断罪台の上、シンシアはひとり、すべての罵声と嘲笑を浴び続けている。
それでも、彼女は立っていた。膝を折らず、目を逸らさず、ただひたすら――黙して、耐えていた。
その姿に、俺は心の奥が締めつけられるのを感じた。
(こんなのおかしい。間違ってる……!)
俺は足を一歩踏み出す。
次の瞬間、周囲のざわめきが、俺に向いた。
「……え? 誰だ、あいつ」
「まさか……あれ、勇者パーティーにいた補助術師じゃないか?」
「追放された、役立たずの……」
視線が一斉に集まるのがわかった。
驚き、嘲笑、そして好奇心。
だが、もう慣れた。見下されることにも、無視されることにも、評価されないことにも――全部。
ただ、それでも、俺には守りたいものがある。
今この瞬間、誰よりも孤独なあの人の隣に、立ちたいと願った。
一歩。
また一歩。
階段を登り、純白の断罪台の上へ。
周囲の騎士が動こうとしたが、誰かの指示が飛んだのか制止された。
そのまま俺は、シンシアのすぐ傍へと歩み寄る。
彼女は、ゆっくりとこちらを向いた。
「……どうして来たの?」
かすれた声だった。
でも、目だけは強くて、弱さを見せようとはしなかった。
俺は、あっけらかんに、簡単に答えた。
「助けたかったからだよ。お前が、誰にも助けられないまままたこんな場所で潰されるのを……見てられなかった」
断罪台の下――群衆のざわめきが、さらに大きくなる。
「なんだあれ……!」
「追放された男が、悪女の味方を……!?」
「まさか組んでたのか?」
構わず、俺は正面を向いた。
王族、貴族、神官、勇者パーティー――あの日俺を切り捨てた人間たちが、並んで座っていた。
中でも、リカルドの視線が、鋭く俺を貫いている。
それでも、怯まずに声を放った。
「……確かに、俺は『役立たず』だった。パーティーの中では、地味な補助しかできなかった。戦果も上げられなかったし、注目もされなかった」
沈黙が、断罪台を包む。
だが、俺は口角をほんの少し上げた。
「でもな。そんな俺でも――誰かの力になれるんだ。お前たちが『不要』と切り捨てた力で、人を守って、命を救うことができたんだ」
ゆっくりと振り返り、シンシアを見る。
「彼女の隣に立つことで、俺は『ただの役立たず』じゃなくなった。誰かを、信じて。信じられて……戦えるようになった」
その言葉に、彼女の瞳がわずかに揺れた。
俺は、再び前を向き、王族の玉座へと向かって言い放つ。
「この国に必要なのは、『与えられた使命』に従う者じゃない。苦しみの中でも、自分の意志で立ち上がれる――そんな『覚悟』だ。彼女は、どんな仕打ちを受けても前を向いてきた。王都に戻ることを決めたのも逃げなかったのも、自分で選んだからだ……だから、俺は彼女を誇りに思ってる」
「エリオット……」
「それに、俺たちは頑張ってきただろう?」
俺は笑いながら、シンシアをもう一度見る。
その姿を、彼女は驚いた顔で見ていた。
風が吹く。
その言葉は、きっと誰かの耳には届かなかっただろう。
だけど、断罪台の上で、俺と彼女の間には確かに伝わった。
シンシアが、わずかに目を伏せて呟いた。
「……ほんと、あんたって、馬鹿よね」
でもその声は――泣いているようで、笑っていた。



