観客席からは、「やっぱり一騎打ちはきついか……」
「身体強化なしの生身じゃ、シオン様相手に1秒も持たないよ」
と、諦め半分の声がささやかれ始めた。
シオンさんは、どこか切なげな、だけど真剣な蒼い瞳で私を見つめた。
「エレナ。……降伏してくれ。君は身体強化なしで、ここまで本当によく戦った。これ以上、君を傷つけたくないんだ」
その言葉が、優しさから来るものだと分かっている。
けれど、私の胸の奥で、カチリと何かが音を立てた。
(嫌だ。ここで諦めたくない)
頭の中に、マインちゃんの言葉が蘇る。
『1ミリでも後悔するなら、勇気を出した方がいいと思う』
ここで降伏したら、私はきっと、一生後悔する。
出来損ないと言われ続けて、それでも泥をすすりながら磨いてきたこの剣技が、天才相手にどこまで通用するのか試してみたい。何より──。
(ここで諦めたら……シオンさんの隣に立つ資格なんて、私にはない!)
「……シオンさん」
私は震える足にギュッと力を込め、凍った地面を踏みしめた。
そして、愛用の騎士剣を、シオンさんの眉間へと真っ直ぐに突き出す。その瞳に、もう迷いはなかった。
「降伏なんて、絶対にしません。私は……あなたに勝ちたいです!」
私の宣言に、シオンさんがハッと目を見開いた。
次の瞬間、彼の口元が、ゾクッとするほど美しく、嬉しそうな笑みに歪んだ。
「いい目をしているね、エレナ。──なら、僕も全力で勝利を奪いにいく」
シオンさんの姿が、ブレた。
身体強化による圧倒的な突進。瞬きをする間に、彼の魔術剣が私の首元へと迫る。
(速い……! でも、見えるっ!)
数ヶ月間、身体強化に頼らず、相手の骨の動き、視線の先、魔力の流れの「予兆」だけを観察し続けてきた私の目が、シオンさんの軌道を完全に捉えていた。
キンッ──!!
私は最小限の動きでシオンさんの剣を受け流し、そのまま彼の懐へと一歩、決死の踏み込みを見せた。
身体強化がないからこそ、限界まで研ぎ澄まされた生身のスピード。
「しま──」
シオンさんの驚愕の顔が、目の前に迫る。
私の掲げた騎士剣の切っ先が、シオンさんの白いローブの胸元を、正確に捉え──。
寸止め。
ピタリと、私の剣がシオンさんの胸の手前で止まった。
静寂が、リングを支配した。
誰もが息を呑み、何が起きたのか理解できないように目を見開いている。
そして一拍遅れて、実況の魔法拡声器が、ひっくり返ったような声を上げた。
『──しょ、勝者、騎士科、エレナ・アイゼン!!! 身体強化なしでの大金星だあああああ!!!』
ワアアアアアアアアアアアッ!!!!
地鳴りのような、今日一番の、割れんばかりの大歓声が特設リングを揺らした。
「身体強化なしの生身じゃ、シオン様相手に1秒も持たないよ」
と、諦め半分の声がささやかれ始めた。
シオンさんは、どこか切なげな、だけど真剣な蒼い瞳で私を見つめた。
「エレナ。……降伏してくれ。君は身体強化なしで、ここまで本当によく戦った。これ以上、君を傷つけたくないんだ」
その言葉が、優しさから来るものだと分かっている。
けれど、私の胸の奥で、カチリと何かが音を立てた。
(嫌だ。ここで諦めたくない)
頭の中に、マインちゃんの言葉が蘇る。
『1ミリでも後悔するなら、勇気を出した方がいいと思う』
ここで降伏したら、私はきっと、一生後悔する。
出来損ないと言われ続けて、それでも泥をすすりながら磨いてきたこの剣技が、天才相手にどこまで通用するのか試してみたい。何より──。
(ここで諦めたら……シオンさんの隣に立つ資格なんて、私にはない!)
「……シオンさん」
私は震える足にギュッと力を込め、凍った地面を踏みしめた。
そして、愛用の騎士剣を、シオンさんの眉間へと真っ直ぐに突き出す。その瞳に、もう迷いはなかった。
「降伏なんて、絶対にしません。私は……あなたに勝ちたいです!」
私の宣言に、シオンさんがハッと目を見開いた。
次の瞬間、彼の口元が、ゾクッとするほど美しく、嬉しそうな笑みに歪んだ。
「いい目をしているね、エレナ。──なら、僕も全力で勝利を奪いにいく」
シオンさんの姿が、ブレた。
身体強化による圧倒的な突進。瞬きをする間に、彼の魔術剣が私の首元へと迫る。
(速い……! でも、見えるっ!)
数ヶ月間、身体強化に頼らず、相手の骨の動き、視線の先、魔力の流れの「予兆」だけを観察し続けてきた私の目が、シオンさんの軌道を完全に捉えていた。
キンッ──!!
私は最小限の動きでシオンさんの剣を受け流し、そのまま彼の懐へと一歩、決死の踏み込みを見せた。
身体強化がないからこそ、限界まで研ぎ澄まされた生身のスピード。
「しま──」
シオンさんの驚愕の顔が、目の前に迫る。
私の掲げた騎士剣の切っ先が、シオンさんの白いローブの胸元を、正確に捉え──。
寸止め。
ピタリと、私の剣がシオンさんの胸の手前で止まった。
静寂が、リングを支配した。
誰もが息を呑み、何が起きたのか理解できないように目を見開いている。
そして一拍遅れて、実況の魔法拡声器が、ひっくり返ったような声を上げた。
『──しょ、勝者、騎士科、エレナ・アイゼン!!! 身体強化なしでの大金星だあああああ!!!』
ワアアアアアアアアアアアッ!!!!
地鳴りのような、今日一番の、割れんばかりの大歓声が特設リングを揺らした。
