心臓が、肋骨を叩き壊さんばかりに暴れていた。
(なに……一体これは、どういうことなの?)
頭の中が真っ白になり、周囲の雑音が遠のいていく。鏡の向こうでは、母が怪訝そうに華夜の顔を覗き込んでいた。
「――華夜? 聞いていますか?」
「! 申し訳ありません……少し、気が緩んでしまいました」
考えるより先に、口が勝手に動いた。自分の意思を置き去りにして、用意された台本をなぞるように発せられた完璧な声音。華夜は、そのおぞましさに思わず口元を押さえた。
「あら、どこか具合でも悪いの?」
母の冷たい指先が、華夜の襟足をなぞり、肩から腰へと滑る。衣服の上から、骨の形や肉付きを確かめるような手つき――それは、極上の商品を検品する、値踏みそのものだった。
背筋に、氷を直接押し当てられたような戦慄が走る。
間違いない。そこには、華夜の記憶にある“前回”と、寸分違わぬ光景が広がっていた。
(同じだ。何もかも……どうして?)
あの時、自分はどうなったのだろう。阿鼻叫喚に包まれた御影の屋敷で、指先から急速に熱を失っていく紘一を抱きしめていた――そこから先の記憶が、白い霧に巻かれたように抜け落ちている。
(夢? いいえ、そんなはずはない……!)
あの血の熱さも、彼が最後に紡いだ言葉の重みも、幻覚と切り捨てるにはあまりにも鮮烈すぎた。
華夜は震える指先で、白無垢の袖に隠れた腕を、肉がちぎれんばかりにつねる。鋭い痛みが走った。
――夢ではない。ここは、紛れもない現実だ。
そう自覚した瞬間、激しい目眩と、胃の底からせり上がるような吐き気が華夜を襲う。喉を焼きかける悲鳴を、歯を食いしばって飲み込んだ。
ここで取り乱せば、御影家へ納品する前に壊れた“不良品”として、さらに過酷な檻に閉じ込められるだろう。そうなれば最後、二度と御影紘一の元へは辿り着けない。
(落ち着け。落ち着くのよ、華夜……!)
強く目を閉じ、暗闇の中で思考を研ぎ澄ます。
原因は分からない。けれど、もしあの惨劇が現実で、この瞬間も現実なのだとしたら、一つだけ、絶対的な事実がある。
これがあの時と同じ運命を辿るなら――今夜、御影紘一は死ぬ。
脳裏に、琥珀色の美しい瞳が濁っていく瞬間が蘇る。親にさえ愛されず、ただの道具として生きてきた自分のために、命を投げ出したあの人。
『守りたいと、思ったからだ』
紘一が最期に放った言葉が、耳の奥で何度も冷たく反響する。
同時に、脳裏をよぎったのは親友・ミツの顔だった。
自分の不用意な一言のせいで、ミツの平穏な日常は理不尽に奪われた。あの時の自分は、ただ恐怖に身を竦め、陰で声を殺して泣くことしかできなかった。自分の無力さが、優しかった大切な友達を、この世界から引き裂いたのだ。
(……もう、あんな風に泣いて終わるなんて絶対に嫌)
今度はミツだけではない、紘一の命そのものまでもが奪われようとしている。このまま運命の歯車に身を任せれば、数時間後、あの屋敷で“再び”彼を死なせることになる。
(二度と、私のせいで大切な人が奪われるのを黙って見ていたりはしない。あの方が死ぬ未来なんて、そんなの納得できないわ)
華夜の胸の奥で、今まで一度も灯ったことのない、烈火のような意志が爆ぜた。
これまで“人形”として息をしてきた華夜は今、初めて自分の意思のために、その技術を武器として使うことを決意した。
「……大丈夫です。ご心配をおかけしました」
華夜は自身の顔を覆っていた絶望を、完璧な微笑みの奥へと完全に調教し、閉じ込めた。
***
再び訪れた、御影の屋敷。
広大な敷地を包む静寂も、何を考えているのか読めない使用人たちの冷めた視線も、記憶にある通りだ。
やがて奥の間へと案内されると、障子越しの灯りの中に、彼はいた。
(紘一様、生きてる……!)
視界が滲みそうになるのを、華夜は喉の奥を噛み締めて堪えた。自分にとっては二度目の対面。だが今この瞬間、彼にとっては“今日初めて会う嫁”との対面だ。その齟齬が、華夜の胸をちりりと焦がした。
「御影紘一だ」
ひんやりと抑揚のない低音。そして、吸い込まれるほど透き通った美しい琥珀色に目を奪われる。前回と寸分違わぬ挨拶なのに、何故か、とくりと心臓が一つ跳ねるのを感じた。
(――って、だめよ! これじゃ前と同じじゃない。見惚れてる場合じゃないわ)
華夜は三つ指をつき、丁寧にお辞儀をした。ここまでは同じだ。
だが、華夜は顔を伏せたまま、あえて前回とは違う言葉を滑り込ませた。
「五条華夜にございます。紘一様。お目にかかれて、光栄に存じます」
前回は名乗るだけで精一杯だった。今回は、微かな敬意を言葉に乗せた。
「……ほう」
畳に顔を伏せている華夜には表情は見えないが、紘一の纏う空気が、前回よりも少しだけ柔らかく動いたように感じた。
(反応が、前とは違う。変えられる……!)
確信が、華夜の背中を貫いた。
この世界は、確定した未来ではない。自分の選択次第で、彼を死なせない結末へ辿り着けるかもしれない。
紘一は前回と同じように華夜の側に歩み寄り、そっとその顔を上げさせた。再び硝子細工のような琥珀色と目が合い、また一つ心臓が跳ねる。
彼は淡々と、記憶と全く同じ声音で告げた。
「……予定通り、これから祝言を進めていくことになるが。お前は、俺と夫婦になる必要はない。」
紡がれるのは、あの時と寸分違わぬ言葉。前回、彼女はこの言葉を冷酷な拒絶だと受け止め、あまりの絶望に目の前が真っ白になった。けれどそれは拒絶などではなく、『御影の妻という立場に華夜を縛りつけるつもりはない』という、彼の不器用な優しさだったのだ。その真意に気づいた華夜は、張り詰めていた糸が切れたように涙を流してしまった。あの時泣き崩れる自分の姿を、彼は放っておけなかったのだろう。帝都最強と謳われる退魔師に、一瞬の心の隙を作らせてしまった。その結果が、あの初夜の部屋での凄惨な襲撃であり、自分を庇った彼が血の海に沈むという地獄絵図だったのだ。
(あの襲撃は何だったのか。偶然の不運か。それとも、私の"体質"が、あの屋敷に悍ましい何かを呼び寄せる引き金になってしまったのか……)
答えは出ない。けれど恐らく、あの時の彼に隙を作らせてしまったのは、他ならぬ自分だったのだろう。
ならば、今夜取るべき道は一つしかない。彼に一切の隙と動揺を与えぬよう、物理的な距離を置くこと。それが、華夜が導き出した唯一の防衛策だった。
だからこそ、彼の『夫婦になる必要はない』という言葉は、彼を守るための最高の口実となる。
「……紘一様。身に余るほど寛大なお言葉、心より感謝申し上げます」
華夜は一呼吸置くと、重い角隠しの下で静かに視線を伏せた。白無垢の胸元を細い指先で軽く押さえ、今にも消え入りそうな、か細い声を絞り出す。
「誠に申し訳ございません。道中の緊張が過ぎたせいか、急にひどい目眩がいたします。今夜、万が一にもお側で粗相をしては、御影家の名に傷をつけてしまいます。ですから……今夜ばかりは別室にて、身を休めさせてはいただけないでしょうか」
華夜の言葉を聞きながら、紘一はただ黙って華夜を見つめていた。その眼差しは、華夜の吐いた嘘を鋭く見抜こうとしているようでもあり、あるいは純粋に、蒼白な顔をした妻を案じているようでもある。そのあまりに真っ直ぐな琥珀の光に耐えられず、華夜は逃げるように目を伏せた。
二人の間に静寂が落ちていた。
(嘘を吐くのは、こんなにも胸が痛むものなの……?)
