祭りも終盤になり、屋台が安くしても売りだし始めていた。その焼きそばやベビーカステラなど、塩気のあるものから甘味まで抱えて近くの公園までやってきた。
景色は一変し、住宅街にある滑り台とベンチがいくつかあるだけで植木に囲まれている公園。ベンチには誰も座っておらず、街灯が2、3個ポツポツと付いているだけだ。
そのうちの一つに腰かけ、まだ熱々の焼きそばを叶南が頬張る。
――かわいい……。
ハムスターのように頬を変形させているのを気に留めることもなく、叶南は食べ進める。奇麗な顔をしながらかなり量を食べる。それに大学を出てから何も口にしていなかったため、お腹が限界を迎えていたのだろう。
思わず笑みがこぼれた。
「食べる?」
「一旦いいや」
俺は祭りと言えばラムネだと買ったはいいが、ビー玉が押し込めず唸っていた。すると、食べていた焼きそばを置き俺の手からラムネ瓶を取り上げる。
カランと音を立て、刹那に空いてしまう。
ついさっきまで弱弱しく俺の肩にもたれていたときと打って変わって、不意に現れる叶南の男らしさに温度差を感じ動揺する。
「水平な場所がなくて力が入りづらかっただけだし!」
「はいはい」
言い訳に苦笑しあしらわれる。ご飯を調達しているときは、人の声と祭りのBGMがスピ―カーで会話という会話はできていなかった。
この静けさには遠くで聞こえる祭りの音と俺たちの会話だけ。叶南は祭り会場にいたときより、俺たち2人でいるときの方が満足そうで明らかにご機嫌になっていた。俺も嬉しいのは当たり前なことだ。
俺たちだけの空間に浮かれて近めに座ってしまった。大学の授業の時よりも圧倒的に近い距離に対して特に叶南は何も言わず、まっすぐした目で言う。
「この公園にも紫陽花、咲いてる」
「うん。少しだけど、かわいいな」
「怜也の方がかわいいー」
猫なで声で言われる。かわいいと言われるのは嬉しいが慣れず、照れ隠しする。
「そういうときは、素直にかわいいって言えよ……」
「至って素直だけど?」と返され耳たぶを火照らせた。
そんな俺を見向きもせずいつの間にか完食していた焼きそばのケースを、屋台で買ったものを入れていたビニール袋に戻し、ベンチに置いておいたたこ焼きを流れるように手に取った。
一瞬にして叶南の胃袋に吸い込まれたたこ焼きに唖然とする。
「そんな食べるんだな。見てるだけで美味しさが伝わってくるみたいだ」
「あっ‼ 欲しかった⁉ よね⁉⁉」
「大丈夫だよ。本当にたくさん食べるな」
「そりゃね。伊達にテニスやってないから」
「テニス⁉」
拍子抜けした声を上げる。スポーツをしていたことはおろか、テニスをしていたのは少しも知らなかった。
――テニス部か?
正直大学内でもこんなイケメンがテニス部に所属しているとは聞いたことなく戸惑う。俺の考えを見抜いたのか、顔を覗かれる。
「テニス部じゃないよ?」
「そうじゃないならなんだよ」
高校の部活でやってたのか? という言葉を飲み込む。
――知りたいけど、付き合っているのにそんなことも知らないと自覚させられているみたいで悔しい。
「習い事だよ。運動公園で週末やってる」
「へぇ……すごいな」
市営の運動公園では多くの団体がサッカーコートや体育館で活動をしていると付け加える叶南に目を丸くし関心する。俺は運動なんて高校の体育以来ろくにやっていない。習い事をするという発想にも至らなかった。
「一緒にやる?」
「見るだけにしとくわ」
さすがに怪我をしてしまいそうだと、肩をすくめた。
甘味として買ったベビーカステラを手に取ると、叶南は楊枝でひとつ持ち上げ、俺の口元へ運んできた。
もう温くなっているものが唇に触れ、それが叶南からだと思うと無碍にできなかったため、ベビーカステラの半分を口にした。
「あま……。あとは食べていいよ」
しかしラムネで甘くなっていた口の中がさらに甘くなり、音を上げた。
そして食べかけであると全く気にせず、叶南の手を押し返す。
どこか迷うような表情を見せながらもそれを食べると、楊枝をベビーカステラの入った紙袋に戻した。
「ねぇ怜也、俺の事早く好きになってよ……」
――なんで今それを言うんだ?
