追放された補助魔術師は、婚約破棄された悪役令嬢にスカウトされる ~辺境で始まる凸凹コンビの逆転劇~

 王宮の一室、勇者専用に与えられた広間は静かだった。
 絢爛な装飾、黄金に輝く剣、王家から贈られた豪奢なマント。
 全ては、リカルドという名の少年を『勇者』に見せかけるための装飾だった。

 窓の外を眺めながら、リカルドは一つ、深く息を吐いた。

「……ようやく、終わったか」

 断罪の舞台も、魔獣の騒ぎも、すべて片づいた。
 とはいえ、彼の顔に安堵の色はない。
 それどころか、奥歯を噛み締めるように、口元が引きつっている。

「本当に……『あいつ』がやったのか?」

 脳裏をよぎるのは、ただ一人。

 ――エリオット・レナード。

 今日、舞台に現れ、あの魔獣を退けたという噂の中心にいた少年。

「馬鹿な……あいつが、魔獣に対抗できるはずがない。補助魔法しか使えない『役立たず』のはずだ……!」

 リカルドはそう呟きながら、拳を握った。
 その表情に浮かぶのは、怒りか、それとも――焦り。

「……でも、確かに『戦術眼』だけは、悪くなかった」

 訓練中、マリーベルが回復魔法の詠唱に迷った時。
 ガレスが無茶な突進をしようとした時。
 いつも静かに、だが的確に、エリオットは指示を出していた。

 ――そのくせ、自分の功績として誇ろうとしなかった。

「……そういうところが気に食わなかったんだよ」

 誰にも称賛されず、目立ちもせず、それでも仲間のために動く。
 自分の力を『他人の手柄』として捧げるような存在。
 勇者として人々に讃えられ、王家に仕える自分には……そういう生き方が、まるで『嘲笑』のように見えた。
 だからこそ、あの日、追放を決断した。

 ――いや、自分のプライドを守るために。

 リカルドは立ち上がり、窓の外へ目を向けた。
 夕暮れの空に、沈みかけた太陽が滲んでいる。

「……俺が間違ってるはずがない。俺は……『勇者』なんだから」

 そう口にして、彼はまぶたを閉じた。
 それは祈りのようであり、言い聞かせるようでもあった。
 だが、その背に、かすかな影が差していたことに、彼自身はまだ気づいていなかった。