蒼い椿椿と騎士科の少女

シオンさんが静かに杖を掲げた瞬間、リング上の空気が一変した。
「──『氷華繚乱(アイシクル・バースト)』」
シオンさんの足元から、息を呑むほど美しい、けれど容赦のない無数の氷の棘が地面を這って押し寄せてくる。
冷気によって足場は一瞬で凍りつき、ただでさえステージギミックの突風でバランスを崩しやすいリングが、最悪のスケートリンクへと変貌した。
身体強化を持たない私とレインにとって、この足場の悪さは致命的だ。踏み込みの一歩が滑れば、その瞬間に魔術の餌食になる。
「エレナ、左だ!」
「分かってる!」
私たちは互いの声を合図に、背中合わせのまま、氷の棘をギリギリの体捌きで避けていく。
しかし、身体強化を纏う魔術科のスピードは凄まじい。じわじわと体力を削られ、防戦一方になっていく。私の制服の袖が氷の刃にかすり、鋭い痛みが走った。
(強い……っ。これが、本当のシオンさんの実力……!)
「チッ、このままじゃじり貧だな……」
レインが迫り来る氷を剣で弾きながら、小さく悪態をついた。彼の額からも、大量の汗が流れ落ちている。
レインは一瞬だけ私に視線を向け、ニカッと不敵に笑った。
「エレナ。あとは任せたぜ」
「え──」
言いかけるより早く、レインは凍りついた地面を滑るようにして、猛スピードでディルクくんに向かって突ッコウを仕掛けた。
意表を突かれたディルクくんが慌てて防御魔術を展開するが、レインはその盾ごと、ディルクくんの体に力任せに組み付いたのだ。
「うお、おい、離せ騎士科──!」
「離すわけねえだろ! 一緒に落ちやがれぇ!!」
レインはそのままの勢いで、ディルクくんを巻き添えにしながら、リングの場外へと勢いよく飛び出した。
『おおっとーーー!! 騎士科のレイン、魔術科のディルクを巻き込んでまさかの相打ち!! 両者場外、戦闘不能です!!』
実況の声と、観客席からの大歓声が響き渡る。
リングの下でひっくり返っているレインが、親指をグッと立てて私を見上げているのが見えた。あいつ、最初からこの状況を作るために……!
これで、リングの上に残されたのは──私と、シオンさんの二人だけになった。
「はぁ、はぁ……」
激しく肩で息をする私に対して、シオンさんは細身の剣を構えたまま、まだ息一つ乱していない。