空はどこまでも青く、遠くに続く森の緑が風に揺れている。
だがその美しい景色とは裏腹に、俺たちを迎える村人たちの目は、刺すように冷たい。
ここはミルナ村――テルマのギルド支部から推薦された次の仕事、「森の異変調査」のため、俺とシンシアはこの辺境の村にやってきた。
素朴で静かな村だ。
だが、すごく静かすぎる。
俺たちが村に足を踏み入れた瞬間から、どこか空気が張り詰めていた。
道端にいた農夫たちは鍬を止め、じろりとこちらを見ている。
井戸端にいた主婦らしき女性たちが、ひそひそと声を潜めるのが聞こえた。
「……あの女、貴族の出だって?」
「悪い事したから断罪されたんだろ?王子に捨てられたって……」
「『災いを呼ぶ女』って噂、ここにも届いてたわよ」
わざと聞こえるように言っているのか、それとも本当に隠しているつもりなのか。
そんな言葉があちこちから漏れてくる。
横にいるシンシアは、当然それを聞いているはずだった。
それでも彼女は、ピクリとも表情を変えない。
「……ふん」
ドレスの裾を払うようにして、一歩、また一歩と歩く。
頭を高く上げ、背筋をまっすぐに保ちまるで彼らの声など耳に入っていないかのように。
「なあ、シンシア……」
俺が声をかけようとすると彼女はすっと目をそらし、冷静な口調で言った。
「……別に構わないわ。こんなの、慣れてるもの」
その声音はどこまでも淡々としている。
けれど、その背中は少しだけ強ばって見えたのは気のせいだと思いたい。
王都で断罪された令嬢。
『悪女』「悪役令嬢」とも呼ばれ、人前で貶められ、そして追い出された――ここミルナのような小さな村でさえその噂は生きている。
彼女がどんな人間であるかを知ろうともせず、「過去の肩書き」だけで遠ざけようとする空気が村全体に張り巡らされていた。
(……やっぱり、そう簡単にはいかないか)
俺は大きく息を吐いて、できるだけ柔らかく笑った。
肩の力を抜いて、村の畑で働いていた初老の男性に声をかける。
「こんにちは。ギルドからの紹介で来たエリオットっていいます。森の件、詳しく聞かせてもらえれば――」
「……忙しいんでな」
男は目も合わせずに、鍬を再び振り下ろした。
まるで話しかけてはいけないものでも見るような顔で。
その隣にいた青年も何も言わず背を向けた。
少し離れた場所で遊んでいた子どもたちもシンシアが目に入ると一斉に走って物陰に隠れた。
「……はは、歓迎されてないな」
苦笑しながら、俺はシンシアの方を見る。
彼女は村人の冷たい目線を受け流しながら、どこか遠くを見つめていた。
その表情には、怒りもなければ悲しみもない。
ただ、深い諦めだけが滲んでいるように見えた。
「こうなるって、分かってたんでしょ?」
「……そうだな。でも、分かっててもキツいものはキツいよ」
彼女はわずかに口元を歪めた。
「」貴族様”が、今さら民の信頼なんて得られるわけないじゃない。彼らにとって私は、いつだって『偉そうな奴ら』なのよ。今は『落ちぶれた偉そうな奴』なのかしら?」
自嘲気味に言うその声に、俺は言葉を返せなかった。
何も言わずに俺は隣に並ぶだけだった。
やがて、村の広場にたどり着く。
その中心に石造りの大きな井戸と、いくつかの粗末な木の椅子が並んでいた。
広場の端に、数人の村人が立ち俺たちを見つめていた。
どれも、敵意まではいかない。
でも、明確な『警戒』だった。
「……この村、本当に大丈夫かな」
俺がそうつぶやくとシンシアは腕を組んだまま、小さく呟いた。
「村がどうでも、私は変わらないわ。仕事をするだけ。余計な同情はいらないから」
それは、あくまでも彼女なりの『気丈さ』。
だけど――本当は、きっと傷ついている。
そのことを、俺は言葉にはせず、そっと心にしまった。
(……さて。ここからどう動くか、だな)
村の冷たい風の中で、俺たちの仕事が始まろうとしていた。
