「それでは、くじ引きでペアを決める。人数が多いため、10組一斉に試合を行う! 自分が出ない時は、他の試合を観察し、自分に取り入れられそうなところは取り入れ、成長をするように。それでは読み上げる。第一回戦、次を引いた者は指定されたリングへ上がれ!」
教官が次々と名前を読み上げていく。演習場は広大で、床に描かれた魔術陣によって10個の円形リングに区画分けされていた。
「第二回戦! ──魔術科、シオン・エストレヤ! 対、騎士科、ガイル・バックカード!」
二回戦目で、早くもシオンさんの名前が呼ばれた。
「おい、ついにあの適性持ちが出るぞ」と周囲がざわつく中、騎士科のガイルはカバー魔法の光を帯びた騎士剣を肩に担いで不敵に笑っている。
対するシオンさんは、白いローブを静かになびかせながら、足音一つ立てずに中央のリングへと歩み出ていった。
10組がそれぞれのリングで一斉に向かい合う。圧倒的な緊迫感。
「両者、構え! ──始め!!」
教官の合図と同時に、10のリングで一斉に激しい金属音と魔術の爆発音が響き渡った。
だが、その中でもシオンさんのリングだけは、異質だった。
「おおおおお!」
ガイルが凄まじい身体強化の魔力を足元に爆発させ、文字通り一瞬でシオンさんの目の前まで肉薄する。上段から振り下ろされる鋭い一撃。誰もが「もらった!」と思った、その刹那──。
シオンさんは避ける動作すら見せず、長い詠唱をすることもなく、ただ静かに右手をスッと前にかざした。
「──『氷絶(ひょうぜつ)』」
短く呟かれたその言葉の直後、シオンさんの手のひらから、新入生のものとは思えないほど美しく、そして禍々しいほどの圧倒的な蒼い魔力が爆発した。
ゴォッ!!!と周囲の空気が一瞬で凍りつく。
ガイルの剣撃は、シオンさんの体に届く遥か手前で、出現した巨大な氷の壁に阻まれて完全に静止した。
「なっ……がはっ!?」
驚愕に目を見開くガイルの足元から、無数の氷の棘が生き物のように這い上がり、彼の体を一瞬で包み込む。突っ込んできた勢いのまま、ガイルの巨体は派手にリング外へと弾き飛ばされ、壁に叩きつけられてその場に気絶した。
試合開始から、わずか数秒。
他のリングではまだ激しい攻防が続いているというのに、シオンさんのリングだけは、拍手すら起きないほど圧倒的な静寂に包まれていた。
詠唱をほとんど破棄した上での、あの威力と発動速度。
(……嘘でしょ、これが、最高峰の魔術士の力……)
私はその桁違いの強さに、息をすることすら忘れて立ち尽くしていた。シオンさんは倒れた相手に視線すら向けず、すっと右手を下ろして静かにリングを降りていく。
その圧倒的な余韻が冷めやらぬまま、無情にも次のアナウンスが響いた。
「第三回戦! ──騎士科、エレナ・アイゼン! 対、魔術科、ルキア・ヴァイン!」
「ついに私の番だ……」
私は深く息を吐き出し、左腰の騎士剣の柄を強く握りしめた。
「エレナ、頑張って……!」というマインちゃんの声を背に受けながら、指定されたリングへと上がる。
対戦相手の魔術科の女子生徒・ルキアは、私の姿を見るなり、ふっと小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「あら、あなたが『アイゼン家の出来損ない』ね。騎士科に行ったって聞いたときは笑っちゃったわ。大人しく魔術の的にでもなりなさい」
普通の私なら、その言葉に萎縮していただろ。だけど、二週間、死ぬ気で木剣を振り続けてきたのだ。今さら、その程度の言葉じゃ私の心は揺るがない。
「両者、構え! ──始め!!」
合図と同時に、左右のリングにいる騎士科の生徒たちが、一斉に「身体強化」の眩い光をまとって弾丸のように突っ込んでいった。
けれど、私の体は光らない。番契約をしていない私には、身体強化が使えないからだ。
周りの騎士に比べて、明らかに遅い初動。それを見たルキアは「やっぱり、ただの無能じゃない!」と確信したように杖を掲げた。
「──刻め、炎の刃!『フレイムカッター』!」
ルキアの詠唱とともに、激しい炎の刃が三軌道同時に私へと襲いかかる。身体強化がない私なら、まともに喰らえば一発で戦闘不能だ。
(だけど……見えてる……!)
