鬼神様は女狐がお好き!

 艶やかな黒髪を低く結い、深緑の着物に身を包むその横顔は凛としていながらもどこか翳りを帯びている。

 本来ならば、当主夫妻そろって参列すべき祝いの席。
 しかし、当主の源三を人前に立たせることはもはや叶わなかった。

 かつて剛毅と冷静をもって知られた鬼の当主は、今や正気を失っている。

 笑うべきでないところで笑い、怒るべきでないところで怒り、時折、誰もいない空間に向かって愛おしげに語りかける。
 その姿を他の妖に晒すことは、鬼の一族の威信を地に落とすに等しい。

 ゆえに緑子は愛する息子の光一だけを連れ、狐の屋敷へ向かうことになっていた。

 ーーそもそも、すべての歯車が狂い始めたのは、源三が鬼の花嫁制度で嫁いできた人間の女に欲情したあの日からだ。

 妖である鬼は人間に恋などしない。
 人を前にして胸に湧くのは、ただ喰らうべき獲物としての衝動のみ。

 それが鬼という種の理であった。

 それなのに源三は、人間の花嫁である冬子を抱いた。
 白無垢の奥に隠された柔らかな体温に溺れ、禁を破ったのだ。

 その果てに生まれたのが、影一郎である。