんを溺愛してたもんね」
「遠すぎる過去だけどね」
「……なにか、事情があるかもしれないよ?」
「それよりさ」
心配する麗のためにこの話題を終わらせる。じゃないと、私の愚痴はきっと終わらない。
「睦美の本性をみんなに見せたいんだけど、どうしたらいいと思う?」
他人の懐に入るのが上手な睦美が、万が一にも味方を作らないよう、徹底的にその人間関係を壊したい。
「たとえば睦美が油断するような場所で私とふたりきりになれば、いつもの睦美になると思うんだ。そこをこっそりみんなに見せるとか、そんなのが理想なんだけど」
「大学生だったら学園祭とかサークルのイベントとかありそうだけど」
「うーん」
学園祭は秋だし、サークルの歓迎会などは終わっているようだし。
「なら合コンとか?」
「合コンかあ、問題は私が睦美の交友関係に手を出せないってことなんだよね。それに、私が誘っても誰も来てくれないよ」
「……」
麗が指先を顎に当てて考え始めた。
私も、腕組みをして眉間を寄せて悩む。
「あ」
急に閃いた。
「ちょっと前に、睦美に紹介された人がいるんだけど」
須賀のことを思い出した。
私に酷い言葉をぶつけてこなかった『睦美の男』は彼だけだった。根が優しい人なのだろう。
彼なら、あるいは合コンの幹事ぐらいにはなってくれるんじゃないだろうか。
「連絡先分かるの?」
「……わかんない」
こんなことならあのとき、もう少し仲良くしておくんだった。
「でも同じ大学だし学部は知ってるし、何とかなると思う!」
私は自分に言い聞かせる。……大丈夫。きっと。……無理でもなんとかしよう!
「今のむーちゃん、なんか子供の頃を思い出すよ」
しみじみと言う麗に、私は心から笑顔になった。
……そうだね、昔の私は“こういう私”だったよね
「ねえねえ、私にもその彼、紹介して! 私も協力したい」
「ありがとう!」
――麗のアシストを援軍に、私は影のように動きながら須賀に接触することに成功した。