自分を案じてくれている相手を騙し、あえて遠ざけることの苦しさが、冷たい鉛のように胸の底に溜まっていく。
長い沈黙の末、ふっと息を吐いて緊張を崩したのは紘一だった。
「……そうか。ならば無理はさせん。使用人に案内させよう。今夜はゆっくりと休むが良い」
紘一はそれだけ言うと、先に部屋を出て行った。部屋に残された華夜は一度、大きく息を吐いて気持ちを整える。
(なんとか切り抜けることができたわね……だけど、油断はできない。今日が終わるまでは、何が起こるか分からないんだから。絶対に、隙を与えないように動かなければ)
そう意を決して部屋を出ようとしたところで、襖を隔てた廊下から、微かな話し声が聞こえてきた。紘一と如月だ。
「――如月。一つ良いか」
「旦那様。何でございましょうか」
「屋敷の霊気が揺らいでいて、俺の体調があまり良くないのだ。術にも“障り“が出ている。初夜の儀は中止し、今夜の同衾は避ける。華夜にもそのように話をした。申し訳ないが、宴会が終わったら彼女を私室へ案内してやってくれ」
襖の裏で、華夜はハッと目を見開いた。
(どうして……? 体調が悪いと拒否したのは私よ。紘一様の体調なんて、さっきは一言も言ってなかったじゃない。なんで、理由をすり替えたの?)
紘一の有無を言わせぬ物言いに、如月もまた驚きに目を見開くような気配がした。
「“障り“でございますか? しかし、本日は大安。結界も万全のはずですが――」
「俺の身体のことは、俺が一番よく分かっている。万が一術が暴れれば、彼女の命の保証はできん。五条家から預かった娘に初夜で怪我を負わせたとあっては、家同士の問題にもなりかね無いだろう」
「……左様でございますか。旦那様がそう仰る大禍であれば、致し方ありませんね」
紘一が冷然と言い放つと、何かをゴソゴソと弄る音が聞こえてきた。
「俺の責任で初夜を中止するが、彼女の両親はそれでは納得しないだろう。表向きは、初夜が滞りなく済んだものとして処理してくれ。……これは心付けだ。頼んだぞ」
それは、明らかな隠蔽の指示だった。御影家の厳格な当主が、自ら嘘を命じている。如月は暫く黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「旦那様……いえ、なんでもこざいません。初夜の中止、承知いたしました。では、そろそろ祝言のお時間も迫っておりますので参りましょう」
「ああ、頼んだ。――華夜」
不意に、襖の向こうから低い声で名前を呼ばれ、華夜は息が止まるかと思った。
(まずいっ……! 盗み聞きしてたなんて、気づかれないようにしなきゃ)
背中に冷や汗がどっと噴き出す。だがここで動揺を見せれば、先ほどまでの会話を盗み聞きしていたことが完全に露見してしまう。
華夜は乱れる鼓動を必死に抑え込み、一呼吸置くと、まるで今まさに襖の前まで歩いてきたかのように、優雅な動作で手をかけた。
「はい、紘一様。お呼びでございましょうか」
からりと襖を開けて顔を上げると、そこには端正な顔を相変わらず無表情に引き締めた紘一と、その斜め後ろで影のように佇む如月の姿があった。二人の視線が、同時に華夜へと注がれる。動揺を悟られぬよう、華夜は口角を柔らかく持ち上げて紘一に微笑んだ。
「支度は済んだか。今から祝言の儀へと向かう……顔色が少し優れないようだが、大丈夫か?」
紘一の琥珀色の瞳が、どこか気遣わしげに細められる。
「大丈夫です。ご心配をおかけして、誠に申し訳ございません。参りましょう」
「そうか。無理はするな。何かあったら言えば良い」
「では、旦那様、奥様。祝言の間へとご案内いたします。足元が暗くなって参りましたので、どうぞ私の灯りにお従いくださいませ」
如月が感情の読めない声でそう告げると、手にした燭台の炎を小さく揺らしながら、歩き出した。
一歩、また一歩と、薄暗い廊下を進んでいく。
隣を歩く紘一からは、圧倒的なまでの強者の気配が放たれている。一回目ではただ恐怖の対象でしかなかったその背中が、今の華夜には、ひどく切なく、そして愛おしく見えた。
(すべてを自分の責任にしてまで、私を守ろうとしてくれた人。……今度こそ、私があなたを守ってみせる)
進む先は、あの惨劇へと繋がる祝言の間。
如月の掲げる不穏な灯りに導かれながら、華夜は二度目の運命の歯車を自らの手で回し始めた。
やがて、慌ただしく祝言の儀と披露宴の時間が過ぎていく。
前に見たはずの金屏風の影の不気味な蠢きには注視していたが、不思議なことに今回は全く気配は感じられなかった。そうして披露宴は、拍気抜けするほど平穏に幕を閉じた。
宴が終わり、夜の帳が御影の屋敷を深く包み込む頃。華夜と紘一は、初夜のためという名目で宴会場を後にした。
喧騒から遠く離れ、長い廊下には二つの足音だけが響いている。行灯の淡い光が二人の影を長く伸ばす中、紘一が足を止め、先ほどまでの冷徹な当主の仮面を外して振り返った。
「如月には初夜を中止すると申しつけておいた。今夜は自室でゆっくりと休め。部屋まで案内する」
紘一は表情一つ変えることなく華夜にそう告げる。その何の感情も読み取ることのできない声音に、華夜は堪えきれず一歩前へ出た。
「一つ……よろしいでしょうか」
「なんだ。足りないものがあったか。何でも言え」
「なぜ、嘘をお吐きになったのですか」
華夜は消え入りそうな、けれど確かな芯を持った声で問いかけた。
「貴方の身体に"障り"が出たなど、私は聞いておりません。そもそも、私が目眩がするというのも嘘です……気づいておられたのではないですか」
「……」
「嘘を吐いて初夜を拒否する花嫁など、非常識も甚だしい。侮辱と取られても文句は言えぬ不敬です」
「……ああ。そうだな」
「それを見抜いておきながら、なぜ……わざわざ私を庇うような真似をしたのですか」
