【四章】
黒板にチョークが激しく打ち付けられる音が、静まり返った教室に響く。
午前中の『魔力概論』の授業。教壇に立つ眼鏡をかけた偏屈そうな教官が、黒板に描いた二つの歪な魔法陣を指し示した。
「──いいか、よく聞け。普通の騎士科の生徒は、体内の魔力を直接肉体に巡らせることで、最初から『身体強化』を発揮できる。だが、そこにいるフォレスト、アイゼンのような、騎士と魔術の『両方の適性を持つ者』は話が別だ」
教官の鋭い視線が、私とレインに突き刺さる。
「お前たちのような特異体質は、体内の魔力構造が複雑すぎる。自分一人の力では魔力を肉体に還元できん。……彼らが身体強化を使うための唯一の条件、それが『同じ適性を持つ番』と魂を繋ぐことだ。相手の魔力を通して、初めてその超人的な肉体能力が解禁される」
教官は冷淡に、事実を突きつけるように黒板を叩いた。
「つまり、番契約を結んでいない今の二人は、ただの非力な人間だ。一般の騎士科の生徒よりも、身体能力の初期値は遥かに劣る。……他人に天才と持て囃されようが、契約できなければただの落ちこぼれ以下だ。そこを勘違いするなよ。だが、番契約を結べば話は別だ。番契約を結べば一般の騎士科の生徒より何倍も、何十倍も肉体強化をすることができるようになる。」
教室のそこかしこから、「へぇ、じゃあ今は一般人以下なのか」「番を見つけられなきゃ、ずっと最弱のままだな」という、小さなコソコソ話が聞こえてくる。
私は悔しさに、制服のキュロットスカートの裾をぎゅっと握りしめた。
隣の席のレインも、いつもの軽い笑みを消して、チッと小さく舌を打ち鳴らしている。
(お父様を見返すためだけじゃない。私がこの学校で生き残り、強い騎士になるためにも……私は絶対に、シオンさんと番にならなきゃいけないんだ)
教室がざわつく中、一人の生徒が手を挙げた。
「教官! 番契約の具体的な手順をもう一度教えてください!」
「フン、まだそんな段階でもないくせにか」
教官は呆れたように鼻で笑いながらも、黒板をトントンと叩いた。
「基本は互いの合意だ。契約の儀の魔術陣に入り、互いの手のひらを傷つけ、血を重ね合わせる。互いの魂に魔力のパイプを繋ぐ『血の契約』だ。 成功すれば、二人の体に同じ形の『番の紋章』が刻まれ、魔力の共有や身体強化が可能になる。……だが、何度も言うが相性が悪ければ血を合わせた瞬間に魔力が暴走し、反発で五臓六腑がひっくり返るぞ」
──血の契約。
想像するだけで、ごくりと唾を呑んでしまう。
私は無意識に、左腰に吊るした騎士剣の柄(つか)へと手を伸ばした。
騎士科の生徒は、学園内での常時、騎士剣の携帯が認められている。最初の頃は歩くたびに鞘が太ももに当たって邪魔で仕方がなかったけれど、入学から一週間が経った今では、この重みだけが私の心を落ち着かせてくれる唯一の相棒だった。
(お父様を見返すためだけじゃない。この剣を振るうためにも……)
──けれど、現実はそんなに甘くない。
黒板にチョークが激しく打ち付けられる音が、静まり返った教室に響く。
午前中の『魔力概論』の授業。教壇に立つ眼鏡をかけた偏屈そうな教官が、黒板に描いた二つの歪な魔法陣を指し示した。
「──いいか、よく聞け。普通の騎士科の生徒は、体内の魔力を直接肉体に巡らせることで、最初から『身体強化』を発揮できる。だが、そこにいるフォレスト、アイゼンのような、騎士と魔術の『両方の適性を持つ者』は話が別だ」
教官の鋭い視線が、私とレインに突き刺さる。
「お前たちのような特異体質は、体内の魔力構造が複雑すぎる。自分一人の力では魔力を肉体に還元できん。……彼らが身体強化を使うための唯一の条件、それが『同じ適性を持つ番』と魂を繋ぐことだ。相手の魔力を通して、初めてその超人的な肉体能力が解禁される」
教官は冷淡に、事実を突きつけるように黒板を叩いた。
「つまり、番契約を結んでいない今の二人は、ただの非力な人間だ。一般の騎士科の生徒よりも、身体能力の初期値は遥かに劣る。……他人に天才と持て囃されようが、契約できなければただの落ちこぼれ以下だ。そこを勘違いするなよ。だが、番契約を結べば話は別だ。番契約を結べば一般の騎士科の生徒より何倍も、何十倍も肉体強化をすることができるようになる。」
教室のそこかしこから、「へぇ、じゃあ今は一般人以下なのか」「番を見つけられなきゃ、ずっと最弱のままだな」という、小さなコソコソ話が聞こえてくる。
私は悔しさに、制服のキュロットスカートの裾をぎゅっと握りしめた。
隣の席のレインも、いつもの軽い笑みを消して、チッと小さく舌を打ち鳴らしている。
(お父様を見返すためだけじゃない。私がこの学校で生き残り、強い騎士になるためにも……私は絶対に、シオンさんと番にならなきゃいけないんだ)
教室がざわつく中、一人の生徒が手を挙げた。
「教官! 番契約の具体的な手順をもう一度教えてください!」
「フン、まだそんな段階でもないくせにか」
教官は呆れたように鼻で笑いながらも、黒板をトントンと叩いた。
「基本は互いの合意だ。契約の儀の魔術陣に入り、互いの手のひらを傷つけ、血を重ね合わせる。互いの魂に魔力のパイプを繋ぐ『血の契約』だ。 成功すれば、二人の体に同じ形の『番の紋章』が刻まれ、魔力の共有や身体強化が可能になる。……だが、何度も言うが相性が悪ければ血を合わせた瞬間に魔力が暴走し、反発で五臓六腑がひっくり返るぞ」
──血の契約。
想像するだけで、ごくりと唾を呑んでしまう。
私は無意識に、左腰に吊るした騎士剣の柄(つか)へと手を伸ばした。
騎士科の生徒は、学園内での常時、騎士剣の携帯が認められている。最初の頃は歩くたびに鞘が太ももに当たって邪魔で仕方がなかったけれど、入学から一週間が経った今では、この重みだけが私の心を落ち着かせてくれる唯一の相棒だった。
(お父様を見返すためだけじゃない。この剣を振るうためにも……)
──けれど、現実はそんなに甘くない。
