「まったく……どうして私が、こんなことを」
シンシアはうんざりとした声でつぶやき、道端の草を苛立たしげに踏みつける。
俺たちが受けた今回の依頼。
「村の子供が森で迷子になったらしいので、捜索してほしい」
というものだった。
報酬は少なめ、内容も地味だ。
けれど、村人の顔は本気だった。
子供のこととなれば、誰だって必死になる。
「まあまあ。たまには派手じゃない仕事も必要だろ」
「私は戦うためにここに来たの。子守りするためじゃないわ」
「子守りじゃない。命を探してるんだ」
そう言うと、シンシアはチラッと俺の顔を見て、わずかに眉をひそめた。
「……言い方だけは立派ね」
だけど、それ以上文句は言わなかった。
捜索は思ったより難航した。
村の外れ、草木がうっそうと茂る小さな森。
足跡は途中で消えており、時間が経っていたこともあって手がかりは少ない。
俺は定期的に《アナライズ・サーチ》を唱え、魔力の痕跡や生命反応を探る。
シンシアは文句を言いつつも、魔力感知で補助してくれていた。
「……あっち」
彼女が指さした先、小さな岩陰に、膝を抱えて蹲っている子供の姿を見つけた。
森の中に似つかわしくない、小さな背中。
「いた……!」
俺が駆け寄ろうとしたそのときだった。
「――グギャァァ!!」
茂みの中から、醜悪な叫びが響いた。
現れたのは、三つ首の鳥型モンスター――《スプリッター・クロウ》。
元々この辺りに巣食う低級魔獣だ。
だが、子供にとっては十分に脅威だった。
俺が結界を展開するより先に、シンシアが前に出ていた。
「……っ、邪魔よッ!!」
彼女の掌から魔力が迸る。
「《フレイム・スパイク》!」
鋭く放たれた火球が、一直線に飛び、モンスターの胸部を撃ち抜いた。
断末魔も虚しく、魔物は燃え尽き、森の中に倒れ伏した。
「っ……ふぅ」
その様子を見届け、シンシアはゆっくりと息を吐いた。
だが、その瞬間だった。
「ひっ……うわあああ!!」
子供が叫び声を上げ、反射的に逃げ出そうとした。
シンシアの圧倒的な魔力と、炎で焼き尽くす様子は恐怖以外のなにものでもなかったのだろう。
「ま、待って!」
俺は慌てて追いかけ、すぐにその腕を掴んで膝をついた。
子供の震える体を優しく抱きしめ、背中をゆっくりとさする。
「大丈夫、大丈夫だから。ほら、モンスターはもういないよ。ほら、息して。ね?」
子供は震えながら、俺の顔を見上げた。
その瞳には、恐怖と涙、そして混乱が混ざっていた。
「怖くないよ。あのお姉ちゃんが、君を助けてくれたんだ」
俺はゆっくりと、シンシアの方を指さす。
彼女はまだ少し息を整えていたが、俺の視線に気づいて、子供に目を向けた。
真っ直ぐに。そのまっすぐな青い瞳で。
「……この人が、君を守ったんだ。ちゃんと、ありがとうって言えるか?」
子供は一瞬戸惑い、震えた唇をぎゅっと結んだ。
そして、小さく、けれど確かに言った。
「……ありがと」
その瞬間、シンシアは目を瞬いた。
なにか、思ってもいなかった言葉を聞いたような、そんな顔だった。
感謝の言葉など、彼女の人生でどれほど耳にしたことがあっただろうか。
ましてや、見ず知らずの平民の、しかも子供から。
その言葉は、彼女の心の鎧に微かなひびを入れたのかもしれない。
そして、そっと視線を外す。口元がかすかに動く。
でも、その言葉は俺の耳には届かなかった。
俺はそれ以上、何も言わずに子供の頭を撫でる。
シンシアも、黙って近づいてきて、その横に立った。
森の静けさの中に、微かな温もりが流れ込んでいた。
帰り道――シンシアはずっと黙っていた。
でも、何かを考えているのは明らかだった。
無意識にスカートの裾をいじったり、口を小さく開けては閉じたり。
ようやく町が見えてきた時、彼女はぽつりとつぶやいた。
「……あの子、あんなに小さいのに、きちんと『ありがとう』って言ったのね」
「ん?うん、言ってたな。ちゃんと、君のこと見てたよ」
「……へえ」
それっきり、彼女はまた黙ってしまった。
だけど、歩く足取りは行きよりもほんの少しだけ、軽くなっていた