言いながら、華夜の声は震えていた。自分の不甲斐なさ、そして、この高潔な男を『嘘の共犯者』にさせてしまったことへの罪悪感が、胸を激しく締め付ける。
紘一は黙ったままだった。吸い込まれそうなほどに澄んだ琥珀色の瞳が、真っ直ぐに華夜を見つめる。そこに、噂されるような冷酷さは微塵もなかった。
「……なぜだろうな。自分でも、柄にもないことをしたと思っている」
ようやく言葉を切り出した紘一の口元に、ふっと微かな、自嘲気味な笑みが浮かぶ。その表情は、どこか己の未熟さを恥じる少年のようでもあった。
「怪しい気の乱れがあれば即座に問い詰めていただろう。退魔師の目は妖魔だけでなく、人間の気の流れにも敏感だ」
紘一は一度視線を落とし、自身の大きな手のひらを見つめ、それから再び華夜の瞳を捉えた。
「お前が嘘を吐いていることも分かっていた。けれどお前の嘘に気づいた瞬間、同時に、俺の口はそれを暴くべきではないと勝手に動いていた。……お前の両親の顔が浮かんだからかもしれない」
「え……」
「お前の両親は、この縁談を進めるために何度もこちらへ足を運んでは、耳触りの良い言葉を並べ立てていた。自分の娘がいかに御影の妻として相応しいかを、誇らしげに説いて。正直に言えば、俺は婚姻など誰が相手でも興味はなかった。だが、俺とて御影の血を繋ぐためだけの道具にすぎん。親戚や使用人どもに急かされ、ただ形式的にこの婚姻を受け入れた。あの両親が育てる娘なら、さぞ浅ましい女なのだろうと、お前に会うことすら億劫に思っていたくらいだ」
初めて聞く紘一の心情に、華夜は言葉が出なかった。紘一はふっと息を漏らし、どこか遠くを見るように目を細める。
「だが今日、お前と初めて顔を合わせた時に思ったのだ。その考えを改めねばならないと。お前は終始、見えぬ何かに怯えたような不安げな顔をしていたから。……その姿が、まるで自分自身を見ているようでな」
紘一は静かに、けれど確かな温かさを宿した声で言葉を紡いでいく。
「初夜を拒否する花嫁がどう思われるか。それを分かっていながらそうしたのなら、お前には、そうせざるを得ない事情があったのだろう。それについて、理由を追及するつもりはない。元より、無理に初夜を済ませるつもりはなかったのだから。……ただあの時の、下手な言い訳をして必死に取り繕おうとするお前を、放っておくことができなかった。それだけだ」
「紘一、様……」
華夜の胸の奥が、熱いもので満たされていく。この人は、何も知らないはずなのに、私の見えない傷に寄り添おうとしてくれたのだ。一度目も、そしてこの二度目も。
「今夜はゆっくり休め。……俺も疲れた。明日また、ゆっくり話でもしよう」
そう言うと、紘一は闇の中へと消えていった。
***
案内された私室で、華夜は一人、行灯の細い火影を見つめていた。
もし、これが五条家での出来事であったなら、間違いなく苛烈な叱責が飛んできただろう。初夜を拒む花嫁など、実家の面汚し以外の何物でもない。ましてや相手は帝都最強の権力者だ。辱められたと取られても文句は言えぬ不敬。
けれど、あの琥珀の瞳に宿っていたのは、支配者の傲慢などではなく、ただ純粋に華夜という一人の人間を案じる、優しい熱だけだった。
(やはり紘一様は――世が噂するような、無慈悲なお方ではないわ。もっと、あの人の心に触れてみたい)
けれど、募る思慕とは裏腹に、華夜の心には拭いきれない不安がこびりついていた。外は、不気味なほどに静まり返っている。
(今夜あの部屋へさえ行かなければ、紘一様は死なないはず、よね)
一回目の惨劇で、彼は「俺の妻に、触れるな」と言って散った。もし、今夜またあの影が訪れたとして――独りで戦う彼は、守るべきものがいないことで、かえって無茶をしないだろうか。
そんな心配を募らせては、彼ならきっと大丈夫だと自分を宥めるように言い聞かせることを繰り返していた華夜は、なかなか眠りにつくことができずにいた。またあの嫌な破壊音が部屋に響くのではないか、また屋敷中が阿鼻叫喚に包まれるのではないか。暗闇の中でじっとひたすらに耳を澄まし、膝を抱えて震え続ける。
――けれど。
やがて、窓の外が青白く明け始めた。
庭から聞こえてくるのは清々しい鳥の声ばかりで、あの悍ましい妖魔の咆哮は、結局一度として響くことはなかった。
(何も、起きなかった……)
華夜は、溢れ出す涙を止められなかった。運命は、この手で変えられる。死の宣告を塗り替え、彼を救うことができたのだ。
華夜は安堵と疲労の入り混じった溜息をつき、習慣のように白小袖の袂へと手を伸ばした。
(……あれ?)
指先に触れるはずの、あの柔らかな温もりがない。
華夜の顔から一気に血の気が引いていく。布団の隅、着替えの影、どこを探しても、掌に収まるはずの白い毛玉――小雪の姿が見当たらない。
(小雪、どこへ行ったの!? まさか――)
焦燥に突き動かされるまま、華夜は身なりを整えるのもそこそこに、慌てて部屋を飛び出した。
朝霧の立ち込める庭園。
(小雪は水浴びが好きだ。もしかしたら、庭園の池の近くにいるかもしれない)
冷たい空気の漂う庭園の奥へと歩みを進めていた華夜は、池の辺りで蹲る一つの大きな影を捉えた。思わず足を止めて近くの茂みへと咄嗟に姿を隠し、そっと様子を窺う。
黒い着流しをわずかに乱し、冷たい露に濡れるのも構わず地面に蹲っているのは、他ならぬ紘一だった。
彼の視線が不自然に一点に固定されていることに気づき、華夜はその先をそっと追う。
――そこに、小雪が佇んでいた。
その姿を捉えた瞬間、ドクン、と華夜の心臓が大きく跳ね上がった。嫌な汗が背中を伝い、胸の中で心臓が恐ろしいほどの早鐘を打ち始める。
(しまった、紘一様が……!)
前回、紘一は小雪の存在を認め、すべてを許してくれた。あの時の彼の選択が、華夜の心を救ったのは紛れもない事実だ。
しかし――“今回の”彼はどう動く?
