鬼神様は女狐がお好き!

 三十年後、この人は死ぬ。
 自分が殺すのだ。

 それなのに、鬼神影一郎は出会った日から出来損ないのはずの自分を誰よりも丁寧に扱う。

 まるで、三十年後が来ないとでも思っているかのように。

 布団の上。

 影一郎の指が、ためらいもなく直子の頬に触れた。
 その瞬間、胸の奥を締め付けられるような痛みが走る。

 仮初の夫婦、美しく優しい夫、何が不満なのか自分でも分かっていた。
 直子にはずっと片想いしている相手がいた。

「り、凛介様」
 声に出してしまってから、直子ははっとする。

 喉がひくりと鳴り、息が詰まった。

 狐神凛介(こがみりんすけ)。

 双子の姉・美々子の許嫁であり、唯一直子を気遣ってくれた存在。
 言ってはいけない名だった。
 部屋の空気が目に見えて冷えた。