この二週間、身体強化が使えない私とレインは、生身の限界に挑むようなしごきを受けてきた。レインの超高速の太刀筋を何度も目で追い、避けてきたのだ。
普通の魔術士が放つ、詠唱ありの直線的な魔術なんて、レインの剣に比べれば遥かに遅い。
私は生身の動体視力をフル回転させ、最小限のステップで炎の刃を紙一重で躱した。
ジリジリと熱風が肌を焼き、制服のローブが少し焦げる。けれど、私の足は止まらない。
「なっ、避けた……!? ちょ、ちょっと来ないでよ!」
焦ったルキアが、連続して風の弾丸を放ってくる。
私は迫り来る風の塊を、腰から抜いた騎士剣の腹でガツン!と強引に叩き落とした。カバー魔法の火花が散り、腕に激しい衝撃が走るが、剣は絶対に離さない。
一歩、また一歩と、泥臭く、だけど確実に間合いを詰めていく。
「いやっ、来るな──」
ルキアが次の呪文を唱えようとした瞬間、私は一気に踏み込んだ。身体強化がないなら、体重のすべてを乗せて踏み込むだけだ。
──キィィン!
鋭い金属音が響く。
ルキアが慌てて突き出した杖を、私の騎士剣が鮮やかに撥ね飛ばした。
無防備になった彼女の首元へ、私は容赦なく剣を突き出す。
ピタリ、と刃がルキアの喉元の一寸手前で止まった。
「そこまで! 勝者、エレナ・アイゼン!」
教官の声が演習場に響き渡る。
ルキアはその場にへたり込み、恐怖でガタガタと震えていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
剣を引いた私は、肩で大きく息を荒げた。全身の筋肉が悲鳴を上げ、手は汗と衝撃で震えている。周りの騎士たちのような華麗な勝利じゃない。泥だらけで、ボロボロの、不格好な勝利だ。
だけど、周囲からは「おい、あいつ今、身体強化なしで魔術を破ったぞ……」「アイゼン家の出来損ないって、デマかよ……」という、驚愕の囁きが漏れていた。
ふと、強い視線を感じて顔を上げる。
演習場の壁際、特等席のような場所で腕を組んでいたシオンさんが、真っ直ぐに私だけを見つめていた。
その冷徹な蒼い瞳には、さっきのような超然とした冷たさはなかった。泥まみれになりながらも勝利を掴み取った私に対して、確かな「驚き」と、そして静かな「敬意」のような熱が灯っているのが分かった。
シオンさんと目が合った瞬間、私の胸がドクンと激しく脈打つ。
(今はまだ、こんなに泥臭い。あなたには、全然届かないけれど……)
私は、汗を拭いながらシオンさんを真っ直ぐに見つめ返した。
いつか必ず、その圧倒的な強さの隣に、胸を張って堂々と立てるくらいの騎士に、私は絶対になってみせる。
手の中にある騎士剣の重みが、私の決意をさらに強く固めていた。
教官が次々と名前を読み上げていく。演習場は広大で、床に描かれた魔術陣によって10個の円形リングに区画分けされていた。
「第二回戦! ──魔術科、シオン・エストレヤ! 対、騎士科、ガイル・バックカード!」
二回戦目で、早くもシオンさんの名前が呼ばれた。
「おい、ついにあの適性持ちが出るぞ」と周囲がざわつく中、騎士科のガイルはカバー魔法の光を帯びた騎士剣を肩に担いで不敵に笑っている。
対するシオンさんは、白いローブを静かになびかせながら、足音一つ立てずに中央のリングへと歩み出ていった。
10組がそれぞれのリングで一斉に向かい合う。圧倒的な緊迫感。
「両者、構え! ──始め!!」
教官の合図と同時に、10のリングで一斉に激しい金属音と魔術の爆発音が響き渡った。
だが、その中でもシオンさんのリングだけは、異質だった。
「おおおおお!」
ガイルが凄まじい身体強化の魔力を足元に爆発させ、文字通り一瞬でシオンさんの目の前まで肉薄する。上段から振り下ろされる鋭い一撃。誰もが「もらった!」と思った、その刹那──。
シオンさんは避ける動作すら見せず、長い詠唱をすることもなく、ただ静かに右手をスッと前にかざした。
「──『氷絶(ひょうぜつ)』」
短く呟かれたその言葉の直後、シオンさんの手のひらから、新入生のものとは思えないほど美しく、そして禍々しいほどの圧倒的な蒼い魔力が爆発した。
ゴォッ!!!と周囲の空気が一瞬で凍りつく。
ガイルの剣撃は、シオンさんの体に届く遥か手前で、出現した巨大な氷の壁に阻まれて完全に静止した。
「なっ……がはっ!?」
驚愕に目を見開くガイルの足元から、無数の氷の棘が生き物のように這い上がり、彼の体を一瞬で包み込む。突っ込んできた勢いのまま、ガイルの巨体は派手にリング外へと弾き飛ばされ、壁に叩きつけられてその場に気絶した。
試合開始から、わずか数秒。
