鬼神様は女狐がお好き!

 影一郎は、そんな直子をしばらく見つめていた。
 責めるようでも、試すようでもない、ただ静かな視線。

 その沈黙が、なぜか怖かった。

 ――褒められるということは、期待されるということだ。

 期待されるということは、役に立つ存在だと認められるということだ。
 そんなものは、直子の人生にはなかった。

 鬼神家に来てから、影一郎は、何度も、何度も、彼女を褒めた。
 文字を読む速さ、状況を把握する早さ、問いに対する答えの的確さ。

 そのたびに、直子の心は小さく揺れた。
 価値がある存在だと思わされる度に、餌になる現実が受け止められなくなる。

(影一郎様は意図して私を褒めている? 餌を褒める意味ある?)

 直子は影一郎という存在が分からなかった。

 影一郎にとって直子がいかに特別な存在か彼女は知らない。

 彼は一族の前で感情を隠しながらも、直子が自分を「死んでもいい存在」から「失われてはいけない存在」と思えるように導いていた。

 直子は本当は何もかも分かっていた。

 双子が生まれた瞬間、双子の片割れは隠して毒餌に使う予定だったこと。