シンシアはうんざりとした声でつぶやき、道端の草を苛立たしげに踏みつける。
俺たちが受けた今回の依頼。
「村の子供が森で迷子になったらしいので、捜索してほしい」
というものだった。
報酬は少なめ、内容も地味だ。
けれど、村人の顔は本気だった。
子供のこととなれば、誰だって必死になる。
「まあまあ。たまには派手じゃない仕事も必要だろ」
「私は戦うためにここに来たの。子守りするためじゃないわ」
「子守りじゃない。命を探してるんだ」
そう言うと、シンシアはチラッと俺の顔を見て、わずかに眉をひそめた。
「……言い方だけは立派ね」
だけど、それ以上文句は言わなかった。
捜索は思ったより難航した。
村の外れ、草木がうっそうと茂る小さな森。
足跡は途中で消えており、時間が経っていたこともあって手がかりは少ない。
俺は定期的に《アナライズ・サーチ》を唱え、魔力の痕跡や生命反応を探る。
シンシアは文句を言いつつも、魔力感知で補助してくれていた。
「……あっち」
彼女が指さした先、小さな岩陰に、膝を抱えて蹲っている子供の姿を見つけた。
森の中に似つかわしくない、小さな背中。
「いた……!」
俺が駆け寄ろうとしたそのときだった。
「――グギャァァ!!」
茂みの中から、醜悪な叫びが響いた。
現れたのは、三つ首の鳥型モンスター――《スプリッター・クロウ》。
元々この辺りに巣食う低級魔獣だ。
だが、子供にとっては十分に脅威だった。
俺が結界を展開するより先に、シンシアが前に出ていた。
「……っ、邪魔よッ!!」
彼女の掌から魔力が迸る。
「《フレイム・スパイク》!」
鋭く放たれた火球が、一直線に飛び、モンスターの胸部を撃ち抜いた。
断末魔も虚しく、魔物は燃え尽き、森の中に倒れ伏した。
「っ……ふぅ」
その様子を見届け、シンシアはゆっくりと息を吐いた。
だが、その瞬間だった。
「ひっ……うわあああ!!」
子供が叫び声を上げ、反射的に逃げ出そうとした。
シンシアの圧倒的な魔力と、炎で焼き尽くす様子は恐怖以外のなにものでもなかったのだろう。
「ま、待って!」
俺は慌てて追いかけ、すぐにその腕を掴んで膝をついた。
子供の震える体を優しく抱きしめ、背中をゆっくりとさする。
「大丈夫、大丈夫だから。ほら、モンスターはもういないよ。ほら、息して。ね?」
子供は震えながら、俺の顔を見上げた。
その瞳には、恐怖と涙、そして混乱が混ざっていた。
「怖くないよ。あのお姉ちゃんが、君を助けてくれたんだ」
俺はゆっくりと、シンシアの方を指さす。
彼女はまだ少し息を整えていたが、俺の視線に気づいて、子供に目を向けた。
真っ直ぐに。そのまっすぐな青い瞳で。
「……この人が、君を守ったんだ。ちゃんと、ありがとうって言えるか?」
子供は一瞬戸惑い、震えた唇をぎゅっと結んだ。
そして、小さく、けれど確かに言った。
「……ありがと」
その瞬間、シンシアは目を瞬いた。
なにか、思ってもいなかった言葉を聞いたような、そんな顔だった。
感謝の言葉など、彼女の人生でどれほど耳にしたことがあっただろうか。
ましてや、見ず知らずの平民の、しかも子供から。
その言葉は、彼女の心の鎧に微かなひびを入れたのかもしれない。
そして、そっと視線を外す。口元がかすかに動く。
でも、その言葉は俺の耳には届かなかった。
俺はそれ以上、何も言わずに子供の頭を撫でる。
シンシアも、黙って近づいてきて、その横に立った。
森の静けさの中に、微かな温もりが流れ込んでいた。
帰り道――シンシアはずっと黙っていた。
でも、何かを考えているのは明らかだった。
無意識にスカートの裾をいじったり、口を小さく開けては閉じたり。
ようやく町が見えてきた時、彼女はぽつりとつぶやいた。
「……あの子、あんなに小さいのに、きちんと『ありがとう』って言ったのね」
「ん?うん、言ってたな。ちゃんと、君のこと見てたよ」
「……へえ」
それっきり、彼女はまた黙ってしまった。
だけど、歩く足取りは行きよりもほんの少しだけ、軽くなっていた



