地元の森林公園に到着する頃には、とてもじゃないが外で遊ぶことなどできない天気をしていた。
雨が降り出し、デートに行くなと言わんばかりに風まで吹き荒れている。
「これカフェまで行くのも大変じゃないか?」
「一応傘、ありますよ。1つですけど……」
車を森林公園の広い駐車場に止めシートベルトも外さず呆然と外を眺める。休日には家族連れで駐車場が満車になる公園は車どころか人の影さえない。少し不気味なくらいだ。
こういう天気でも媛守は楽しめるだろうか。屋内にカフェがあるとはいえ、そこまで行くのに駐車場から広い森林公園を横断した先にあるのだ。
傘があるとはいえ、濡れてしまうだろう。それをどう思うだろうか。きっと雨に降られてまでカフェに行きたいと思っていないはず。 すべてが仮定で進む。恋愛経験が豊富だったらこういう場面でもスマートに乗り切って、楽しい一日だったと思わせられるんだろうな。
加えて顔と媛守の持つ雰囲気に惹かれた俺は、これと言って知っていることはなく楽しませる手段がないことを突きつけられる。
――媛守をもっと知りたい。
俺も傘を持ってくればまだマシだったかと、後悔した。
「傘あっても結構……」
「厳しいですよね」
降りしきる雨が思考を妨げられる。すでに、俺の計画とは程遠くなったデートで思い出を語ることも叶いそうにない。
アウトドアが苦手な媛守にどうすれば楽しんでもらえるのだろうか。腕を組みながら唸る。
「ごめんなさい」
「は?」
不意に震える声で謝罪される。俺は意図がわからず顔を歪ませた。すると今度は青ざめ俯きざまに細い声を出す。
「俺といてもつまらないですよね。雨男ですし……」
「雨男とかは知らねぇけど、つまらないとかないよ」
「でも……」
「あーーもう‼」
時間をかけてセットした髪の毛を片手で崩す。
「それはこっちの台詞」
「なんでですか! 俺のせいです‼」
「俺が誘ったんだ。これじゃ恋愛がどうとか以前の話だな。先導できなくてごめんな」
もとはとは言えば、恋愛を教えるということに同意したから俺たちは付き合っているのだ。
俺は俺の事だけしか考えていなかった結果がこれだ。自身の不甲斐なさに呆れ返る。すると媛守が窓の外を¥に視線をやりつぶやく。
「そんなことどうでもいい……」
「どうでもってなんだよ」
降りしきる雨が一層強さを増して、バチバチと車に当たる音を大きくする。
――何が? 先導がどうとかか?
頑張ろうとしていたことを否定され、気持ちを踏みにじられた感覚が刺さって抜けない。
――なん、だよ。もうアンタがわからねぇよ、媛守。
言葉を失い、口を開いても怒りの言葉1つ出てこない。すると媛守が雨の音に負けじと声を出した言葉が俺の頭上に落雷を落とすほどの衝撃を受けさせた。
「恋愛を知りたいなんて嘘です‼」
「は……?」
媛守は口を滑らせ、やってしまったという顔をする。しかし弁明するわけでもなく目をそらされる。
「なんだ、それ……」
シートベルトをノールックで外した同時に車のドアを開け、飛び出す。開け放したドアから「林崎くん‼」と、呼び止める媛守の声が耳に入ってきた。
僅かに走る足にブレーキを掛けそうになる。
――今名前を呼ばれても、うれしいとか思って……
下唇を噛み、その声を振り切るようにバシャバシャと雨を弾きながら誰もいない公園のランニングコースに沿いながら走る。
嘘?
何のために?
減速したのちに、1つの答えにたどり着き停止する。
あぁ。そうか、顔が良くて長身で恋愛を知らないわけがない。
むしろなんで俺は教えられるなんて思ったのだろう。
男が好きかもしれないとかも嘘だったんだな。
――ずっと揶揄われてただけ。
俺が勝手に期待して裏切られた苦しさも好きな人から頼られていい気になっていた自分が悔しさも俺を絶望させた。
勢いはあるクセに気弱なところもある。でも、俺が気の回らなかった今日の交通手段だって気を利かせてくれる優しい奴で。好きなことには没頭する。大学の授業でも本屋でも集中力のない俺に話しかけて話すきっかけをくれる。不器用そうで器用な奴。
そんな俺の感じた特別感はすべて媛守の作り物だと思うと不思議と腑に落ちた。全て俺の事を騙してまでやりたかったことなのだろう。
俺に対してそんなことをする意味は理解できないけど、俺がデートを頑張ろうとする姿も面白かったはずだ。
あふれる感情は目頭を熱くする。
嘘をついていたのは俺も同じだ。恋愛経験なんてない。それなのに、媛守の言葉に舞い上がって、そのすべてが媛守だからと信じ切っていた。
「俺、バカだなぁ」
好きになってもらえればいいと短絡的に考え、自分のことを棚に上げて目を背けていたことが全部……全部一気に自分に圧し掛かった。
「うぅ……」
嗚咽が漏れる。
――あれ? 媛守ってどんな奴だっけ。
大粒の涙が、コンクリートを濡らすことはない。雨に紛れて今までの全てが流されてまっさらにしてゆく。
