その日は、いつも以上に冷え込む朝だった。
リリアーナが冷たい水で屋敷の床を拭いていると、暖かそうな毛皮を羽織った義父が、汚いものを見るような目でこちらを見下ろしてきた。
「おい、手を止めろ。お前に新しい仕事を決めてやった。今日中にこの家を出ていけ。わかったな」
義父が放り投げてよこしたのは、ひどく安っぽい一枚の書状だった。そこには『第十三騎士団・雑用係拝命』と書かれている。
「第十三騎士団……。それって、あの『騎士団のゴミ箱』と呼ばれる……?」
リリアーナの顔からみるみる血の気が引いていく。元々は全員が他の騎士団部隊にいたが、規則違反をした、暴力を振るったなどで凶暴な魔物の餌食になるために送られるという最果ての地。同じ団の上司を殺したという噂まである者もいるという。生きて帰った者はいないと噂される恐ろしい場所だ。
「そうだ。お前のような厄介者をいつまでもタダで養っておけるか。ちょうどあそこが下働きを募集していてな。国から少々の支度金が出るというから、お前の身柄を明け渡す手続きをしてやった。ちょうどお前の両親の遺産がそこをつきはじめていてな。こんなお前にも役に立てることがあるんだ。せいぜい嬉しく思うといい」
ガタガタと震えるリリアーナの背中に、部屋の奥から甲高い笑い声が浴びせられる。豪奢な絹のドレスを着た義姉が、新しく買ってもらったダイヤの指輪を光らせながら、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「ふふ、おめでとうリリアーナ! 貴女には誰も行きたがらないゴミ箱がお似合いよ。あんな不潔な男たちのたまり場で、せいぜいボロ雑巾のようにこき使われるといいわ」
義母もまた、冷酷な笑みを浮かべてお茶をすすっている。
「二度とその薄汚い顔を私たちの前に見せないでおくれ。さあ、馬車が来ているよ。とっとと出て行きなさい」
拒否権など最初からなかった。義父に腕を荒々しく掴まれ、引きずられるようにして屋敷の外へと連れ出される。
待っていたのは、窓に鉄格子がはめられた、まるで罪人を運ぶようなおんぼろの馬車だった。
「行け。国境の森で魔物に食われようが、知ったことではない」
背後で屋敷の重い扉が、大きな音を立てて閉まる。
ガタゴトと激しく揺れ始めた馬車の中で、リリアーナは膝を抱え、ただ静かに涙を流した。もう、嗚咽をこぼす体力もない。これから待ち受けるであろう恐ろしい地獄に、ただ怯え、震えることしかできなかった。
リリアーナが冷たい水で屋敷の床を拭いていると、暖かそうな毛皮を羽織った義父が、汚いものを見るような目でこちらを見下ろしてきた。
「おい、手を止めろ。お前に新しい仕事を決めてやった。今日中にこの家を出ていけ。わかったな」
義父が放り投げてよこしたのは、ひどく安っぽい一枚の書状だった。そこには『第十三騎士団・雑用係拝命』と書かれている。
「第十三騎士団……。それって、あの『騎士団のゴミ箱』と呼ばれる……?」
リリアーナの顔からみるみる血の気が引いていく。元々は全員が他の騎士団部隊にいたが、規則違反をした、暴力を振るったなどで凶暴な魔物の餌食になるために送られるという最果ての地。同じ団の上司を殺したという噂まである者もいるという。生きて帰った者はいないと噂される恐ろしい場所だ。
「そうだ。お前のような厄介者をいつまでもタダで養っておけるか。ちょうどあそこが下働きを募集していてな。国から少々の支度金が出るというから、お前の身柄を明け渡す手続きをしてやった。ちょうどお前の両親の遺産がそこをつきはじめていてな。こんなお前にも役に立てることがあるんだ。せいぜい嬉しく思うといい」
ガタガタと震えるリリアーナの背中に、部屋の奥から甲高い笑い声が浴びせられる。豪奢な絹のドレスを着た義姉が、新しく買ってもらったダイヤの指輪を光らせながら、勝ち誇った笑みを浮かべていた。
「ふふ、おめでとうリリアーナ! 貴女には誰も行きたがらないゴミ箱がお似合いよ。あんな不潔な男たちのたまり場で、せいぜいボロ雑巾のようにこき使われるといいわ」
義母もまた、冷酷な笑みを浮かべてお茶をすすっている。
「二度とその薄汚い顔を私たちの前に見せないでおくれ。さあ、馬車が来ているよ。とっとと出て行きなさい」
拒否権など最初からなかった。義父に腕を荒々しく掴まれ、引きずられるようにして屋敷の外へと連れ出される。
待っていたのは、窓に鉄格子がはめられた、まるで罪人を運ぶようなおんぼろの馬車だった。
「行け。国境の森で魔物に食われようが、知ったことではない」
背後で屋敷の重い扉が、大きな音を立てて閉まる。
ガタゴトと激しく揺れ始めた馬車の中で、リリアーナは膝を抱え、ただ静かに涙を流した。もう、嗚咽をこぼす体力もない。これから待ち受けるであろう恐ろしい地獄に、ただ怯え、震えることしかできなかった。
