曇り空はコンクリートに俺の影を落とすことはなく、それどころか今にも雨が降りそうだ。テレビのニュースは全く耳に入っておらず、天気のことは頭から抜けていたのだ。傘を持っていないことは問題だが、それよりも今日の目的地は森林公園である。雨が降られたら台無しだ。
――あの日は、雲一つない快晴だったから。同じがよかったな。
この場所に決めたのは小学校の遠足に来た場所だからだ。当時は興味もなかったが、よく調べてみると公園の一部にカフェがあったりスポーツができる施設まであったりと公園で遊ぶだけではない市民の憩いの場所だ。
大学生にまでなって公園がデート先であることに、貫太は顔を引きつらせながら楽しんでこいよ、と言い放たれた。貫太の言いたいことはわかる。子供っぽいとでも言いたかったのだろう。
さすがの俺でもそのことが過らなかったわけではなく、それで嫌われるのは避けたいと提案することを躊躇した。媛守がインドアなため、そもそもデートに行きたい場所なんてないのだろうかと頭を悩ませる。どんなに悩もうが俺の辞書に媛守が最適なデート先がなく、その結果が幼い子におけるアウトドアの代名詞である森林公園だ。
デートに誘った日の夜、意を決しメッセを送った。文字を打つ指が震えていたのはハッキリ覚えている。
『明日、森林公園はどうだ?』
メッセの画面を閉じ切る前に、既読がついた。
しかし数秒の既読が付いてから返事を待つ時間に耐えきれなくなり、つい追い打ちをかける。
『カフェもあるし、本とか読んでてもいいしさ!』
また既読はすぐについた。開いてはいるのだと、どこか安堵を感じる。
胸の辺りが熱く落ち着かない。返信が来るまでスマホを傾けては机に置いてを繰り返して、ようやく返ってきた言葉を覗くようにメッセを開いた。今思えば怖いもの見たさに近かったのかもしれない。
『森林公園行きます!
10時くらいでいいですか?
もしよかったら車出しますよ!!
あと、いくら本が好きでも恋人といるのに読みませんよ!』
読み切る前に口から空気が多めの笑顔が漏れる。
「ははっ……色々書きすぎ」
返信が来たということが嬉しいあまり、1から読み直した。
デート先は否定されていないとわかり、ホッと胸をなでおろす。時間の指定には即刻、同意を示す短い文章を送り返した。確かに車を使用せずに森林公園に向かうとなると電車とバスと徒歩という交通の便が良いとは言切れない。完全に盲点だったと反省した。
反省しつつも媛守が免許を持っているという新情報が、俺の心を躍らせる。
――運転する横顔さえもかっこいいんだろうな。
俺はお言葉に甘えてお願いします、と続けて送信した。
最後の一文に全身がカッと熱くなるのを感じとる。当然、本を読まないことへのうれしさではない。『恋人』といるという言葉だ。俺を恋人として意識してくれているという事実は、付き合ってるのかを不安になっていたはずの俺を天にも昇る心地にさせるには十分だった。
――俺ばっか好きになってどうするんだよ。
昨晩のメッセ上での会話をスマホで眺め、改めて今日のデートに意気込む。この意気込みが余計に肩の力を入れているということに気づくはずもない。
――たとえ雨が降ってもつまんないとか絶対思わせない。待ってろ媛守‼
最寄り駅から一駅行った先のロータリーで媛守の車を待つ。
程なくすると、レトロな雰囲気が漂う深紅のハイワゴンカーが目の前で停車した。そして助手席側の窓が降りると、整った顔がのぞいてきた。もちろん媛守だ。
「お待たせしました。乗ってください!」
助手席は視界が広く落ち着かない。そわそわする俺は、運転する媛守の方に目をやると視線に気づいたらしく寝てていいですよと、気遣ってくれた。
「別に眠いわけじゃないよ」
「そうですか? 無理しないでくださいね」