すでにこの二度目の世界では、あらゆる歯車が前回とは違う噛み合い方を見せ、多くの事象が変わり始めている。本来なら越えられなかった夜を越えた今は、既に未知の領域だ。前回の彼が小雪の存在を許したからといって、いま目の前にいる、まだ何も知らないはずの紘一が、まったく同じ寛容な決断を下す保証なんてどこにもないのだ。
もしも、今回の彼が小雪を拒絶したら。最強の退魔師である彼の指先一つで、あの小さな命など、塵も残さず消し飛ばされてしまう。
最悪のシミュレーションが脳裏を高速でよぎり、喉の奥がカラカラに干からびていく。
(小雪っ――)
華夜が小雪の名前を叫ぼうとしたその時。目の前で広がっていたその光景に、華夜は目を瞠った。
紘一の大きな掌の上で、あの白い毛玉が、こともあろうに喉を鳴らして甘えるように転がっていたのだ。
「お前、どこから入り込んだ。あまり無防備に彷徨いていると、野良猫に喰われるぞ。見つかる前に、早く巣へ帰れ」
柔い低音が、暖かい春風のように庭園の静寂を包み込んでいた。
逃げ出そうともしない小雪を慈しむように、紘一はその長い指先でそっと撫でている。その仕草は、まるで壊れやすい宝物を扱うかのように優しかった。
「キュウ、キュウ」
あんなに臆病で、華夜以外には決して懐かなかった小雪が、紘一の指先に鼻を擦り寄せている。
紘一は足元の泥に目を向けた。昨夜の風で折れたのであろう、金木犀の枝だった。彼がその枝に指先を添え、静かに目を閉じると、蒼い光がふわりと灯り、一瞬にして元の形に繋ぎ直された。それと同時に、枝の先で萎れかけていた小さな蕾が産声を上げるように一斉に咲き誇り、辺り一面に甘い香りがふわりと漂う。
(なんて綺麗な力……これが、退魔師の持つ異能なの……?)
帝都最強の退魔師。それは破壊を司る者の力だと思っていた。けれど目の前の彼は、その強大な霊力を、命を再生させるために使っている。
小さな妖魔も、折れてしまった花木の枝も――実家の両親が無価値として見向きもしないような小さな命を、この男はその大きな手で掬い上げているのだ。
“前回“の彼が見せたあの優しさは、紛れもなく彼の本質だった。その事実に、華夜は張り詰めていた息をそっと吐き出すと、庭園に広がる美しい光景を吸い込まれるように見入っていた。
「キュウッ!」
その時、不意に紘一の掌の上を転がっていた小雪が、歓喜の声を上げて跳ね上がった。
(しまった、小雪に気づかれた……!)
華夜はハッとしたが、今更隠れることなど叶うはずもなく。主人を見つけた白い毛玉は弾かれたように空を飛び、一直線に華夜の胸元へと飛び込んできた。
「あ……っ!」
腕の中に収まった、見紛うことなき愛好の温もり。
けれど、華夜の体は再び緊張で硬直した。毛鞠は華夜の喉元に顔を擦り寄せ、再会を喜んで甘い声を上げているが、華夜は生きた心地がしなかった。
「……見ていたのか」
紘一が、ゆっくりと立ち上がり、こちらを振り返った。
その琥珀色の瞳は、華夜の腕の中で安らぐ小雪を静かに捉えている。
「あ、あの……これは……っ」
「ずっとお前から妙な気配がするとは思っていたが、そいつだったのか。随分と、懐いているな」
「え……?」
恐る恐る顔を上げると、そこには怒りなど微塵も感じさせない、凪いだ表情の紘一が立っていた。彼は華夜を責めるどころか、彼女の腕の中で安心しきっている小雪を、どこか珍しそうな目で見つめている。
「お、怒らないのですか……? 退魔師の家に、このような妖魔を勝手に持ち込んでしまうなど……本来、許されるはずのないことなのに」
おずおずと問いかける華夜の声は震えていた。しかし紘一は、庭に咲き誇る花々を見つめながら、静かに口を開いた。
「妖がすべて悪だとは限らん。それに――」
紘一は少しだけ目を細め、華夜の胸元で喉を鳴らす毛鞠を指差した。
「それは『毛鞠』という種族だ。臆病で警戒心が強く、めったに人里に降りることはない。ましてや人間に寄り付くことなど、一生に一度あるかないかだ。……それほどまでに心を許しているということは、お前がよほど慈しみ、可愛がってきたのだろう」
その言葉に、華夜は息を呑んだ。これが実家であったなら、きっと『気味の悪い生き物を拾ってきた』と蔑まれ、華夜の気持ちなど聞くこともなく切り捨てられたに違いない。だからこそ、この数年もの間、両親どころか五条家に関わる者全てから小雪の存在を隠し通してきたのだ。だが昨日初めて出会ったばかりのこの男は、このごくわずかな時間の中で華夜と小雪の関係を瞬時に読み取り、華夜が小雪と共に在ることを肯定した。それは華夜にとって、初めて『ありのままの自分』を尊重された瞬間だった。
「お前の孤独を、その小さな命が埋めてきたのだろう。それを斬るほど、俺は無粋ではない。御影の家にあるものは、すべて俺の管轄だ。こいつがここに居ることを、俺が許す。誰にもお前たちを咎めさせはしないから、安心しろ」
その一言で、華夜の心を長年縛り続けてきた重い鎖が、音を立てて崩れ落ちていく。前回も今回も、関係ない。彼はいつでも、この圧倒的な器で包み込んでくれるのだ。
「……ありがとう、ございます。ありがとうございます……紘一さん」
初めてその名を呼んだ瞬間、紘一は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。そして、照れ隠しのように視線を逸らすと、「……ああ」と短く応じた。
張り詰めていた空気が、春の陽光に溶けるように和らいでいく。
「キュ、キュウウッ!」
存在の許しを得たことを理解したのか、毛鞠が歓喜の声を上げて華夜の胸元で跳ねた。それだけでは飽き足らず、彼女の首筋に顔を埋めてふさふさの毛を擦り付け、小さな前足でくすぐるようにじゃれつき始める。
「あはっ。こら、小雪っ! くすぐったいわ」
不意の小さな襲撃に、華夜の口から零れたのは、実家で叩き込まれた“淑やかな令嬢の微笑み“ではなかった。
声を立てて笑い、目を細め、じゃれつく小動物を愛おしげに宥める――。それは、過保護な檻の中でずっと押し殺されてきた、華夜という一人の少女の、剥き出しの輝きだった。
「……っ」
その瞬間、紘一の喉が小さく鳴った。
無邪気に笑う華夜の横顔を、彼は言葉を失ったまま凝視していた。朝霧を透かして届く柔らかな陽光を浴びて、華夜の瞳が、肌が、真珠のように発光している。これまでは“精巧な人形“にしか見えなかった彼女が、今、目の前で鮮やかな命の熱を持って息づいている。紘一は、瞬きをすることさえ忘れてその美しい少女の姿に見惚れていた。
「紘一さん?」
視線に気づいた華夜が、頬を上気させたまま小首を傾げる。
紘一はハッとしたように我に返ると、拳を口元に当てて、不自然なほど激しく咳き込んだ。
「お前は……いや、なんでもない」
言いかけて言葉を飲み込み、彼は逃げるように視線を花々へと戻した。
「お前が良ければ、これから街へ出て茶でも飲みに行こう」
「! 街、ですか?」
「嫌か? 無理にとは言わん」
「いいえ……! とても、嬉しいです。すぐにお支度して参ります」
華夜の心に、温かな、くすぐったいような希望が芽生えた。この不器用で、孤独で、誰よりも心優しい“鉄仮面”。彼とならば、いつか本当の、心の通い合う夫婦になれるかもしれない。
朝霧が完全に晴れ、庭園は黄金色の陽光で満たされた。運命は、確かに塗り替えられたのだ。華夜は懐の中の小さな温もりを抱きしめ、初めて、この人と共に歩む未来を想像していた。
(なに……一体これは、どういうことなの?)