首を傾げて反応する。
「好きな人いるって言ってたけど誰?」
目が座り、顎を引いて質問する叶南に片足が公園の砂利を引いた。
「本当は甘いものいらなかったんでしょ? それなのになんで食べてくれたの?」
「それは……」
――バレてたのか。
叶南は俯き甘えるように肩に額を乗せる。
「いや、いいや。好きな人は聞きたくない……」
「本当に?」
「俺じゃなかったらって思ったら苦しいし。俺が今話題に出したせいで、その好きな人思い出してほしくない。それに思い出した勢いでその好きな人に告白するとかなるとかなったら最悪だから」
「俺だけしか頭に浮かべないで」
「ふっ……あはははっ‼ 俺の事好きすぎな?」
叶南の独占欲という特別感に思わず爆笑してしまうと、顔を勢いよく上げ真剣な眼差しで声をつっかえながら言う。
「俺が! どれだけ、好きだと……!」
「はいはい」
ラムネ瓶を開けられなかったときの仕返しの如く言い放つと、叶南は倍量の声量になる。
「伝わってねーのか⁉」
――あ。きた。
怒られるときの怒鳴り声は呼吸が浅くなるくらい嫌だけど、声を荒げ乱暴な言葉遣いで俺のことを口にするときは、ひどく愛されているようで堪らない。
「ほんとありえねぇんだけど‼ 好きな人じゃないとこんな尽くさないし、こっちは同級生だったこと気づいてくれてるなんて知らなくて、新勧で白を切って話したの後悔してるし! それに顔もだけど、すぐ赤くなっちゃうとことか、好きな人いるとか言う癖に俺とのデートに気合入れちゃうとこも全部全部好きなんだよ!」
「わかったって……っ」
俺への熱が増す叶南のグッと顔が近づいてくる。咄嗟の判断で息を殺し、目頭を力ませて目をつむる。
平静を装う心臓が痛いほど熱い。
「ずっるい」
吐き捨てるように言われた言葉に薄目を開ける。
「……っ!」
鼻を摘ままれ、困り顔で問う。
「好きな人の答え、わからないか?」
「わかるわけねぇよ‼ まさか、卒アルの俺とか言わないよね⁉」
冷静を忘れて乱暴な言い方が混じる媛守は必死だったところ悪いとは思っても、焦る顔が愛おしく我慢できない笑みがこぼれる。
「ちがうよ」
「俺は俺でも過去の自分に負けるのも嫌なんだよ……!」
「だから違うって」
「それに時間は戻せないから……」
猫背になってまで、また額を付け俯く形で俺の肩に乗せる媛守がポツリと溢す。
「それ以外だったらいくらでも変えれるのにな」
確かに俺は小さい頃の叶南をかわいいと好きになったし、話し方もかわいいだろうとか、かわいく成長していると勝手に想像し勘違いしていた。
――でもやっぱり俺は媛守叶南しか好きになれないな。
初めのときなぜ敬語でお淑やかにしていたのか。小学生の頃のイメージを保とうとしていたと今ならわかるけど、好きだからこそ直接本人の口から聞きたいのはわかると今になって思う。
それに好きな人の周りに自分以外の人がいたら、自分じゃないと思うのもわかる。察するのも勘違いするのも、結局はパズルの最後のピースが自分じゃなくて他の誰かだったとき、真っ先に自分を傷つける行為だ。
だから、叶南は俺に好きになってほしくて離したくないと口にする割には、自分のことをピースの形にハマらないように切り取ってしまうことで無意識に避けているのだろう。
――何がそこまで叶南を消極的にしてしまったのか。
それも含めて全部知りたい。俺だって前に進みたいから、ひとつひとつでも解消して君に好きだと伝えよう。
弱弱しくなったり嫉妬深かったり、優しかったり……表情がコロコロ変わる。どれも叶南には変わらないのだが、聞いてみたい。知りたい。叶南のことを。
聞くのが悔しいとかそんな余裕、なくていいんだ。
短く息を肺に送り込む。
「叶南って、どうして俺の事好きになったんだ?」
顔をゆっくり上げ、悲しそうな顔までする叶南。幼稚園の卒園アルバムで好きになったらしいというのは、初デートのときに知った。しかし平凡な俺にそんな要素はなく、ずっと引っかかっていた。『卒園アルバムで』というのは嘘ではないのかもしれないが、それより前に何かきっかけがあったのではないかと考えていたのだ。
それに幼稚園のときのことを話したがらなかったから、あまりいい思い出ではないのだとは薄々感じ取っていた。
