蒼い椿椿と騎士科の少女

「な……ななな、なんだ、この力は……!? 身体強化だけで、これほどの……!」
衝撃でソファから転げ落ちた父親は、腰を抜かしたまま、ガタガタと震えながら私を見上げた。
しかし、しばらくして恐怖が「欲」に変わったのだろう。
父親は顔色を劇的に変え、揉み手をしながら、這いつくばるように私にすり寄ってきた。
「エ、エレナ! おお、我が愛娘(まなむすめ)よ! 素晴らしい! やはりお前は私の娘だ、アイゼン家の誇りだ! さあ、今すぐその契約を『アイゼン家』主導のものに書き直そう。お前がアイゼン家の筆頭騎士としてエストレア家を支えれば、我が家の未来は安泰──」
「──触らないで」
すり寄る手を、私は冷たく振り払った。
その瞳に宿る冷徹な光に、父親がヒッ、と息を呑む。
「……私の器を一度も満たせなかったあなたが、今更どの口で私の父親を名乗るの?」
私はシオン様と顔を見合わせ、彼が私の腰をそっと引き寄せたのを感じてから、父親に真っ直ぐと言葉を突きつけた。
「私は、この家でずっと傷ついていたんです。あなたに無能呼ばわりされるたびに、どれだけ苦しかったか……。だから、私はあなたを絶対に許しません」
「そ、それはお前を育てるための厳しさで──」
「もう遅いです。私はあなたのせいで、深く傷ついた。それは変わりません」
私が静かに、だけど重く告げると、シオン様もまた、底冷えするような声で言葉を重ねた。
「アイゼン伯爵。二度と、僕の騎士にその汚らわしい口を利かないでください。……行きましょう、エレナ」
「はい、シオン様」
私たちは、呆然と立ち尽くす父親に一度も振り返ることなく、応接間を後にした。