頭の中が真っ白になり、周囲の雑音が遠のいていく。鏡の向こうでは、母が怪訝そうに華夜の顔を覗き込んでいた。
「――華夜? 聞いていますか?」
「! 申し訳ありません……少し、気が緩んでしまいました」
考えるより先に、口が勝手に動いた。自分の意思を置き去りにして、用意された台本をなぞるように発せられた完璧な声音。華夜は、そのおぞましさに思わず口元を押さえた。
「あら、どこか具合でも悪いの?」
母の冷たい指先が、華夜の襟足をなぞり、肩から腰へと滑る。衣服の上から、骨の形や肉付きを確かめるような手つき――それは、極上の商品を検品する、値踏みそのものだった。
背筋に、氷を直接押し当てられたような戦慄が走る。
間違いない。そこには、華夜の記憶にある“前回”と、寸分違わぬ光景が広がっていた。
(同じだ。何もかも……どうして?)
あの時、自分はどうなったのだろう。阿鼻叫喚に包まれた御影の屋敷で、指先から急速に熱を失っていく紘一を抱きしめていた――そこから先の記憶が、白い霧に巻かれたように抜け落ちている。
(夢? いいえ、そんなはずはない……!)
あの血の熱さも、彼が最後に紡いだ言葉の重みも、幻覚と切り捨てるにはあまりにも鮮烈すぎた。
華夜は震える指先で、白無垢の袖に隠れた腕を、肉がちぎれんばかりにつねる。鋭い痛みが走った。
――夢ではない。ここは、紛れもない現実だ。
そう自覚した瞬間、激しい目眩と、胃の底からせり上がるような吐き気が華夜を襲う。喉を焼きかける悲鳴を、歯を食いしばって飲み込んだ。
ここで取り乱せば、御影家へ納品する前に壊れた“不良品”として、さらに過酷な檻に閉じ込められるだろう。そうなれば最後、二度と御影紘一の元へは辿り着けない。
(落ち着け。落ち着くのよ、華夜……!)
強く目を閉じ、暗闇の中で思考を研ぎ澄ます。
原因は分からない。けれど、もしあの惨劇が現実で、この瞬間も現実なのだとしたら、一つだけ、絶対的な事実がある。
これがあの時と同じ運命を辿るなら――今夜、御影紘一は死ぬ。
脳裏に、琥珀色の美しい瞳が濁っていく瞬間が蘇る。親にさえ愛されず、ただの道具として生きてきた自分のために、命を投げ出したあの人。
『守りたいと、思ったからだ』
紘一が最期に放った言葉が、耳の奥で何度も冷たく反響する。
同時に、脳裏をよぎったのは親友・ミツの顔だった。
自分の不用意な一言のせいで、ミツの平穏な日常は理不尽に奪われた。あの時の自分は、ただ恐怖に身を竦め、陰で声を殺して泣くことしかできなかった。自分の無力さが、優しかった大切な友達を、この世界から引き裂いたのだ。
(……もう、あんな風に泣いて終わるなんて絶対に嫌)
今度はミツだけではない、紘一の命そのものまでもが奪われようとしている。このまま運命の歯車に身を任せれば、数時間後、あの屋敷で“再び”彼を死なせることになる。
(二度と、私のせいで大切な人が奪われるのを黙って見ていたりはしない。あの方が死ぬ未来なんて、そんなの納得できないわ)
華夜の胸の奥で、今まで一度も灯ったことのない、烈火のような意志が爆ぜた。
これまで“人形”として息をしてきた華夜は今、初めて自分の意思のために、その技術を武器として使うことを決意した。
「……大丈夫です。ご心配をおかけしました」
華夜は自身の顔を覆っていた絶望を、完璧な微笑みの奥へと完全に調教し、閉じ込めた。
***
再び訪れた、御影の屋敷。
広大な敷地を包む静寂も、何を考えているのか読めない使用人たちの冷めた視線も、記憶にある通りだ。
やがて奥の間へと案内されると、障子越しの灯りの中に、彼はいた。
(紘一様、生きてる……!)
視界が滲みそうになるのを、華夜は喉の奥を噛み締めて堪えた。自分にとっては二度目の対面。だが今この瞬間、彼にとっては“今日初めて会う嫁”との対面だ。その齟齬が、華夜の胸をちりりと焦がした。
「御影紘一だ」
ひんやりと抑揚のない低音。そして、吸い込まれるほど透き通った美しい琥珀色に目を奪われる。前回と寸分違わぬ挨拶なのに、何故か、とくりと心臓が一つ跳ねるのを感じた。
(――って、だめよ! これじゃ前と同じじゃない。見惚れてる場合じゃないわ)
華夜は三つ指をつき、丁寧にお辞儀をした。ここまでは同じだ。
だが、華夜は顔を伏せたまま、あえて前回とは違う言葉を滑り込ませた。
「五条華夜にございます。紘一様。お目にかかれて、光栄に存じます」
前回は名乗るだけで精一杯だった。今回は、微かな敬意を言葉に乗せた。
「……ほう」
畳に顔を伏せている華夜には表情は見えないが、紘一の纏う空気が、前回よりも少しだけ柔らかく動いたように感じた。
(反応が、前とは違う。変えられる……!)
確信が、華夜の背中を貫いた。
この世界は、確定した未来ではない。自分の選択次第で、彼を死なせない結末へ辿り着けるかもしれない。
紘一は前回と同じように華夜の側に歩み寄り、そっとその顔を上げさせた。再び硝子細工のような琥珀色と目が合い、また一つ心臓が跳ねる。
彼は淡々と、記憶と全く同じ声音で告げた。
「……予定通り、これから祝言を進めていくことになるが。お前は、俺と夫婦になる必要はない。」
紡がれるのは、あの時と寸分違わぬ言葉。前回、彼女はこの言葉を冷酷な拒絶だと受け止め、あまりの絶望に目の前が真っ白になった。けれどそれは拒絶などではなく、『御影の妻という立場に華夜を縛りつけるつもりはない』という、彼の不器用な優しさだったのだ。その真意に気づいた華夜は、張り詰めていた糸が切れたように涙を流してしまった。あの時泣き崩れる自分の姿を、彼は放っておけなかったのだろう。帝都最強と謳われる退魔師に、一瞬の心の隙を作らせてしまった。その結果が、あの初夜の部屋での凄惨な襲撃であり、自分を庇った彼が血の海に沈むという地獄絵図だったのだ。
(あの襲撃は何だったのか。偶然の不運か。それとも、私の"体質"が、あの屋敷に悍ましい何かを呼び寄せる引き金になってしまったのか……)
答えは出ない。けれど恐らく、あの時の彼に隙を作らせてしまったのは、他ならぬ自分だったのだろう。
ならば、今夜取るべき道は一つしかない。彼に一切の隙と動揺を与えぬよう、物理的な距離を置くこと。それが、華夜が導き出した唯一の防衛策だった。
だからこそ、彼の『夫婦になる必要はない』という言葉は、彼を守るための最高の口実となる。
「……紘一様。身に余るほど寛大なお言葉、心より感謝申し上げます」
華夜は一呼吸置くと、重い角隠しの下で静かに視線を伏せた。白無垢の胸元を細い指先で軽く押さえ、今にも消え入りそうな、か細い声を絞り出す。
「誠に申し訳ございません。道中の緊張が過ぎたせいか、急にひどい目眩がいたします。今夜、万が一にもお側で粗相をしては、御影家の名に傷をつけてしまいます。ですから……今夜ばかりは別室にて、身を休めさせてはいただけないでしょうか」
華夜の言葉を聞きながら、紘一はただ黙って華夜を見つめていた。その眼差しは、華夜の吐いた嘘を鋭く見抜こうとしているようでもあり、あるいは純粋に、蒼白な顔をした妻を案じているようでもある。そのあまりに真っ直ぐな琥珀の光に耐えられず、華夜は逃げるように目を伏せた。
二人の間に静寂が落ちていた。
(嘘を吐くのは、こんなにも胸が痛むものなの……?)
