「…また、次の合同練習でね、エレナ」
「あ……」
不意に名前を呼ばれ、私は、頬が暑くなるのを感じた。
シオンさんはフッと私から手を離すと、何事もなかったかのようにすれ違い、魔術科の列へと戻っていく。その耳の裏が、ほんの少しだけ赤くなっていたような気がしたのは……私の気のせいだろうか。
「おーい、二人だけで甘酸っぱい世界作ってんなよなー!」
呆然と立ち尽くす私に、後ろから聞き慣れた軽い声が降ってきた。
振り返ると、グレン教官にガシッとヘッドロックを決められたレインが、顔を歪めながらもニカニカと笑っている。
「フォレスト、お前は感知の最中に余計な私語が多い! 腹筋百回追加だ!」
「ぶふっ!? ちょ、教官、いま俺いい仕事したところですよ!?」
「うるさい、二百回だ!」
「鬼かーーー!!」
レインの叫び声に、張り詰めていた演習場の空気が一気に笑いに包まれる。
戻ってきたシオンさんは、そんなレインを見て「うるさいな、フォレスト。君も早く教官のしごきを終わらせたらどうだ」と冷淡に呟いていたけれど、その横顔にはさっきまでの刺々しさは消えていた。
こうして、嵐のような初めての合同授業は幕を閉じた。
「ねえ! エレナ、シオン様と手を合わせた時、一体どうだったの!?」
放課後、137号室の扉を閉めた瞬間、マインちゃんがもの凄い勢いで詰め寄ってきた。目が完全にキラキラと輝いている。
「え、ええっと……」
「授業中、レインがからかった時、エレナ顔が真っ赤だったよ!? 何かあったんでしょ、教えなさい!」
ベッドに押し倒されんばかりの勢いに負け、私はおずおずと、手を合わせた時に起きた不思議な感覚を打ち明けた。
魔力がまるで磁石のように、本能的に引き合って、一つになろうとしたこと。そして、去り際に名前を呼ばれたこと──。
「それってやっぱり、運命の番ってことじゃない……!!」
マインちゃんは両手を頬に当てて、私以上に大興奮してベッドの上を転げ回った。
「だって、お互いに『両方の適性持ち』としか契約できないんでしょ? ってことは、この学年でエレナの相手になれるのはシオン様だけ、シオン様の相手になれるのもエレナだけ! 完全に二人だけの世界じゃない!」
「そ、そんな気が早いよ……。まだ一日目だし、ただ魔力の相性が良かっただけで……」
赤くなる頬を隠すようにクッションを抱きしめる。
けれど、マインちゃんの言葉を聞きながら、私はお父様に言われた冷酷な言葉を思い出していた。
『三年のうちに、我が家に相応しい、最高峰の魔術士を番として引き摺り込んで見せろ』
あのお父様すら文句のつけようがない、圧倒的な光を放っていた最高峰の魔術士。それが、シオン・エストレヤだ。
もし本当に、彼と私が……。
「……うん。私、頑張る」
「でしょ!? 応援するわ、エレナ! まずは次の合同授業までに、シオン様に見劣りしないくらい強い騎士にならなきゃね!」
「うん!」
マインちゃんと拳を合わせ、私は強く頷いた。
まだ恋なんて甘やかなものじゃない。けれど、私の心の真ん中には、あの冷たくて美しい蒼い瞳が、確かに焼き付いていた。
「あ……」
不意に名前を呼ばれ、私は、頬が暑くなるのを感じた。
シオンさんはフッと私から手を離すと、何事もなかったかのようにすれ違い、魔術科の列へと戻っていく。その耳の裏が、ほんの少しだけ赤くなっていたような気がしたのは……私の気のせいだろうか。
「おーい、二人だけで甘酸っぱい世界作ってんなよなー!」
呆然と立ち尽くす私に、後ろから聞き慣れた軽い声が降ってきた。
振り返ると、グレン教官にガシッとヘッドロックを決められたレインが、顔を歪めながらもニカニカと笑っている。
「フォレスト、お前は感知の最中に余計な私語が多い! 腹筋百回追加だ!」
「ぶふっ!? ちょ、教官、いま俺いい仕事したところですよ!?」
「うるさい、二百回だ!」
「鬼かーーー!!」
レインの叫び声に、張り詰めていた演習場の空気が一気に笑いに包まれる。
戻ってきたシオンさんは、そんなレインを見て「うるさいな、フォレスト。君も早く教官のしごきを終わらせたらどうだ」と冷淡に呟いていたけれど、その横顔にはさっきまでの刺々しさは消えていた。
こうして、嵐のような初めての合同授業は幕を閉じた。
「ねえ! エレナ、シオン様と手を合わせた時、一体どうだったの!?」
放課後、137号室の扉を閉めた瞬間、マインちゃんがもの凄い勢いで詰め寄ってきた。目が完全にキラキラと輝いている。
「え、ええっと……」
「授業中、レインがからかった時、エレナ顔が真っ赤だったよ!? 何かあったんでしょ、教えなさい!」
ベッドに押し倒されんばかりの勢いに負け、私はおずおずと、手を合わせた時に起きた不思議な感覚を打ち明けた。
魔力がまるで磁石のように、本能的に引き合って、一つになろうとしたこと。そして、去り際に名前を呼ばれたこと──。
「それってやっぱり、運命の番ってことじゃない……!!」
マインちゃんは両手を頬に当てて、私以上に大興奮してベッドの上を転げ回った。
「だって、お互いに『両方の適性持ち』としか契約できないんでしょ? ってことは、この学年でエレナの相手になれるのはシオン様だけ、シオン様の相手になれるのもエレナだけ! 完全に二人だけの世界じゃない!」
「そ、そんな気が早いよ……。まだ一日目だし、ただ魔力の相性が良かっただけで……」
赤くなる頬を隠すようにクッションを抱きしめる。
けれど、マインちゃんの言葉を聞きながら、私はお父様に言われた冷酷な言葉を思い出していた。
『三年のうちに、我が家に相応しい、最高峰の魔術士を番として引き摺り込んで見せろ』
あのお父様すら文句のつけようがない、圧倒的な光を放っていた最高峰の魔術士。それが、シオン・エストレヤだ。
もし本当に、彼と私が……。
「……うん。私、頑張る」
「でしょ!? 応援するわ、エレナ! まずは次の合同授業までに、シオン様に見劣りしないくらい強い騎士にならなきゃね!」
「うん!」
マインちゃんと拳を合わせ、私は強く頷いた。
まだ恋なんて甘やかなものじゃない。けれど、私の心の真ん中には、あの冷たくて美しい蒼い瞳が、確かに焼き付いていた。
