いくら悩んでも月曜日は来る。必修授業がある上に、1限から。朝から媛守と顔を合わせるには現状、勇気が足りなかった。
日曜夕方に差し掛かり、今日1日、いや昨日の一件から自分が何をしていたのか記憶にない。とにもかくにも今いる状況を整理したい一心だ。
媛守叶南という人物を頭の中でおさらいする。
どうやら俺のことが幼稚園の時から好きらしい。そして俺と話すこともあったと、帰りに送ってもらっていた車の中でぼやいていたが、俺は媛守らしき人物さえ覚えていなかった。会話の内容を尋ねても、知らなくていいと一点張り。
――知るも知らないも俺のことなんだけど。
媛守は過去を語りたいとは思わっておらず、今好きになってもらいたいと付言した。
それに関して多少参考になるかもと、母さんに卒園アルバムの在処を尋ねても既に捨ててしまっているとの返答があり真偽を確かめる術はない。
俺の中の媛守へのイメージが変貌したものの、タレ目の中の鋭い眼光が顔つきに変化を見せ毒舌を吐く媛守を嫌いになりきれないのは明らかだった。出会ったときとの温度差がそれ以上に好きを加速させたのだろ推測できる。
――今すぐ認めるのは悔しいから言ってやらないけど……。
半日ぶりくらいに手に取ったスマホを開く。通知欄に媛守の名前はなく、ゲームアプリのデイリーミッション未達成の通知ばかりだった。それらを無視し親指でメッセアプリを開くと、媛守のひとつ下に履歴の残る人物の通話ボタンを押す。
1コールもしないうちに、通話が取られた。
『もしもしー?』
人懐っこい声がスマホ特有の音で耳を刺激する。
「貫太……」
『どした?』
断りなしに通話を掛けたことにひどく驚いた口ぶりの貫太に、淡々要件を話す。
「媛守のことで相談したい」
デートであったことと本当は恋愛経験があって揶揄われているのではないかといった風な自分の考えを羅列した。しかし自分がいまだに媛守に気があることだけは伝えなかった。
『ふーん。そんなことがあったのか。俺が言えることなんてほとんどないけど……』
言いかけた言葉を中途半端に止められ、「何?」と語尾を強めに問う。
『いや、誰かと恋人関係に発展したことないはずだよ』
俺の方が媛守を見てきたのに、貫太が俺の知らない媛守を知っているのが気に食わない。こんなの八つ当たりだ。
「そんなのわかんねぇよ? 嘘つかれてるかもしれない」
『何が言いたいのかわかんないけど……まだ好きなら、この際全力で恋愛しなよ!』
――こういう底なしの明るさに救われた半面うらやましいと思ってきた。
俺が黙り込むと、貫太は続ける。
『自分のこと全く言おうとしなかった怜也が電話かけてくるくらいなんだ。本当は自分でも認めたくないだけで気づいてるんだろ? でもお前が自分の気持ちに嘘つこうが俺には関係ない』
核心を突かれ言葉を詰まらせ、スマホを握る手に力が入った。
『だけどさ、恋愛せずに諦めるのは怜也には似合わないよ‼ 怜也が媛守が好きって言ってたときの目、俺好きだったよ』
――好きだって打ち明けた時の目?
