シオンさんのそんな弱音、初めて聞いた。いつも余裕を崩さないあのシオンさんが、信じられないくらい必死な顔で、展開した魔法障壁を維持しながら、じりじりと後退している。
魔物たちの凶悪な咆哮が裏庭に響き渡り、障壁がピキピキと音を立てて軋み始めた。このままじゃ、二人とも魔物の餌食になってしまう。
「シオンさん……私のことは置いて、逃げて……っ」
「馬鹿なことを言うな!」
シオンさんが、これまでにないほど激しい怒鳴り声を上げた。振り返った彼の蒼い瞳が、痛々しいほどに歪んでいる。
「君を置いて逃げるくらいなら、僕はここで死んだ方がマシだ!……だけど、嫌だ。君を絶対に死なせたくない。僕の力で、君を護らせてくれ……!」
シオンさんは障壁を維持したまま、私の目の前に片膝をつき、真っ直ぐに私を見つめた。
「エレナ! 約束を破る格好になって申し訳ない。もっと君が強くなるまで待つと言ったけれど……お願いだ。今、僕の番になってくれ!」
「え……っ」
「君と僕の魂を繋げば、君の『身体強化』が覚醒する! そうすれば、この窮地を絶対に切り抜けられる! だから……!」
シオンさんの必死な瞳が、私の心を強く揺さぶる。
彼の力に甘えたくなかった。対等な存在になりたかった。
でも
──私はシオンさんと一緒に生きたい。生きて、これからも彼の隣を歩み続けたい。
「……はい! 私を、シオンさんの番にしてください……!」
涙を浮かべながら私が頷いた瞬間、シオンさんは小さく息を呑み、そして覚悟を決めた顔で自身の細身の剣をサッと抜いた。
「少し痛むよ。我慢して」
シオンさんは私の右手を取ると、その細い人差し指の先を、剣の切っ先でスッと浅く切った。じわりと、赤い血が滲み出る。続いて、シオンさんは迷うことなく自分の指先も同じように浅く切り裂いた。
二人の指先から流れる、赤。
シオンさんは、そのお互いの傷口同士を、ぴったりと重ね合わせた。
「っ……」
傷口を通じて、シオンさんの熱い体温と、ドクドクと脈打つ彼の鼓動がダイレクトに私の身体へ流れ込んでくる。お互いの血が混ざり合い、融け合っていくのがはっきりと分かった。
そのままシオンさんは、私の両肩を掴んでぐっと顔を近づけ、お互いの額を優しく、コツンと合わせた。
至近距離で、彼の美しい蒼い瞳が私だけを映している。
「──契約成立だ、僕の可愛い騎士様」
シオンさんが愛おしそうにそう囁いた、次の瞬間。
『──パキィィィィン!!!』
頭の中で、冷徹で神聖なガラスが砕け散るような、凄まじい音が響き渡った。
世界が反転するような衝撃が全身を駆け巡る。私の体内で眠っていた魔力の奔流が一気に弾け、全身から凄まじい紫紺のオーラが爆発的に噴き出した。
(身体が……軽い……!?)
視界が信じられないほどにクリアになり、全身にみなぎる圧倒的な『力』を感じる。これが……これまで私がずっと使えなかった、身体強化の魔法──。
二人の魔力が完全に一つに繋がり、私の魂がシオンさんの魔力と共鳴しているのが分かった。
「シオンさん、障壁を解いて」
私は、遠くへ転がっていた愛用の騎士剣を引き寄せ、立ち上がった。
かつてないほど鋭い、紫紺の瞳で目の前の魔物たちを睨み据える。
「……いこう、エレナ。僕たちの力を見せてあげよう」
シオンさんが嬉しそうに微笑み、障壁を消し去ると同時に、私は新調されたばかりの騎士服を翻し、爆音を鳴らして地を蹴った。
魔物たちの凶悪な咆哮が裏庭に響き渡り、障壁がピキピキと音を立てて軋み始めた。このままじゃ、二人とも魔物の餌食になってしまう。
「シオンさん……私のことは置いて、逃げて……っ」
「馬鹿なことを言うな!」
シオンさんが、これまでにないほど激しい怒鳴り声を上げた。振り返った彼の蒼い瞳が、痛々しいほどに歪んでいる。
「君を置いて逃げるくらいなら、僕はここで死んだ方がマシだ!……だけど、嫌だ。君を絶対に死なせたくない。僕の力で、君を護らせてくれ……!」
シオンさんは障壁を維持したまま、私の目の前に片膝をつき、真っ直ぐに私を見つめた。
「エレナ! 約束を破る格好になって申し訳ない。もっと君が強くなるまで待つと言ったけれど……お願いだ。今、僕の番になってくれ!」
「え……っ」
「君と僕の魂を繋げば、君の『身体強化』が覚醒する! そうすれば、この窮地を絶対に切り抜けられる! だから……!」
シオンさんの必死な瞳が、私の心を強く揺さぶる。
彼の力に甘えたくなかった。対等な存在になりたかった。
でも
──私はシオンさんと一緒に生きたい。生きて、これからも彼の隣を歩み続けたい。
「……はい! 私を、シオンさんの番にしてください……!」
涙を浮かべながら私が頷いた瞬間、シオンさんは小さく息を呑み、そして覚悟を決めた顔で自身の細身の剣をサッと抜いた。
「少し痛むよ。我慢して」
シオンさんは私の右手を取ると、その細い人差し指の先を、剣の切っ先でスッと浅く切った。じわりと、赤い血が滲み出る。続いて、シオンさんは迷うことなく自分の指先も同じように浅く切り裂いた。
二人の指先から流れる、赤。
シオンさんは、そのお互いの傷口同士を、ぴったりと重ね合わせた。
「っ……」
傷口を通じて、シオンさんの熱い体温と、ドクドクと脈打つ彼の鼓動がダイレクトに私の身体へ流れ込んでくる。お互いの血が混ざり合い、融け合っていくのがはっきりと分かった。
そのままシオンさんは、私の両肩を掴んでぐっと顔を近づけ、お互いの額を優しく、コツンと合わせた。
至近距離で、彼の美しい蒼い瞳が私だけを映している。
「──契約成立だ、僕の可愛い騎士様」
シオンさんが愛おしそうにそう囁いた、次の瞬間。
『──パキィィィィン!!!』
頭の中で、冷徹で神聖なガラスが砕け散るような、凄まじい音が響き渡った。
世界が反転するような衝撃が全身を駆け巡る。私の体内で眠っていた魔力の奔流が一気に弾け、全身から凄まじい紫紺のオーラが爆発的に噴き出した。
(身体が……軽い……!?)
視界が信じられないほどにクリアになり、全身にみなぎる圧倒的な『力』を感じる。これが……これまで私がずっと使えなかった、身体強化の魔法──。
二人の魔力が完全に一つに繋がり、私の魂がシオンさんの魔力と共鳴しているのが分かった。
「シオンさん、障壁を解いて」
私は、遠くへ転がっていた愛用の騎士剣を引き寄せ、立ち上がった。
かつてないほど鋭い、紫紺の瞳で目の前の魔物たちを睨み据える。
「……いこう、エレナ。僕たちの力を見せてあげよう」
シオンさんが嬉しそうに微笑み、障壁を消し去ると同時に、私は新調されたばかりの騎士服を翻し、爆音を鳴らして地を蹴った。
