追放された補助魔術師は、婚約破棄された悪役令嬢にスカウトされる ~辺境で始まる凸凹コンビの逆転劇~

 鐘の音が広場を震わせ、ざわめきはぴたりと止んだ。
 数百人の視線が、一斉に舞台へと向けられる。
 その中心――王家の紋章を掲げた幕が下ろされ、金色に輝く椅子に座る人物が姿を現した。
 若き王子――いや、俺にとっては勇者パーティーの主導者であるリカルドだ。
 背筋を伸ばし、剣を腰に下げ、相変わらず自信に満ちた顔つき。
 俺を切り捨てたときと、まったく同じ。冷たい瞳のままだ。

「これより――伯爵令嬢、シンシア・フォン・アーデルハイトの断罪を執り行う!」

 リカルドの声はよく通り、広場全体に響き渡った。
 その瞬間、群衆から歓声と罵声が入り混じった叫びが一斉に湧き上がる。

「出てこい、悪女!」
「王子を誑かした高慢令嬢め!」
「その鼻っ柱、へし折ってやれ!」

 言葉は刃となり、まだ姿を現していない彼女を、容赦なく切り刻んでいく。
 俺はその熱気に息苦しさを覚え、喉が詰まりそうになった。
 そして、舞台の奥から――ゆっくりと、一人の少女が姿を現す。

 ――シンシア。

 艶やかな金髪を結い上げ、真紅のドレスを纏った彼女は、罵声の渦中に立ちながらも怯む様子は微塵もなかった。
 顎を上げ、背筋を伸ばし、澄んだ青い瞳を真っ直ぐ前へと向けている。
 その姿はまるで、処刑台へと歩む王女のよう。
 毅然としていて、俺は思わず息を呑んだ。

 ――どうしてだろう?

 あれほどの敵意を向けられているのに、彼女は一歩も退いていない。
 むしろ群衆の憎悪を力でねじ伏せるような、気高さがあった。

「シンシア・フォン・アーデルハイト!」

 リカルドの鋭い声が広場に響く。

「お前のような女は、王家にふさわしくない!自らの欲のために殿下を誑かし、周囲を見下し、国の名誉を汚した!」
「そうだ、そうだ!」
「王妃の器じゃない!」
「悪女め!」

 群衆がそれに呼応し、口汚く叫ぶ。
 歓声は熱狂に変わり、広場は地鳴りのような怒号で満たされていく。
 俺は拳を握りしめていた。

 ――まただ。

 ほんの少し前、俺も同じように舞台の上から断罪を受けた。
 『役立たず』と呼ばれ、全てを否定された。
 そのときとまったく同じ構図が、今、彼女の上に重なっていた。
 しかしシンシアは群衆の罵声を真正面から受け止めながらも、ゆっくりと口を開く。

「……笑わせないでいただけるかしら」

 その声は澄んでいて、怒号の中でも確かに届いた。

「私が高慢?私が王家を汚した?――あなたたちの目には、そう映るのでしょうね。
 けれど、それが真実かどうかは、神のみが知ることよ」

 一瞬、群衆がどよめく。
 だがすぐに「負け惜しみだ!」「白々しい!」と罵声が重ねられる。
 それでも彼女は一歩も退かなかった。
 青い瞳をまっすぐに向け、誇り高く言葉を重ねる。

「私は、私の信じることを貫いただけ。それが罪だというのなら――喜んで、背負いましょう」

 胸を張ってそう言う彼女の姿に、俺の胸は強く打たれた。
 誰一人味方のいない場に、ただ一人で立ち尽くす少女。

 その姿は、あのときの俺と同じだ。

 群衆は、石を投げるように罵声を浴びせ続ける。
 リカルドの瞳は冷酷に彼女を見下ろし、マリーベルやガレスも、嘲笑を浮かべている。

 ……なぜだ。

 なぜ彼女は、こんなにも堂々としていられる?

 俺は、舞台の上の彼女から目を離せなくなっていた。
 かつて俺が持てなかった強さ――それを、彼女は確かに持っていたから。