鬼神様は女狐がお好き!

 生まれ落ちた赤子の顔を覗き込んだ瞬間、居並ぶ鬼たちは息を呑んだ。
 あるべきは、鬼の証である燃えるような赤い瞳ではない。

 影一郎の瞳は、夜更けの藤を思わせる紫色をしていた。

 その色を見て誰もが悟った。

 冬子はただの人間ではない。人と雪女の混血ーー人心を惑わし、妖すら魅了する忌まわしき雪女の血を引く女だったのだと。

 雪女は冷たい美貌と甘い声で心を縛り理を狂わせる。

『鬼の当主ともあろう方が、人間ごときに子を産ませるなど恥辱』
『この事実が知れ渡れば、鬼は雪女の一族に謀られたと嗤われる』

 重苦しい沈黙の中、結論はすぐに出た。

 影一郎は始末するーーそれが鬼の一族の総意であった。
 だが源三は当主の権限を振りかざし、その決定を退けた。

『影一郎の霊力を見よ。鬼の炎と雪女の氷、双方を操る力を持つ。しかも、その力は並の鬼を遥かに凌ぐ』

 妥協案として出されたのは、残酷な処遇だった。
 影一郎の顔を黒いベールで覆い、その存在を隠したまま鬼の一族の下で従順に育てること。

 鬼の一族の選民思想は凄まじく、混血の存在は許されない。