蒼い椿椿と騎士科の少女

そして一人ずつ自己紹介を始め、それも終わろうとしていた。

「よし、これで全員自己紹介をしたな。では、これからの生活について説明をしておこう。まず、知っていると思うがこの学校は全寮制だ。この後親御さんと一度会った後、学校に送っているであろう君たちの荷物受け取るために一階昇降口の前に集まってくれ。その後は男女別れて寮母から寮の説明と部屋割り、部屋の鍵が渡されるだろう。これからの生活のことだが、朝学校に来たら、午前中の三時間は座学、昼ごはんと昼休憩を挟んで午後から三時間ほど実技だ。そこの詳しい説明は明日行う。っと、こんなもんかな、質問あるか?」

グレン教官が教室を見回すが、誰も手を挙げる者はいなかった。張り詰めた緊張感の中で、皆、これからの生活を頭の中で整理しているようだった。

「よし、質問がないなら解散だ。各自、親御さんの元へ向かえ。一時間後に昇降口前だ、遅れるなよ」
「「「はい!」」」

グレン教官が教室を出て行った瞬間、張り詰めていた空気が一気に弛緩した。
「ふぅ……緊張したぁ」
マインが机に突っ伏して大きなため息をつく。
「だな。あの教官、まじで首の骨折ってきそうだわ」
レインが苦笑いしながら振り返り、私を見た。
「エルナ、これから親御さんのところに行くんだろ?……大丈夫か?」
「うん。……ちょっと怖いけど、行ってくるね」

私は二人に小さく手を振り、重い足取りで教室を後にした。
校門へと続く並木道には、すでに選定の儀を終えた新入生とその保護者たちが集まり、あちこちで歓声や話し声が響いていた。その賑やかさから少し離れた、大きな桜の木の木陰に、見慣れた厳格な背中を見つける。

「──お父様」
声をかけると、アイゼン家現当主である父が、ゆっくりと振り返った。その紫紺の瞳は氷のように冷たく、私の姿を映すことすら不快であるかのように細められる。
「……表を歩くな、エルナ。我が一族の恥晒しが」
低く、しかし明確な蔑みを孕んだ声が私の頭上から降ってきた。
あまりの冷たさに、心臓がドクンと跳ねる。
「アイゼン家から騎士科などという泥臭い前線職が出るなど、末代までの汚点だ。選定の儀でどれほど光を放とうが関係ない。魔術を極められなかった時点で、お前は我が家の『出来損ない』であり、ただの出来損ないの出来の悪い不良品だ」
「っ、ですが、お父様……私には騎士の適性が──」
「言い訳をするな!」
鋭い怒声に、私は思わず肩をビクッと震わせて言葉を詰まらせた。周りの新入生や保護者の視線が、一瞬こちらに集まるのが分かって耳の奥が熱くなる。
「騎士などという野蛮な力、アイゼンには不要だ。……いいか、お前がアイゼンの姓を名乗ることを許されているのは、ひとえにその血筋ゆえだ。三年のうちに、我が家に相応しい、最高峰の『魔術士』を番として引き摺り込んで契約してみせろ。お前の価値はその一点のみだ。それができぬなら、お前を我が家から除籍し、籍を剥奪する。……分かったな」
「っ……はい、お父様」
それだけを冷酷に言い残し、父は私に二度と視線をくれることなく、迎えの馬車へと乗り込んで去っていった。

残された私は、恥ずかしさと悔しさで涙が出そうになるのを堪え、爪が手のひらに食い込むほど強く拳を握り締めることしかできなかった。