ハンドルを持つ媛守の集中している真剣な顔の中にあるタレ目が、どこか優しい印象を持ちそのギャップに引き込まれそうだ。
――あの日は、雲一つない快晴だったから。同じがよかったな。
この場所に決めたのは小学校の遠足に来た場所だからだ。当時は興味もなかったが、よく調べてみると公園の一部にカフェがあったりスポーツができる施設まであったりと公園で遊ぶだけではない市民の憩いの場所だ。
大学生にまでなって公園がデート先であることに、貫太は顔を引きつらせながら楽しんでこいよ、と言い放たれた。貫太の言いたいことはわかる。子供っぽいとでも言いたかったのだろう。
さすがの俺でもそのことが過らなかったわけではなく、それで嫌われるのは避けたいと提案することを躊躇した。媛守がインドアなため、そもそもデートに行きたい場所なんてないのだろうかと頭を悩ませる。どんなに悩もうが俺の辞書に媛守が最適なデート先がなく、その結果が幼い子におけるアウトドアの代名詞である森林公園だ。
デートに誘った日の夜、意を決しメッセを送った。文字を打つ指が震えていたのはハッキリ覚えている。
『明日、森林公園はどうだ?』
メッセの画面を閉じ切る前に、既読がついた。
しかし数秒の既読が付いてから返事を待つ時間に耐えきれなくなり、つい追い打ちをかける。
『カフェもあるし、本とか読んでてもいいしさ!』
また既読はすぐについた。開いてはいるのだと、どこか安堵を感じる。
胸の辺りが熱く落ち着かない。返信が来るまでスマホを傾けては机に置いてを繰り返して、ようやく返ってきた言葉を覗くようにメッセを開いた。今思えば怖いもの見たさに近かったのかもしれない。
『森林公園行きます!
10時くらいでいいですか?
もしよかったら車出しますよ!!
あと、いくら本が好きでも恋人といるのに読みませんよ!』
読み切る前に口から空気が多めの笑顔が漏れる。
「ははっ……色々書きすぎ」
返信が来たということが嬉しいあまり、1から読み直した。
デート先は否定されていないとわかり、ホッと胸をなでおろす。時間の指定には即刻、同意を示す短い文章を送り返した。確かに車を使用せずに森林公園に向かうとなると電車とバスと徒歩という交通の便が良いとは言切れない。完全に盲点だったと反省した。
反省しつつも媛守が免許を持っているという新情報が、俺の心を躍らせる。
――運転する横顔さえもかっこいいんだろうな。
俺はお言葉に甘えてお願いします、と続けて送信した。
最後の一文に全身がカッと熱くなるのを感じとる。当然、本を読まないことへのうれしさではない。『恋人』といるという言葉だ。俺を恋人として意識してくれているという事実は、付き合ってるのかを不安になっていたはずの俺を天にも昇る心地にさせるには十分だった。
――俺ばっか好きになってどうするんだよ。
昨晩のメッセ上での会話をスマホで眺め、改めて今日のデートに意気込む。この意気込みが余計に肩の力を入れているということに気づくはずもない。
――たとえ雨が降ってもつまんないとか絶対思わせない。待ってろ媛守‼
最寄り駅から一駅行った先のロータリーで媛守の車を待つ。
程なくすると、レトロな雰囲気が漂う深紅のハイワゴンカーが目の前で停車した。そして助手席側の窓が降りると、整った顔がのぞいてきた。もちろん媛守だ。
「お待たせしました。乗ってください!」
助手席は視界が広く落ち着かない。そわそわする俺は、運転する媛守の方に目をやると視線に気づいたらしく寝てていいですよと、気遣ってくれた。
「別に眠いわけじゃないよ」
「そうですか? 無理しないでくださいね」
ハンドルを持つ媛守の集中している真剣な顔の中にあるタレ目が、どこか優しい印象を持ちそのギャップに引き込まれそうだ。