他のリングではまだ激しい攻防が続いているというのに、シオンさんのリングだけは、拍手すら起きないほど圧倒的な静寂に包まれていた。
詠唱をほとんど破棄した上での、あの威力と発動速度。
(……嘘でしょ、これが、最高峰の魔術士の力……)
私はその桁違いの強さに、息をすることすら忘れて立ち尽くしていた。シオンさんは倒れた相手に視線すら向けず、すっと右手を下ろして静かにリングを降りていく。
その圧倒的な余韻が冷めやらぬまま、無情にも次のアナウンスが響いた。
「第三回戦! ──騎士科、エレナ・アイゼン! 対、魔術科、ルキア・ヴァイン!」
「ついに私の番だ……」
私は深く息を吐き出し、左腰の騎士剣の柄を強く握りしめた。
「エレナ、頑張って……!」というマインちゃんの声を背に受けながら、指定されたリングへと上がる。
対戦相手の魔術科の女子生徒・ルキアは、私の姿を見るなり、ふっと小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「あら、あなたが『アイゼン家の出来損ない』ね。騎士科に行ったって聞いたときは笑っちゃったわ。大人しく魔術の的にでもなりなさい」
普通の私なら、その言葉に萎縮していただろ。だけど、二週間、死ぬ気で木剣を振り続けてきたのだ。今さら、その程度の言葉じゃ私の心は揺るがない。
「両者、構え! ──始め!!」
合図と同時に、左右のリングにいる騎士科の生徒たちが、一斉に「身体強化」の眩い光をまとって弾丸のように突っ込んでいった。
けれど、私の体は光らない。番契約をしていない私には、身体強化が使えないからだ。
周りの騎士に比べて、明らかに遅い初動。それを見たルキアは「やっぱり、ただの無能じゃない!」と確信したように杖を掲げた。
「──刻め、炎の刃!『フレイムカッター』!」
ルキアの詠唱とともに、激しい炎の刃が三軌道同時に私へと襲いかかる。身体強化がない私なら、まともに喰らえば一発で戦闘不能だ。
(だけど……見えてる……!)
この二週間、身体強化が使えない私とレインは、生身の限界に挑むようなしごきを受けてきた。レインの超高速の太刀筋を何度も目で追い、避けてきたのだ。
普通の魔術士が放つ、詠唱ありの直線的な魔術なんて、レインの剣に比べれば遥かに遅い。
私は生身の動体視力をフル回転させ、最小限のステップで炎の刃を紙一重で躱した。
ジリジリと熱風が肌を焼き、制服のローブが少し焦げる。けれど、私の足は止まらない。
「なっ、避けた……!? ちょ、ちょっと来ないでよ!」
焦ったルキアが、連続して風の弾丸を放ってくる。
私は迫り来る風の塊を、腰から抜いた騎士剣の腹でガツン!と強引に叩き落とした。カバー魔法の火花が散り、腕に激しい衝撃が走るが、剣は絶対に離さない。
一歩、また一歩と、泥臭く、だけど確実に間合いを詰めていく。
「いやっ、来るな──」
ルキアが次の呪文を唱えようとした瞬間、私は一気に踏み込んだ。身体強化がないなら、体重のすべてを乗せて踏み込むだけだ。
──キィィン!
鋭い金属音が響く。
ルキアが慌てて突き出した杖を、私の騎士剣が鮮やかに撥ね飛ばした。
無防備になった彼女の首元へ、私は容赦なく剣を突き出す。
ピタリ、と刃がルキアの喉元の一寸手前で止まった。
「そこまで! 勝者、エレナ・アイゼン!」
教官の声が演習場に響き渡る。
ルキアはその場にへたり込み、恐怖でガタガタと震えていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
剣を引いた私は、肩で大きく息を荒げた。全身の筋肉が悲鳴を上げ、手は汗と衝撃で震えている。周りの騎士たちのような華麗な勝利じゃない。泥だらけで、ボロボロの、不格好な勝利だ。
だけど、周囲からは「おい、あいつ今、身体強化なしで魔術を破ったぞ……」「アイゼン家の出来損ないって、デマかよ……」という、驚愕の囁きが漏れていた。
ふと、強い視線を感じて顔を上げる。
演習場の壁際、特等席のような場所で腕を組んでいたシオンさんが、真っ直ぐに私だけを見つめていた。
その冷徹な蒼い瞳には、さっきのような超然とした冷たさはなかった。泥まみれになりながらも勝利を掴み取った私に対して、確かな「驚き」と、そして静かな「敬意」のような熱が灯っているのが分かった。
シオンさんと目が合った瞬間、私の胸がドクンと激しく脈打つ。
(今はまだ、こんなに泥臭い。あなたには、全然届かないけれど……)
私は、汗を拭いながらシオンさんを真っ直ぐに見つめ返した。
いつか必ず、その圧倒的な強さの隣に、胸を張って堂々と立てるくらいの騎士に、私は絶対になってみせる。
手の中にある騎士剣の重みが、私の決意をさらに強く固めていた。
