蒼い椿椿と騎士科の少女

騎士科が演習場につくと、もう魔術科の生徒が中で待っていた。
魔術科と騎士科の制服の違いは、ローブの色とリボン(ネクタイ)の色だ。騎士科は黒色のローブに赤のリボン(ネクタイ)で圧が強い印象を受けるのに対し、魔術科は白色のローブに青のリボン(ネクタイ)で神聖な印象を受ける。

私達は、魔術科の生徒と向き合うように座った。

「それではこれより騎士科、魔術科合同授業を始める。本日は、魔力感知の訓練をする。」

グレン教官の怒声が響く。
「番契約の第一歩は、相手の魔力を知ることだ。互いに向かい合って両手を合わせ、目を閉じて相手の体内を巡る魔力の波形を感じ取れ。……おい、適性持ちの特別枠三人。お前たちは中央へ出ろ」

教官の指名に、私とレインは一歩前へ出た。
すると、魔術科の列からも、一人の青年が静かに歩み出てくる。
──シオン・エストレア
近くで見ると、その姿は息を呑むほど整っていた。白銀の髪に、すべてを見透かすような冷徹な蒼い瞳。魔術科の女子生徒たちが「シオン様……」と小さく吐息を漏らすのも納得の、圧倒的な存在感だった。
「お前たちは人数が奇数だ。まずはエストレアとアイゼンで組め。フォレストは俺が相手をしてやる」
「えっ、教官が相手ですか!? 手加減してくださいよ!?」
レインが頭を抱えるのを余所目に、シオンが私の方へと一歩近づいた。
すっと漂う、どこか冷たくて清らかな気配に、私の心臓がトクンと跳ねる。
「……よろしく、アイゼンさん」
「あ、えっと……よろしくお願いします、シオンさん」
緊張で声が少し上擦ってしまう。
シオンは表情を変えないまま、綺麗な形をした両手を私の前に差し出した。
「手を。……緊張しなくていいよ、ただの感知だ」
「うん……」
私は意を決して、自分の両手をシオンの手のひらに重ねた。
──その瞬間だった。
ドクン、と胸の奥が大きく鳴った。
ただ手を合わせただけなのに、まるで体に電流が走ったかのような、強烈な衝撃。
驚いて目を見開くと、シオンの蒼い瞳もわずかに大きく見開かれていた。
(何、これ……!?)
他の生徒たちの間からは「うーん、何も感じないなぁ」「ちょっとピリピリするかも?」なんて声が聞こえるのに、私とシオンの間には、明らかに違う『何か』が流れていた。
目を閉じると、彼の冷たくて美しい魔力が、私の体の中にある熱い魔力と、まるで磁石のようにぴったりと引き合い、混ざり合おうとするのがハッキリと分かった。
『両方の適性持ちは、同じ適性持ちとしか契約できない』
教官の言葉が頭をよぎる。
まだ恋なんてものじゃない。だけど、この広い世界で、私の魂にこれほど深く触れられるのは「この人しかいない」のだという絶対的な現実が、手のひらを通じて生々しく伝わってきた。
シオンはしばらくじっと私の目を見つめていたが、やがてふっと視線を落とし、小さく呟いた。
「……アイゼン家の娘が騎士科に行くなんて、おかしな話だと思ってた。でも……分かったよ。君の魔力、すごく……温かいね」
「え……」
「僕たちの相性が跳ね返るか馴染むのか……少し怖かったけど。どうやら、心配する必要はなさそうだ」
そう言って、シオンはほんの少しだけ、本当にわずかだけ、口元を緩めて微笑んだ。その一瞬の表情に、私の心臓はさっきとは違う意味で、激しく鐘を打ち鳴らした。