追放された補助魔術師は、婚約破棄された悪役令嬢にスカウトされる ~辺境で始まる凸凹コンビの逆転劇~

 ギルドの掲示板前には今日もいつも通りの賑わいが広がっていた。

「おい、こっちの依頼、そろそろ誰か受けるか?」
「報酬はいいけど、毒霧地帯ってのがな……」
「昨日の件で腕つったんだよ、まだ痛ぇし」

 そんな冒険者たちの声を聞きながら、俺は受付で報告書を提出していた。
 今朝方、ちょっとした荷馬車護衛の依頼をこなしたばかりだ。
 特にトラブルもなく、無事に終わったはずだ。

「依頼内容……達成確認。報酬支払いを行います。次回から記録書式はもう少し丁寧に」

 無愛想受付嬢、クラリスさんのいつもの無機質ボイスが返ってくる。
 俺は苦笑しながら頭を下げた。

「すみません、気をつけます……」

 シンシアが後ろから小さくため息をついた。

「まったく、いつまで経っても字が雑ね……貴族の書き方講座でも受ける?」
「そこまで求められてないだろ?」
「求められてなくても、美しさは保つべきなの」

 言うだけ言って、そっぽを向く。
 でも、前ほどピリピリした言い方じゃなかった。
 口調は相変わらず強気だけど、トゲが少し丸くなった気がする――そんな時、ギルドの片隅から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「なあ、見たか? あの二人、また依頼成功してやがった」
「マジ? 前のゴブリンの時もやらかさずに終わったんだっけ?」
「前より全然まともに戦ってるよ、あの『悪女』」
「しかも補助魔法が地味にすごいんだよな。エリオットの加速術、マジで狩りやすくなるって評判だぞ」

 俺の足が、自然と止まった。
 小さく、でも確かに届くその言葉たち。
 耳を疑ってしまうほど、まっとうな評価。
 嘗ては「役立たず」「荷物係」「小細工だけの男」と蔑まれ続けた俺に向けられるなんて――。

「……なんか、信じられないな」

 思わず呟いた俺に、隣からシンシアがちらりと視線を向ける。

「何が?」
「いや、周りの目がちょっと変わってきたな、って……少し前まではさ、「なんでこんなやつらがギルドにいるんだ」って顔ばっかだったからさ」

 すると、シンシアはふんっと鼻を鳴らした。

「当然よ……実力は最初からあったの。ただ、見る目がない連中が多かっただけ」

 その言葉は、シンシア自身のプライドを保つための強がりにも聞こえたが、どこか俺の存在を肯定してくれているようにも感じられた。

「……その割には、ギルドに火球ぶちかましかけてなかった?」

 俺の言葉に、シンシアは分かりやすく狼狽した。

「……っ、あ、あれは誤差よ!誤差!」

 頬をわずかに膨らませながらそっぽを向くシンシア。
 けれど、その首筋がほんのり赤くなっているのは、きっと気のせいじゃない。
 そんな二人のやりとりを見ていたクラリスさんが、淡々とした調子で書類を差し出してきた。

「はい、次回依頼用の登録票……それと、」

 少しだけ間を置いてから、彼女は言った。

「……あなたたち、最近変わってきたわね」
「え?」

 俺が思わず聞き返すと、彼女はペンを走らせながら言葉を続けた。

「最初は、どっちも『扱いづらい問題児』だったし、こっちは受付に魔力痕つけられるし、そっちは喋ってる最中にしょっちゅう噛むし」
「それは……すみません……」
「でも、最近は別。ちゃんと現場の評価も上がってるわ。無茶も減ったし、書類の提出も(ギリギリ)間に合ってる」

 クラリスさんなりの『称賛』だったのだろう。
 珍しく、口調に少しだけ柔らかさが混じっていた。

「まあ、油断しないで。まだ『問題児ランク』よ。せいぜい『反省はしてる風』レベル」
「はい……」

 俺がぺこぺこと頭を下げ、安堵の息をつく。
 王都では常に完璧を求められ、少しの失敗も許されなかった。
 だから、この「ギリギリ」という言葉さえ、この町が自分を受け入れてくれているような気がして、胸が軽くなる。
 一方で、シンシアは腕を組みながら鼻を鳴らす。

「……見なさい、これが私の努力の結果よ!やっと理解できたのね、凡人たちが!」
「はいはい、よかったね。鼻伸びてるよ」
「……うるさいわね!」

 そんな他愛ないやり取りの中にも、ふと心に温かいものが灯っていた。
 誰かに必要とされる、誰かに認められる。
 それだけのことで、こんなにも胸が軽くなるんだって――久しぶりに思い出せた。

 王都では、何をしても『足手まとい』だった。
 勇者パーティーでは、どれだけ尽くしても「無能」としか呼ばれなかった。

 でも今は――

「少しだけ……前に進めてるのかもな」

 そんな俺の言葉に、シンシアは一瞬だけこちらを見て、すぐにそっぽを向いた。
 ただ、その横顔はどこか、嬉しそうだった。