一方その頃、鬼神邸では。
「ご当主様、妖狐の一族に動きがあります。どうやら奥様の通われている女学校に、狐神凛介が侵入したそうです」
使用人の声が邸宅の重厚な書斎に響いた。
漆黒の木製机に並べられた書類の上で、影一郎は最新の万年筆を握り締めていた。
「なんだと?」
その声は低く震える炎のように室内に漂った。
書類に向けた手が止まり、影一郎の視線は凛々しい眉間に皺を寄せる。
窓の外、春の桜の上に降った季節外れの雪がゆっくりと舞い落ちた。
花嫁候補の選考会のことが影一郎の脳裏をかすめる。
塚田直子が初恋の「直」だとうっすら気づいた。
しかし、本当に彼女が「直」だと確信したのは彼女の口から「凛介」という名前が出た時だった。
(直は一年以上前もあの男に恋していたな。まだ、あの男を好きなのか⋯⋯)
握りしめた万年筆に、無意識に霜が生じる。
黒いインクの先端が凍りつき、微かに光を反射する。
使用人は慌てて視線を逸らした。
鬼は炎を操る。狐は化ける。
だが、氷を生むのは、雪女の血ーー雪女の霊力。
影一郎の血には、深い秘密が宿っている。
「ご当主様、妖狐の一族に動きがあります。どうやら奥様の通われている女学校に、狐神凛介が侵入したそうです」
使用人の声が邸宅の重厚な書斎に響いた。
漆黒の木製机に並べられた書類の上で、影一郎は最新の万年筆を握り締めていた。
「なんだと?」
その声は低く震える炎のように室内に漂った。
書類に向けた手が止まり、影一郎の視線は凛々しい眉間に皺を寄せる。
窓の外、春の桜の上に降った季節外れの雪がゆっくりと舞い落ちた。
花嫁候補の選考会のことが影一郎の脳裏をかすめる。
塚田直子が初恋の「直」だとうっすら気づいた。
しかし、本当に彼女が「直」だと確信したのは彼女の口から「凛介」という名前が出た時だった。
(直は一年以上前もあの男に恋していたな。まだ、あの男を好きなのか⋯⋯)
握りしめた万年筆に、無意識に霜が生じる。
黒いインクの先端が凍りつき、微かに光を反射する。
使用人は慌てて視線を逸らした。
鬼は炎を操る。狐は化ける。
だが、氷を生むのは、雪女の血ーー雪女の霊力。
影一郎の血には、深い秘密が宿っている。