「なんだ、それ……」
『もう媛守しか視界に入ってませんって感じで、ここまで1人に本気になれるのいいと思った』
「そんな目してな……」
『してたよ』
断固として言う貫太に押されると、強がっていたのが馬鹿らしくなったためか気持ちの糸が緩まり吐露する。
「……貫太の言う通りだよ。俺は媛守が好き。だけど本人の前は素直になれないし、あんなことされたのにまだ好きな自分が受け入れられなくて電話した」
『そ。話聞くのはできるからさ、いつでもどーぞ』
「ありがと……」
軽く挨拶をして通話を切って、日も落ちていないというのに眠りについた。
翌朝、授業の教室に向かう貫太を見つけ駆け足で近づくと隣を歩く。
「昨日はありがとう」
「いや。別になんもやってないよ! がんばれ‼」
背中を強めに叩かれ、前方に一歩大きく出る。
大して痛くもないが、痛いと抵抗するために後ろを振り向いた。その時には、貫太の「うわぁ!」という情けない声が聞こえた。
次に目にしたのは媛守が貫太の腕をつかんでいる姿だった。
「な、なにやってんの⁉」
「そうだ! 離せよ!」
「やだね。怜也がケガでもしたらどうするつもり?」
――早く離せよ。俺以外と手、繋いでんじゃねぇよ。
浮かぶ言葉を飲み込み、にこやかにできるだけ明るい声色で言う。
「俺は大丈夫だよ! 痛くねぇから!」
ようやく解かれた手首は赤く指に沿って筋に媛守の握った跡が付いている。
――最悪。
貫太に媛守が取られるみたいに感じられ胸がざわついた。
「うわ。痛そう……」
わざとらしく言ってみる。うらやましいとかは思わない。どちらかというと痛いのはごめんだ。でも、媛守が触れたという事実と俺の知らない媛守を先に貫太が体験したことに嫉妬心を抱いたのだ。
「そう思うなら無理やりにでも引きはがしてよ……」
「ははっ……」
乾いた笑いで返す。俺だって無理やりにでも引っ剥がしたかった。仕方ないだろ? 他の人に触れる媛守を前にしたら身体が動かないくらい頭が真っ白になったのだから。そんな俺の嫉妬を知る由もない貫太は手首をまじまじと見て眉を顰めている。その姿を目に焼き付ければ焼き付けるほど媛守の証が貫太にあるように思えて嫌悪感が湧いてくる。
俺が貫太の立場だったら貧乏くじを引かされた気分だろう。
「媛守」
教室へ入っていく貫太と媛守のうちの媛守だけを呼び止める。
「どうした? 授業始まるけど?」
不思議そうにするも、理由を言う前に俺の方へ戻ってくる媛守に愛おしいという感情を当てはめる。
何も言わず媛守が貫太の手首を握っていた方の手を掴み、恋人繋ぎした。
「な、何?!」
驚いたことで足を一歩引いた媛守の手をギュッと握り、離してやるもんかと言わんばかりに指先に力を加える。
「なぁ、どうした?」
――俺が貫太に触れたらどうせ怒るクセに。
「なんでもねーよ」
取り返しのつかない気持ちを抱てしまったことを認めると同時に、授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。
日曜夕方に差し掛かり、今日1日、いや昨日の一件から自分が何をしていたのか記憶にない。とにもかくにも今いる状況を整理したい一心だ。
媛守叶南という人物を頭の中でおさらいする。
どうやら俺のことが幼稚園の時から好きらしい。そして俺と話すこともあったと、帰りに送ってもらっていた車の中でぼやいていたが、俺は媛守らしき人物さえ覚えていなかった。会話の内容を尋ねても、知らなくていいと一点張り。
――知るも知らないも俺のことなんだけど。
媛守は過去を語りたいとは思わっておらず、今好きになってもらいたいと付言した。
それに関して多少参考になるかもと、母さんに卒園アルバムの在処を尋ねても既に捨ててしまっているとの返答があり真偽を確かめる術はない。
俺の中の媛守へのイメージが変貌したものの、タレ目の中の鋭い眼光が顔つきに変化を見せ毒舌を吐く媛守を嫌いになりきれないのは明らかだった。出会ったときとの温度差がそれ以上に好きを加速させたのだろ推測できる。
――今すぐ認めるのは悔しいから言ってやらないけど……。
半日ぶりくらいに手に取ったスマホを開く。通知欄に媛守の名前はなく、ゲームアプリのデイリーミッション未達成の通知ばかりだった。それらを無視し親指でメッセアプリを開くと、媛守のひとつ下に履歴の残る人物の通話ボタンを押す。
1コールもしないうちに、通話が取られた。
『もしもしー?』
人懐っこい声がスマホ特有の音で耳を刺激する。
「貫太……」
『どした?』
断りなしに通話を掛けたことにひどく驚いた口ぶりの貫太に、淡々要件を話す。
「媛守のことで相談したい」
デートであったことと本当は恋愛経験があって揶揄われているのではないかといった風な自分の考えを羅列した。しかし自分がいまだに媛守に気があることだけは伝えなかった。
『ふーん。そんなことがあったのか。俺が言えることなんてほとんどないけど……』
言いかけた言葉を中途半端に止められ、「何?」と語尾を強めに問う。
『いや、誰かと恋人関係に発展したことないはずだよ』
俺の方が媛守を見てきたのに、貫太が俺の知らない媛守を知っているのが気に食わない。こんなの八つ当たりだ。
「そんなのわかんねぇよ? 嘘つかれてるかもしれない」
『何が言いたいのかわかんないけど……まだ好きなら、この際全力で恋愛しなよ!』
――こういう底なしの明るさに救われた半面うらやましいと思ってきた。
俺が黙り込むと、貫太は続ける。
『自分のこと全く言おうとしなかった怜也が電話かけてくるくらいなんだ。本当は自分でも認めたくないだけで気づいてるんだろ? でもお前が自分の気持ちに嘘つこうが俺には関係ない』
核心を突かれ言葉を詰まらせ、スマホを握る手に力が入った。
『だけどさ、恋愛せずに諦めるのは怜也には似合わないよ‼ 怜也が媛守が好きって言ってたときの目、俺好きだったよ』
――好きだって打ち明けた時の目?