自分を案じてくれている相手を騙し、あえて遠ざけることの苦しさが、冷たい鉛のように胸の底に溜まっていく。
長い沈黙の末、ふっと息を吐いて緊張を崩したのは紘一だった。
「……そうか。ならば無理はさせん。使用人に案内させよう。今夜はゆっくりと休むが良い」
紘一はそれだけ言うと、先に部屋を出て行った。部屋に残された華夜は一度、大きく息を吐いて気持ちを整える。
(なんとか切り抜けることができたわね……だけど、油断はできない。今日が終わるまでは、何が起こるか分からないんだから。絶対に、隙を与えないように動かなければ)
そう意を決して部屋を出ようとしたところで、襖を隔てた廊下から、微かな話し声が聞こえてきた。紘一と如月だ。
「――如月。一つ良いか」
「旦那様。何でございましょうか」
「屋敷の霊気が揺らいでいて、俺の体調があまり良くないのだ。術にも“障り“が出ている。初夜の儀は中止し、今夜の同衾は避ける。華夜にもそのように話をした。申し訳ないが、宴会が終わったら彼女を私室へ案内してやってくれ」
襖の裏で、華夜はハッと目を見開いた。
(どうして……? 体調が悪いと拒否したのは私よ。紘一様の体調なんて、さっきは一言も言ってなかったじゃない。なんで、理由をすり替えたの?)
紘一の有無を言わせぬ物言いに、如月もまた驚きに目を見開くような気配がした。
「“障り“でございますか? しかし、本日は大安。結界も万全のはずですが――」
「俺の身体のことは、俺が一番よく分かっている。万が一術が暴れれば、彼女の命の保証はできん。五条家から預かった娘に初夜で怪我を負わせたとあっては、家同士の問題にもなりかね無いだろう」
「……左様でございますか。旦那様がそう仰る大禍であれば、致し方ありませんね」
紘一が冷然と言い放つと、何かをゴソゴソと弄る音が聞こえてきた。
「俺の責任で初夜を中止するが、彼女の両親はそれでは納得しないだろう。表向きは、初夜が滞りなく済んだものとして処理してくれ。……これは心付けだ。頼んだぞ」
それは、明らかな隠蔽の指示だった。御影家の厳格な当主が、自ら嘘を命じている。如月は暫く黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「旦那様……いえ、なんでもこざいません。初夜の中止、承知いたしました。では、そろそろ祝言のお時間も迫っておりますので参りましょう」
「ああ、頼んだ。――華夜」
不意に、襖の向こうから低い声で名前を呼ばれ、華夜は息が止まるかと思った。
(まずいっ……! 盗み聞きしてたなんて、気づかれないようにしなきゃ)
背中に冷や汗がどっと噴き出す。だがここで動揺を見せれば、先ほどまでの会話を盗み聞きしていたことが完全に露見してしまう。
華夜は乱れる鼓動を必死に抑え込み、一呼吸置くと、まるで今まさに襖の前まで歩いてきたかのように、優雅な動作で手をかけた。
「はい、紘一様。お呼びでございましょうか」
からりと襖を開けて顔を上げると、そこには端正な顔を相変わらず無表情に引き締めた紘一と、その斜め後ろで影のように佇む如月の姿があった。二人の視線が、同時に華夜へと注がれる。動揺を悟られぬよう、華夜は口角を柔らかく持ち上げて紘一に微笑んだ。
「支度は済んだか。今から祝言の儀へと向かう……顔色が少し優れないようだが、大丈夫か?」
紘一の琥珀色の瞳が、どこか気遣わしげに細められる。
「大丈夫です。ご心配をおかけして、誠に申し訳ございません。参りましょう」
「そうか。無理はするな。何かあったら言えば良い」
「では、旦那様、奥様。祝言の間へとご案内いたします。足元が暗くなって参りましたので、どうぞ私の灯りにお従いくださいませ」
如月が感情の読めない声でそう告げると、手にした燭台の炎を小さく揺らしながら、歩き出した。
一歩、また一歩と、薄暗い廊下を進んでいく。
隣を歩く紘一からは、圧倒的なまでの強者の気配が放たれている。一回目ではただ恐怖の対象でしかなかったその背中が、今の華夜には、ひどく切なく、そして愛おしく見えた。
(すべてを自分の責任にしてまで、私を守ろうとしてくれた人。……今度こそ、私があなたを守ってみせる)
進む先は、あの惨劇へと繋がる祝言の間。
如月の掲げる不穏な灯りに導かれながら、華夜は二度目の運命の歯車を自らの手で回し始めた。
やがて、慌ただしく祝言の儀と披露宴の時間が過ぎていく。
前に見たはずの金屏風の影の不気味な蠢きには注視していたが、不思議なことに今回は全く気配は感じられなかった。そうして披露宴は、拍気抜けするほど平穏に幕を閉じた。
宴が終わり、夜の帳が御影の屋敷を深く包み込む頃。華夜と紘一は、初夜のためという名目で宴会場を後にした。
喧騒から遠く離れ、長い廊下には二つの足音だけが響いている。行灯の淡い光が二人の影を長く伸ばす中、紘一が足を止め、先ほどまでの冷徹な当主の仮面を外して振り返った。
「如月には初夜を中止すると申しつけておいた。今夜は自室でゆっくりと休め。部屋まで案内する」
紘一は表情一つ変えることなく華夜にそう告げる。その何の感情も読み取ることのできない声音に、華夜は堪えきれず一歩前へ出た。
「一つ……よろしいでしょうか」
「なんだ。足りないものがあったか。何でも言え」
「なぜ、嘘をお吐きになったのですか」
華夜は消え入りそうな、けれど確かな芯を持った声で問いかけた。
「貴方の身体に"障り"が出たなど、私は聞いておりません。そもそも、私が目眩がするというのも嘘です……気づいておられたのではないですか」
「……」
「嘘を吐いて初夜を拒否する花嫁など、非常識も甚だしい。侮辱と取られても文句は言えぬ不敬です」
「……ああ。そうだな」
「それを見抜いておきながら、なぜ……わざわざ私を庇うような真似をしたのですか」
