鬼神様は女狐がお好き!

「ありがとうございます」
 胸の奥で、何かが静かに動き出すのを直子ははっきりと感じていた。

 それは、恐怖でも義務でもない。
 “未来”という名の初めて自分で選んだ扉だった。

 ♢♢♢

 赤煉瓦の校舎は、青空の下で堂々と佇んでいた。
 洋装の少女たちが行き交い、革靴の音と笑い声が混じり合う。

(ここが、学校)
 期待と不安が、胸の中でせめぎ合う。
 友達など生まれて百年少し出来た試しがない。

 そう思った矢先だった。

「ねえ! 転入生」
 明るい声がして振り向くと、一人の少女が立っていた。

「私、神崎凛子(かんざきりんこ)! 私も今日転入して来たの。あなた、鬼の花嫁になった直子さんだよね?」
 艶やかな長い黒髪。切れ長の瞳に浮かぶ人懐こい笑み。

 あまりにも自然で、あまりにも迷いのない距離感。
 直子は思わず目を瞬いた。

「はい。鬼神直子と申します。こちらこそ、よろしくお願いします」
 そう答えながら、胸の奥がざわめく。

 人間に擬態している。

 理屈では分からないけれど、妖としての感覚が――否応なく告げていた。

(隠していても私には分かってしまうわ凛介様)