「なんだ、それ……」
『もう媛守しか視界に入ってませんって感じで、ここまで1人に本気になれるのいいと思った』
「そんな目してな……」
『してたよ』
断固として言う貫太に押されると、強がっていたのが馬鹿らしくなったためか気持ちの糸が緩まり吐露する。
「……貫太の言う通りだよ。俺は媛守が好き。だけど本人の前は素直になれないし、あんなことされたのにまだ好きな自分が受け入れられなくて電話した」
『そ。話聞くのはできるからさ、いつでもどーぞ』
「ありがと……」
軽く挨拶をして通話を切って、日も落ちていないというのに眠りについた。
翌朝、授業の教室に向かう貫太を見つけ駆け足で近づくと隣を歩く。
「昨日はありがとう」
「いや。別になんもやってないよ! がんばれ‼」
背中を強めに叩かれ、前方に一歩大きく出る。
大して痛くもないが、痛いと抵抗するために後ろを振り向いた。その時には、貫太の「うわぁ!」という情けない声が聞こえた。
次に目にしたのは媛守が貫太の腕をつかんでいる姿だった。
「な、なにやってんの⁉」
「そうだ! 離せよ!」
「やだね。怜也がケガでもしたらどうするつもり?」
――早く離せよ。俺以外と手、繋いでんじゃねぇよ。
浮かぶ言葉を飲み込み、にこやかにできるだけ明るい声色で言う。
「俺は大丈夫だよ! 痛くねぇから!」
ようやく解かれた手首は赤く指に沿って筋に媛守の握った跡が付いている。
――最悪。
貫太に媛守が取られるみたいに感じられ胸がざわついた。
「うわ。痛そう……」
わざとらしく言ってみる。うらやましいとかは思わない。どちらかというと痛いのはごめんだ。でも、媛守が触れたという事実と俺の知らない媛守を先に貫太が体験したことに嫉妬心を抱いたのだ。
「そう思うなら無理やりにでも引きはがしてよ……」
「ははっ……」
乾いた笑いで返す。俺だって無理やりにでも引っ剥がしたかった。仕方ないだろ? 他の人に触れる媛守を前にしたら身体が動かないくらい頭が真っ白になったのだから。そんな俺の嫉妬を知る由もない貫太は手首をまじまじと見て眉を顰めている。その姿を目に焼き付ければ焼き付けるほど媛守の証が貫太にあるように思えて嫌悪感が湧いてくる。
俺が貫太の立場だったら貧乏くじを引かされた気分だろう。
「媛守」
教室へ入っていく貫太と媛守のうちの媛守だけを呼び止める。
「どうした? 授業始まるけど?」
不思議そうにするも、理由を言う前に俺の方へ戻ってくる媛守に愛おしいという感情を当てはめる。
何も言わず媛守が貫太の手首を握っていた方の手を掴み、恋人繋ぎした。
「な、何?!」
驚いたことで足を一歩引いた媛守の手をギュッと握り、離してやるもんかと言わんばかりに指先に力を加える。
「なぁ、どうした?」
――俺が貫太に触れたらどうせ怒るクセに。
「なんでもねーよ」
取り返しのつかない気持ちを抱てしまったことを認めると同時に、授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。