言いながら、華夜の声は震えていた。自分の不甲斐なさ、そして、この高潔な男を『嘘の共犯者』にさせてしまったことへの罪悪感が、胸を激しく締め付ける。
紘一は黙ったままだった。吸い込まれそうなほどに澄んだ琥珀色の瞳が、真っ直ぐに華夜を見つめる。そこに、噂されるような冷酷さは微塵もなかった。
「……なぜだろうな。自分でも、柄にもないことをしたと思っている」
ようやく言葉を切り出した紘一の口元に、ふっと微かな、自嘲気味な笑みが浮かぶ。その表情は、どこか己の未熟さを恥じる少年のようでもあった。
「怪しい気の乱れがあれば即座に問い詰めていただろう。退魔師の目は妖魔だけでなく、人間の気の流れにも敏感だ」
紘一は一度視線を落とし、自身の大きな手のひらを見つめ、それから再び華夜の瞳を捉えた。
「お前が嘘を吐いていることも分かっていた。けれどお前の嘘に気づいた瞬間、同時に、俺の口はそれを暴くべきではないと勝手に動いていた。……お前の両親の顔が浮かんだからかもしれない」
「え……」
「お前の両親は、この縁談を進めるために何度もこちらへ足を運んでは、耳触りの良い言葉を並べ立てていた。自分の娘がいかに御影の妻として相応しいかを、誇らしげに説いて。正直に言えば、俺は婚姻など誰が相手でも興味はなかった。だが、俺とて御影の血を繋ぐためだけの道具にすぎん。親戚や使用人どもに急かされ、ただ形式的にこの婚姻を受け入れた。あの両親が育てる娘なら、さぞ浅ましい女なのだろうと、お前に会うことすら億劫に思っていたくらいだ」
初めて聞く紘一の心情に、華夜は言葉が出なかった。紘一はふっと息を漏らし、どこか遠くを見るように目を細める。
「だが今日、お前と初めて顔を合わせた時に思ったのだ。その考えを改めねばならないと。お前は終始、見えぬ何かに怯えたような不安げな顔をしていたから。……その姿が、まるで自分自身を見ているようでな」
紘一は静かに、けれど確かな温かさを宿した声で言葉を紡いでいく。
「初夜を拒否する花嫁がどう思われるか。それを分かっていながらそうしたのなら、お前には、そうせざるを得ない事情があったのだろう。それについて、理由を追及するつもりはない。元より、無理に初夜を済ませるつもりはなかったのだから。……ただあの時の、下手な言い訳をして必死に取り繕おうとするお前を、放っておくことができなかった。それだけだ」
「紘一、様……」
華夜の胸の奥が、熱いもので満たされていく。この人は、何も知らないはずなのに、私の見えない傷に寄り添おうとしてくれたのだ。一度目も、そしてこの二度目も。
「今夜はゆっくり休め。……俺も疲れた。明日また、ゆっくり話でもしよう」
そう言うと、紘一は闇の中へと消えていった。
***
案内された私室で、華夜は一人、行灯の細い火影を見つめていた。
もし、これが五条家での出来事であったなら、間違いなく苛烈な叱責が飛んできただろう。初夜を拒む花嫁など、実家の面汚し以外の何物でもない。ましてや相手は帝都最強の権力者だ。辱められたと取られても文句は言えぬ不敬。
けれど、あの琥珀の瞳に宿っていたのは、支配者の傲慢などではなく、ただ純粋に華夜という一人の人間を案じる、優しい熱だけだった。
(やはり紘一様は――世が噂するような、無慈悲なお方ではないわ。もっと、あの人の心に触れてみたい)
けれど、募る思慕とは裏腹に、華夜の心には拭いきれない不安がこびりついていた。外は、不気味なほどに静まり返っている。
(今夜あの部屋へさえ行かなければ、紘一様は死なないはず、よね)
一回目の惨劇で、彼は「俺の妻に、触れるな」と言って散った。もし、今夜またあの影が訪れたとして――独りで戦う彼は、守るべきものがいないことで、かえって無茶をしないだろうか。
そんな心配を募らせては、彼ならきっと大丈夫だと自分を宥めるように言い聞かせることを繰り返していた華夜は、なかなか眠りにつくことができずにいた。またあの嫌な破壊音が部屋に響くのではないか、また屋敷中が阿鼻叫喚に包まれるのではないか。暗闇の中でじっとひたすらに耳を澄まし、膝を抱えて震え続ける。
――けれど。
やがて、窓の外が青白く明け始めた。
庭から聞こえてくるのは清々しい鳥の声ばかりで、あの悍ましい妖魔の咆哮は、結局一度として響くことはなかった。
(何も、起きなかった……)
華夜は、溢れ出す涙を止められなかった。運命は、この手で変えられる。死の宣告を塗り替え、彼を救うことができたのだ。
華夜は安堵と疲労の入り混じった溜息をつき、習慣のように白小袖の袂へと手を伸ばした。
(……あれ?)
指先に触れるはずの、あの柔らかな温もりがない。
華夜の顔から一気に血の気が引いていく。布団の隅、着替えの影、どこを探しても、掌に収まるはずの白い毛玉――小雪の姿が見当たらない。
(小雪、どこへ行ったの!? まさか――)
焦燥に突き動かされるまま、華夜は身なりを整えるのもそこそこに、慌てて部屋を飛び出した。
朝霧の立ち込める庭園。
(小雪は水浴びが好きだ。もしかしたら、庭園の池の近くにいるかもしれない)
冷たい空気の漂う庭園の奥へと歩みを進めていた華夜は、池の辺りで蹲る一つの大きな影を捉えた。思わず足を止めて近くの茂みへと咄嗟に姿を隠し、そっと様子を窺う。
黒い着流しをわずかに乱し、冷たい露に濡れるのも構わず地面に蹲っているのは、他ならぬ紘一だった。
彼の視線が不自然に一点に固定されていることに気づき、華夜はその先をそっと追う。
――そこに、小雪が佇んでいた。
その姿を捉えた瞬間、ドクン、と華夜の心臓が大きく跳ね上がった。嫌な汗が背中を伝い、胸の中で心臓が恐ろしいほどの早鐘を打ち始める。
(しまった、紘一様が……!)
前回、紘一は小雪の存在を認め、すべてを許してくれた。あの時の彼の選択が、華夜の心を救ったのは紛れもない事実だ。
しかし――“今回の”彼はどう動く?
