蒼い椿椿と騎士科の少女

重い扉が閉まり、見苦しい叫び声が完全に遮断される。
静まり返った廊下を歩きながら、私はようやく、ずっと張り詰めていた肩の力を抜いた。
「ふぅ……」
小さく息を吐くと、隣を歩いていたシオン様がピタリと足を止めた。
そして私の両肩にそっと手を置き、覗き込むようにして顔を覗かせてくる。
「エレナ、大丈夫かい? ……顔色が悪い。やっぱり、無理をさせてしまったね。ごめん」
シオン様の綺麗な眉が、本当に心配そうに下がっている。
私のために、自分のことのように怒って、自分のことのように心を痛めてくれる。その優しさが、実家で凍りついていた私の心をじんわりと溶かしていく。
「いいえ、大丈夫です。シオン様が一緒にいてくれたから、ちゃんと言いたいことを言えました。……すっきりしました」
私が無理のない笑顔を返すと、シオン様はホッとしたように目元を緩め、私の頬に優しく手を添えた。
「ならよかった。……よく頑張ったね、エレナ」
その温かい手のひらに包まれているだけで、これまでの辛い記憶がすべて消えていくような気がした。シオン様は添えた手をそのまま私の手へと滑らせ、指を絡めるようにして深く、強く握りしめる。
「これからは、もうあの家でお前を傷つけるものは誰もいない。お前を無能と呼ぶ者も、一人にさせることもない」
シオン様は私の目を真っ直ぐに見つめ、愛おしそうに微笑んだ。
「これからは隣に僕がいる。だから何も恐れなくていい。──一緒に歩いて行こう、エレナ。」
「……はい、シオン様!」
繋いだ手から伝わる温もりは、もう二度と離れることはない。
私は最高の相棒の隣で、前よりも少しだけ胸を張って、新しい未来へと歩き出した。

(『蒼い椿と騎士科の少女』・完)