悲しそうな顔をさせてしまったことが心苦しい。
――覚えてなくてごめん。だけど、答えてほしい。他の誰かからでもない叶南の口から聞きたいんだ。
景色は一変し、住宅街にある滑り台とベンチがいくつかあるだけで植木に囲まれている公園。ベンチには誰も座っておらず、街灯が2、3個ポツポツと付いているだけだ。
そのうちの一つに腰かけ、まだ熱々の焼きそばを叶南が頬張る。
――かわいい……。
ハムスターのように頬を変形させているのを気に留めることもなく、叶南は食べ進める。奇麗な顔をしながらかなり量を食べる。それに大学を出てから何も口にしていなかったため、お腹が限界を迎えていたのだろう。
思わず笑みがこぼれた。
「食べる?」
「一旦いいや」
俺は祭りと言えばラムネだと買ったはいいが、ビー玉が押し込めず唸っていた。すると、食べていた焼きそばを置き俺の手からラムネ瓶を取り上げる。
カランと音を立て、刹那に空いてしまう。
ついさっきまで弱弱しく俺の肩にもたれていたときと打って変わって、不意に現れる叶南の男らしさに温度差を感じ動揺する。
「水平な場所がなくて力が入りづらかっただけだし!」
「はいはい」
言い訳に苦笑しあしらわれる。ご飯を調達しているときは、人の声と祭りのBGMがスピ―カーで会話という会話はできていなかった。
この静けさには遠くで聞こえる祭りの音と俺たちの会話だけ。叶南は祭り会場にいたときより、俺たち2人でいるときの方が満足そうで明らかにご機嫌になっていた。俺も嬉しいのは当たり前なことだ。
俺たちだけの空間に浮かれて近めに座ってしまった。大学の授業の時よりも圧倒的に近い距離に対して特に叶南は何も言わず、まっすぐした目で言う。
「この公園にも紫陽花、咲いてる」
「うん。少しだけど、かわいいな」
「怜也の方がかわいいー」
猫なで声で言われる。かわいいと言われるのは嬉しいが慣れず、照れ隠しする。
「そういうときは、素直にかわいいって言えよ……」
「至って素直だけど?」と返され耳たぶを火照らせた。
そんな俺を見向きもせずいつの間にか完食していた焼きそばのケースを、屋台で買ったものを入れていたビニール袋に戻し、ベンチに置いておいたたこ焼きを流れるように手に取った。
一瞬にして叶南の胃袋に吸い込まれたたこ焼きに唖然とする。
「そんな食べるんだな。見てるだけで美味しさが伝わってくるみたいだ」
「あっ‼ 欲しかった⁉ よね⁉⁉」
「大丈夫だよ。本当にたくさん食べるな」
「そりゃね。伊達にテニスやってないから」
「テニス⁉」
拍子抜けした声を上げる。スポーツをしていたことはおろか、テニスをしていたのは少しも知らなかった。
――テニス部か?
正直大学内でもこんなイケメンがテニス部に所属しているとは聞いたことなく戸惑う。俺の考えを見抜いたのか、顔を覗かれる。
「テニス部じゃないよ?」
「そうじゃないならなんだよ」
高校の部活でやってたのか? という言葉を飲み込む。
――知りたいけど、付き合っているのにそんなことも知らないと自覚させられているみたいで悔しい。
「習い事だよ。運動公園で週末やってる」
「へぇ……すごいな」
市営の運動公園では多くの団体がサッカーコートや体育館で活動をしていると付け加える叶南に目を丸くし関心する。俺は運動なんて高校の体育以来ろくにやっていない。習い事をするという発想にも至らなかった。
「一緒にやる?」
「見るだけにしとくわ」
さすがに怪我をしてしまいそうだと、肩をすくめた。
甘味として買ったベビーカステラを手に取ると、叶南は楊枝でひとつ持ち上げ、俺の口元へ運んできた。
もう温くなっているものが唇に触れ、それが叶南からだと思うと無碍にできなかったため、ベビーカステラの半分を口にした。
「あま……。あとは食べていいよ」
しかしラムネで甘くなっていた口の中がさらに甘くなり、音を上げた。
そして食べかけであると全く気にせず、叶南の手を押し返す。
どこか迷うような表情を見せながらもそれを食べると、楊枝をベビーカステラの入った紙袋に戻した。
「ねぇ怜也、俺の事早く好きになってよ……」
――なんで今それを言うんだ?