だがその美しい景色とは裏腹に、俺たちを迎える村人たちの目は、刺すように冷たい。
ここはミルナ村――テルマのギルド支部から推薦された次の仕事、「森の異変調査」のため、俺とシンシアはこの辺境の村にやってきた。
素朴で静かな村だ。
だが、すごく静かすぎる。
俺たちが村に足を踏み入れた瞬間から、どこか空気が張り詰めていた。
道端にいた農夫たちは鍬を止め、じろりとこちらを見ている。
井戸端にいた主婦らしき女性たちが、ひそひそと声を潜めるのが聞こえた。
「……あの女、貴族の出だって?」
「悪い事したから断罪されたんだろ?王子に捨てられたって……」
「『災いを呼ぶ女』って噂、ここにも届いてたわよ」
わざと聞こえるように言っているのか、それとも本当に隠しているつもりなのか。
そんな言葉があちこちから漏れてくる。
横にいるシンシアは、当然それを聞いているはずだった。
それでも彼女は、ピクリとも表情を変えない。
「……ふん」
ドレスの裾を払うようにして、一歩、また一歩と歩く。
頭を高く上げ、背筋をまっすぐに保ちまるで彼らの声など耳に入っていないかのように。
「なあ、シンシア……」
俺が声をかけようとすると彼女はすっと目をそらし、冷静な口調で言った。
「……別に構わないわ。こんなの、慣れてるもの」
その声音はどこまでも淡々としている。
けれど、その背中は少しだけ強ばって見えたのは気のせいだと思いたい。
王都で断罪された令嬢。
『悪女』「悪役令嬢」とも呼ばれ、人前で貶められ、そして追い出された――ここミルナのような小さな村でさえその噂は生きている。
彼女がどんな人間であるかを知ろうともせず、「過去の肩書き」だけで遠ざけようとする空気が村全体に張り巡らされていた。
(……やっぱり、そう簡単にはいかないか)
俺は大きく息を吐いて、できるだけ柔らかく笑った。
肩の力を抜いて、村の畑で働いていた初老の男性に声をかける。
「こんにちは。ギルドからの紹介で来たエリオットっていいます。森の件、詳しく聞かせてもらえれば――」
「……忙しいんでな」
男は目も合わせずに、鍬を再び振り下ろした。
まるで話しかけてはいけないものでも見るような顔で。
その隣にいた青年も何も言わず背を向けた。
少し離れた場所で遊んでいた子どもたちもシンシアが目に入ると一斉に走って物陰に隠れた。
「……はは、歓迎されてないな」
苦笑しながら、俺はシンシアの方を見る。
彼女は村人の冷たい目線を受け流しながら、どこか遠くを見つめていた。
その表情には、怒りもなければ悲しみもない。
ただ、深い諦めだけが滲んでいるように見えた。
「こうなるって、分かってたんでしょ?」
「……そうだな。でも、分かっててもキツいものはキツいよ」
彼女はわずかに口元を歪めた。
「」貴族様”が、今さら民の信頼なんて得られるわけないじゃない。彼らにとって私は、いつだって『偉そうな奴ら』なのよ。今は『落ちぶれた偉そうな奴』なのかしら?」
自嘲気味に言うその声に、俺は言葉を返せなかった。
何も言わずに俺は隣に並ぶだけだった。
やがて、村の広場にたどり着く。
その中心に石造りの大きな井戸と、いくつかの粗末な木の椅子が並んでいた。
広場の端に、数人の村人が立ち俺たちを見つめていた。
どれも、敵意まではいかない。
でも、明確な『警戒』だった。
「……この村、本当に大丈夫かな」
俺がそうつぶやくとシンシアは腕を組んだまま、小さく呟いた。
「村がどうでも、私は変わらないわ。仕事をするだけ。余計な同情はいらないから」
それは、あくまでも彼女なりの『気丈さ』。
だけど――本当は、きっと傷ついている。
そのことを、俺は言葉にはせず、そっと心にしまった。
(……さて。ここからどう動くか、だな)
村の冷たい風の中で、俺たちの仕事が始まろうとしていた。