すでにこの二度目の世界では、あらゆる歯車が前回とは違う噛み合い方を見せ、多くの事象が変わり始めている。本来なら越えられなかった夜を越えた今は、既に未知の領域だ。前回の彼が小雪の存在を許したからといって、いま目の前にいる、まだ何も知らないはずの紘一が、まったく同じ寛容な決断を下す保証なんてどこにもないのだ。
もしも、今回の彼が小雪を拒絶したら。最強の退魔師である彼の指先一つで、あの小さな命など、塵も残さず消し飛ばされてしまう。
最悪のシミュレーションが脳裏を高速でよぎり、喉の奥がカラカラに干からびていく。
(小雪っ――)
華夜が小雪の名前を叫ぼうとしたその時。目の前で広がっていたその光景に、華夜は目を瞠った。
紘一の大きな掌の上で、あの白い毛玉が、こともあろうに喉を鳴らして甘えるように転がっていたのだ。
「お前、どこから入り込んだ。あまり無防備に彷徨いていると、野良猫に喰われるぞ。見つかる前に、早く巣へ帰れ」
柔い低音が、暖かい春風のように庭園の静寂を包み込んでいた。
逃げ出そうともしない小雪を慈しむように、紘一はその長い指先でそっと撫でている。その仕草は、まるで壊れやすい宝物を扱うかのように優しかった。
「キュウ、キュウ」
あんなに臆病で、華夜以外には決して懐かなかった小雪が、紘一の指先に鼻を擦り寄せている。
紘一は足元の泥に目を向けた。昨夜の風で折れたのであろう、金木犀の枝だった。彼がその枝に指先を添え、静かに目を閉じると、蒼い光がふわりと灯り、一瞬にして元の形に繋ぎ直された。それと同時に、枝の先で萎れかけていた小さな蕾が産声を上げるように一斉に咲き誇り、辺り一面に甘い香りがふわりと漂う。
(なんて綺麗な力……これが、退魔師の持つ異能なの……?)
帝都最強の退魔師。それは破壊を司る者の力だと思っていた。けれど目の前の彼は、その強大な霊力を、命を再生させるために使っている。
小さな妖魔も、折れてしまった花木の枝も――実家の両親が無価値として見向きもしないような小さな命を、この男はその大きな手で掬い上げているのだ。
“前回“の彼が見せたあの優しさは、紛れもなく彼の本質だった。その事実に、華夜は張り詰めていた息をそっと吐き出すと、庭園に広がる美しい光景を吸い込まれるように見入っていた。
「キュウッ!」
その時、不意に紘一の掌の上を転がっていた小雪が、歓喜の声を上げて跳ね上がった。
(しまった、小雪に気づかれた……!)
華夜はハッとしたが、今更隠れることなど叶うはずもなく。主人を見つけた白い毛玉は弾かれたように空を飛び、一直線に華夜の胸元へと飛び込んできた。
「あ……っ!」
腕の中に収まった、見紛うことなき愛好の温もり。
けれど、華夜の体は再び緊張で硬直した。毛鞠は華夜の喉元に顔を擦り寄せ、再会を喜んで甘い声を上げているが、華夜は生きた心地がしなかった。
「……見ていたのか」
紘一が、ゆっくりと立ち上がり、こちらを振り返った。
その琥珀色の瞳は、華夜の腕の中で安らぐ小雪を静かに捉えている。
「あ、あの……これは……っ」
「ずっとお前から妙な気配がするとは思っていたが、そいつだったのか。随分と、懐いているな」
「え……?」
恐る恐る顔を上げると、そこには怒りなど微塵も感じさせない、凪いだ表情の紘一が立っていた。彼は華夜を責めるどころか、彼女の腕の中で安心しきっている小雪を、どこか珍しそうな目で見つめている。
「お、怒らないのですか……? 退魔師の家に、このような妖魔を勝手に持ち込んでしまうなど……本来、許されるはずのないことなのに」
おずおずと問いかける華夜の声は震えていた。しかし紘一は、庭に咲き誇る花々を見つめながら、静かに口を開いた。
「妖がすべて悪だとは限らん。それに――」
紘一は少しだけ目を細め、華夜の胸元で喉を鳴らす毛鞠を指差した。
「それは『毛鞠』という種族だ。臆病で警戒心が強く、めったに人里に降りることはない。ましてや人間に寄り付くことなど、一生に一度あるかないかだ。……それほどまでに心を許しているということは、お前がよほど慈しみ、可愛がってきたのだろう」
その言葉に、華夜は息を呑んだ。これが実家であったなら、きっと『気味の悪い生き物を拾ってきた』と蔑まれ、華夜の気持ちなど聞くこともなく切り捨てられたに違いない。だからこそ、この数年もの間、両親どころか五条家に関わる者全てから小雪の存在を隠し通してきたのだ。だが昨日初めて出会ったばかりのこの男は、このごくわずかな時間の中で華夜と小雪の関係を瞬時に読み取り、華夜が小雪と共に在ることを肯定した。それは華夜にとって、初めて『ありのままの自分』を尊重された瞬間だった。
「お前の孤独を、その小さな命が埋めてきたのだろう。それを斬るほど、俺は無粋ではない。御影の家にあるものは、すべて俺の管轄だ。こいつがここに居ることを、俺が許す。誰にもお前たちを咎めさせはしないから、安心しろ」
その一言で、華夜の心を長年縛り続けてきた重い鎖が、音を立てて崩れ落ちていく。前回も今回も、関係ない。彼はいつでも、この圧倒的な器で包み込んでくれるのだ。
「……ありがとう、ございます。ありがとうございます……紘一さん」
初めてその名を呼んだ瞬間、紘一は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。そして、照れ隠しのように視線を逸らすと、「……ああ」と短く応じた。
張り詰めていた空気が、春の陽光に溶けるように和らいでいく。
「キュ、キュウウッ!」
存在の許しを得たことを理解したのか、毛鞠が歓喜の声を上げて華夜の胸元で跳ねた。それだけでは飽き足らず、彼女の首筋に顔を埋めてふさふさの毛を擦り付け、小さな前足でくすぐるようにじゃれつき始める。
「あはっ。こら、小雪っ! くすぐったいわ」
不意の小さな襲撃に、華夜の口から零れたのは、実家で叩き込まれた“淑やかな令嬢の微笑み“ではなかった。
声を立てて笑い、目を細め、じゃれつく小動物を愛おしげに宥める――。それは、過保護な檻の中でずっと押し殺されてきた、華夜という一人の少女の、剥き出しの輝きだった。
「……っ」
その瞬間、紘一の喉が小さく鳴った。
無邪気に笑う華夜の横顔を、彼は言葉を失ったまま凝視していた。朝霧を透かして届く柔らかな陽光を浴びて、華夜の瞳が、肌が、真珠のように発光している。これまでは“精巧な人形“にしか見えなかった彼女が、今、目の前で鮮やかな命の熱を持って息づいている。紘一は、瞬きをすることさえ忘れてその美しい少女の姿に見惚れていた。
「紘一さん?」
視線に気づいた華夜が、頬を上気させたまま小首を傾げる。
紘一はハッとしたように我に返ると、拳を口元に当てて、不自然なほど激しく咳き込んだ。
「お前は……いや、なんでもない」
言いかけて言葉を飲み込み、彼は逃げるように視線を花々へと戻した。
「お前が良ければ、これから街へ出て茶でも飲みに行こう」
「! 街、ですか?」
「嫌か? 無理にとは言わん」
「いいえ……! とても、嬉しいです。すぐにお支度して参ります」
華夜の心に、温かな、くすぐったいような希望が芽生えた。この不器用で、孤独で、誰よりも心優しい“鉄仮面”。彼とならば、いつか本当の、心の通い合う夫婦になれるかもしれない。
朝霧が完全に晴れ、庭園は黄金色の陽光で満たされた。運命は、確かに塗り替えられたのだ。華夜は懐の中の小さな温もりを抱きしめ、初めて、この人と共に歩む未来を想像していた。