首を傾げて反応する。
「好きな人いるって言ってたけど誰?」
目が座り、顎を引いて質問する叶南に片足が公園の砂利を引いた。
「本当は甘いものいらなかったんでしょ? それなのになんで食べてくれたの?」
「それは……」
――バレてたのか。
叶南は俯き甘えるように肩に額を乗せる。
「いや、いいや。好きな人は聞きたくない……」
「本当に?」
「俺じゃなかったらって思ったら苦しいし。俺が今話題に出したせいで、その好きな人思い出してほしくない。それに思い出した勢いでその好きな人に告白するとかなるとかなったら最悪だから」
「俺だけしか頭に浮かべないで」
「ふっ……あはははっ‼ 俺の事好きすぎな?」
叶南の独占欲という特別感に思わず爆笑してしまうと、顔を勢いよく上げ真剣な眼差しで声をつっかえながら言う。
「俺が! どれだけ、好きだと……!」
「はいはい」
ラムネ瓶を開けられなかったときの仕返しの如く言い放つと、叶南は倍量の声量になる。
「伝わってねーのか⁉」
――あ。きた。
怒られるときの怒鳴り声は呼吸が浅くなるくらい嫌だけど、声を荒げ乱暴な言葉遣いで俺のことを口にするときは、ひどく愛されているようで堪らない。
「ほんとありえねぇんだけど‼ 好きな人じゃないとこんな尽くさないし、こっちは同級生だったこと気づいてくれてるなんて知らなくて、新勧で白を切って話したの後悔してるし! それに顔もだけど、すぐ赤くなっちゃうとことか、好きな人いるとか言う癖に俺とのデートに気合入れちゃうとこも全部全部好きなんだよ!」
「わかったって……っ」
俺への熱が増す叶南のグッと顔が近づいてくる。咄嗟の判断で息を殺し、目頭を力ませて目をつむる。
平静を装う心臓が痛いほど熱い。
「ずっるい」
吐き捨てるように言われた言葉に薄目を開ける。
「……っ!」
鼻を摘ままれ、困り顔で問う。
「好きな人の答え、わからないか?」
「わかるわけねぇよ‼ まさか、卒アルの俺とか言わないよね⁉」
冷静を忘れて乱暴な言い方が混じる媛守は必死だったところ悪いとは思っても、焦る顔が愛おしく我慢できない笑みがこぼれる。
「ちがうよ」
「俺は俺でも過去の自分に負けるのも嫌なんだよ……!」
「だから違うって」
「それに時間は戻せないから……」
猫背になってまで、また額を付け俯く形で俺の肩に乗せる媛守がポツリと溢す。
「それ以外だったらいくらでも変えれるのにな」
確かに俺は小さい頃の叶南をかわいいと好きになったし、話し方もかわいいだろうとか、かわいく成長していると勝手に想像し勘違いしていた。
――でもやっぱり俺は媛守叶南しか好きになれないな。
初めのときなぜ敬語でお淑やかにしていたのか。小学生の頃のイメージを保とうとしていたと今ならわかるけど、好きだからこそ直接本人の口から聞きたいのはわかると今になって思う。
それに好きな人の周りに自分以外の人がいたら、自分じゃないと思うのもわかる。察するのも勘違いするのも、結局はパズルの最後のピースが自分じゃなくて他の誰かだったとき、真っ先に自分を傷つける行為だ。
だから、叶南は俺に好きになってほしくて離したくないと口にする割には、自分のことをピースの形にハマらないように切り取ってしまうことで無意識に避けているのだろう。
――何がそこまで叶南を消極的にしてしまったのか。
それも含めて全部知りたい。俺だって前に進みたいから、ひとつひとつでも解消して君に好きだと伝えよう。
弱弱しくなったり嫉妬深かったり、優しかったり……表情がコロコロ変わる。どれも叶南には変わらないのだが、聞いてみたい。知りたい。叶南のことを。
聞くのが悔しいとかそんな余裕、なくていいんだ。
短く息を肺に送り込む。
「叶南って、どうして俺の事好きになったんだ?」
顔をゆっくり上げ、悲しそうな顔までする叶南。幼稚園の卒園アルバムで好きになったらしいというのは、初デートのときに知った。しかし平凡な俺にそんな要素はなく、ずっと引っかかっていた。『卒園アルバムで』というのは嘘ではないのかもしれないが、それより前に何かきっかけがあったのではないかと考えていたのだ。
それに幼稚園のときのことを話したがらなかったから、あまりいい思い出ではないのだとは薄々感じ取っていた。
悲しそうな顔をさせてしまったことが心苦しい。
――覚えてなくてごめん。だけど、答えてほしい。他の誰かからでもない叶南の口から聞きたいんだ。