雨が降り出し、デートに行くなと言わんばかりに風まで吹き荒れている。
「これカフェまで行くのも大変じゃないか?」
「一応傘、ありますよ。1つですけど……」
車を森林公園の広い駐車場に止めシートベルトも外さず呆然と外を眺める。休日には家族連れで駐車場が満車になる公園は車どころか人の影さえない。少し不気味なくらいだ。
こういう天気でも媛守は楽しめるだろうか。屋内にカフェがあるとはいえ、そこまで行くのに駐車場から広い森林公園を横断した先にあるのだ。
傘があるとはいえ、濡れてしまうだろう。それをどう思うだろうか。きっと雨に降られてまでカフェに行きたいと思っていないはず。 すべてが仮定で進む。恋愛経験が豊富だったらこういう場面でもスマートに乗り切って、楽しい一日だったと思わせられるんだろうな。
加えて顔と媛守の持つ雰囲気に惹かれた俺は、これと言って知っていることはなく楽しませる手段がないことを突きつけられる。
――媛守をもっと知りたい。
俺も傘を持ってくればまだマシだったかと、後悔した。
「傘あっても結構……」
「厳しいですよね」
降りしきる雨が思考を妨げられる。すでに、俺の計画とは程遠くなったデートで思い出を語ることも叶いそうにない。
アウトドアが苦手な媛守にどうすれば楽しんでもらえるのだろうか。腕を組みながら唸る。
「ごめんなさい」
「は?」
不意に震える声で謝罪される。俺は意図がわからず顔を歪ませた。すると今度は青ざめ俯きざまに細い声を出す。
「俺といてもつまらないですよね。雨男ですし……」
「雨男とかは知らねぇけど、つまらないとかないよ」
「でも……」
「あーーもう‼」
時間をかけてセットした髪の毛を片手で崩す。
「それはこっちの台詞」
「なんでですか! 俺のせいです‼」
「俺が誘ったんだ。これじゃ恋愛がどうとか以前の話だな。先導できなくてごめんな」
もとはとは言えば、恋愛を教えるということに同意したから俺たちは付き合っているのだ。
俺は俺の事だけしか考えていなかった結果がこれだ。自身の不甲斐なさに呆れ返る。すると媛守が窓の外を¥に視線をやりつぶやく。
「そんなことどうでもいい……」
「どうでもってなんだよ」
降りしきる雨が一層強さを増して、バチバチと車に当たる音を大きくする。
――何が? 先導がどうとかか?
頑張ろうとしていたことを否定され、気持ちを踏みにじられた感覚が刺さって抜けない。
――なん、だよ。もうアンタがわからねぇよ、媛守。
言葉を失い、口を開いても怒りの言葉1つ出てこない。すると媛守が雨の音に負けじと声を出した言葉が俺の頭上に落雷を落とすほどの衝撃を受けさせた。
「恋愛を知りたいなんて嘘です‼」
「は……?」
媛守は口を滑らせ、やってしまったという顔をする。しかし弁明するわけでもなく目をそらされる。
「なんだ、それ……」
シートベルトをノールックで外した同時に車のドアを開け、飛び出す。開け放したドアから「林崎くん‼」と、呼び止める媛守の声が耳に入ってきた。
僅かに走る足にブレーキを掛けそうになる。
――今名前を呼ばれても、うれしいとか思って……
下唇を噛み、その声を振り切るようにバシャバシャと雨を弾きながら誰もいない公園のランニングコースに沿いながら走る。
嘘?
何のために?
減速したのちに、1つの答えにたどり着き停止する。
あぁ。そうか、顔が良くて長身で恋愛を知らないわけがない。
むしろなんで俺は教えられるなんて思ったのだろう。
男が好きかもしれないとかも嘘だったんだな。
――ずっと揶揄われてただけ。
俺が勝手に期待して裏切られた苦しさも好きな人から頼られていい気になっていた自分が悔しさも俺を絶望させた。
勢いはあるクセに気弱なところもある。でも、俺が気の回らなかった今日の交通手段だって気を利かせてくれる優しい奴で。好きなことには没頭する。大学の授業でも本屋でも集中力のない俺に話しかけて話すきっかけをくれる。不器用そうで器用な奴。
そんな俺の感じた特別感はすべて媛守の作り物だと思うと不思議と腑に落ちた。全て俺の事を騙してまでやりたかったことなのだろう。
俺に対してそんなことをする意味は理解できないけど、俺がデートを頑張ろうとする姿も面白かったはずだ。
あふれる感情は目頭を熱くする。
嘘をついていたのは俺も同じだ。恋愛経験なんてない。それなのに、媛守の言葉に舞い上がって、そのすべてが媛守だからと信じ切っていた。
「俺、バカだなぁ」
好きになってもらえればいいと短絡的に考え、自分のことを棚に上げて目を背けていたことが全部……全部一気に自分に圧し掛かった。
「うぅ……」
嗚咽が漏れる。
――あれ? 媛守ってどんな奴だっけ。
大粒の涙が、コンクリートを濡らすことはない。雨に紛れて今までの全てが流されてまっさらにしてゆく。
