追放された補助魔術師は、婚約破棄された悪役令嬢にスカウトされる ~辺境で始まる凸凹コンビの逆転劇~

「じゃあ今日は、合同パーティーでお願いね」

 冒険者ギルドの受付嬢クラリスさんは、いつもの無表情な顔でそう言った。

「Fランクの新人同士、連携の訓練も兼ねて、ね。いい機会でしょ?」

 そんな調子で斡旋された依頼は、テルマの町から北に少し行った林道沿いに出没する『スライム型モンスター』の駆除だった。
 討伐対象は小型で危険度は低い。新人向けの定番依頼らしいが――今回はひとつ、試練がついていた。

 合同パーティー――つまり、初対面の新人たちとの共闘だ。

「エリオットくんと、それに……シンシアさん、で良いのかな?」

 先に現れた三人組のひとり、背の高い槍使いの青年が気まずそうに俺たちを見た。

「初めまして。僕たち三人で組んでて、今日が三回目の実地依頼です。よろしくお願いします」
「へぇ。で、そっちの二人は何ができるの?こっちの前衛はもう揃ってるけど?」

 今度は斧を持った少女がつっけんどんに言う。
 その横で、控えめなローブ姿の魔法使い系の女の子が、おずおずと頭を下げた。

「わ、わたしは後方支援です……っ。炎の初級魔法が少し使えます……」

 挨拶は、まぁ順調といえば順調だった。
 槍使いの青年は真面目で、斧使いの少女は口は悪いが実直、魔法使いの女の子は引っ込み思案。
 個性はバラバラだが、それぞれ自分の役割を理解しているようだった。

 問題は、このあとだった。

「じゃ、あとは実戦あるのみ!いくわよ!」

 宣言と同時に、突っ走る少女――ではなく、シンシアだった。

「わ、シンシアさん!?」

 止める間もなく、彼女は前線を無視して単独で飛び出す。
 森の茂みに潜んでいたスライムが現れたその瞬間、彼女の指先が火花をまとう。

「《フレイム・スパイク》!」

 ぶぅん! と空気が震える音。
 火球が唸りを上げて飛び――ドゴォォォン!!

 スライムに直撃したかと思えば、着弾地点の周囲を巻き込み、爆発。地面はえぐれ、木々が焦げ、スライムは跡形もなく消し飛んでいた。
 まるで、嵐が通り過ぎた後みたいな惨状だ。

「え、えええっ!? 初級魔法じゃないの!?」

 新人魔法使いの少女が、恐怖に顔を引きつらせていた。

「ば、ばかな威力……」

 槍使いの青年は、口をあんぐりと開けている。
 新人三人組は、呆然。俺も一瞬目を見開いた。

 ……でも、すぐに気づく。

(魔力の制御が不安定だ。あの魔法……威力だけなら中級レベルじゃないか?)

 そして問題はそれだけじゃなかった。
 次の瞬間、第二波のスライムが茂みからどっと現れ、焦げ跡の向こうから這い寄ってくる。

「前衛、構えて!……って、あれ? 位置がズレてる!」
「うわ、盾が間に合わないっ!」
「シンシアさんが前に出すぎて……連携が!」

 やばい。完全に、フォーメーションが崩れている。
 シンシアの破壊力は圧倒的だが、その代償として、他のメンバーの役割を無視している。
 これが彼女の『悪女』と呼ばれるスタイルなのか、それとも彼女のやり方なのか。

「っ……《バリア・サークル》展開!」

 俺は慌てて魔力を走らせる。
 結界魔法を即座に起動し、前衛の手前に防壁を形成し――半透明の膜が、スライムの突進をぎりぎりで受け止める。
 間に合った。
 けど、あくまで一時しのぎだ。

(このままだと、各個撃破される……)

 俺はすぐに戦況を分析した。問題の核は、シンシアの『突出』。
 そして『魔力の暴走』。
 彼女は、強い――魔力の総量も高いのかもしれない。
 でも、自分がチームの一員であるという意識にまだ慣れていない。
 つまり、補助で彼女を制御し、全体の足並みを揃える必要がある。

 「――《マジック・アジャスト》!」

 次の瞬間、俺は補助魔法を展開。
 シンシアに向けて、魔力の流れを整えるフィールドを重ねた。
 暴走を抑え、発動タイミングを最適化する補助魔法だ。

「シンシア、聞こえるか!魔力、少し抑えて撃ってみてくれ!」
「……っ、わかったわ!」

 今度は火球のサイズが適正。
 前衛との距離も計算され、スライムの群れを正確に狙い撃った。

「《フレイム・スパイク》、発射!」

 ――炸裂音。

 だが先ほどよりコンパクトで、狙いは的確。
 スライムは粉砕され、地形の損壊もない。
 その瞬間、前衛の槍使いが突き、斧使いが追撃を決め、魔法使いの少女が仕上げを放った。

「……やった、全滅だ!」

 数分の混戦の末、俺たちは依頼を成功させた。

「……なんというか、すごかったです、あの魔法の火力」
「でも、さっきよりもずっと安定してたよな? 最後の一撃なんて完璧だった」
「うん。補助、ってああいうふうに効いてくるんだな……」

 帰り道、三人組の空気は打って変わって穏やかだった。
 シンシアはというと――やや不機嫌そうな顔で、何も言わずに歩いていた。
 けど、頬がほんのり赤いのは、たぶん気のせいじゃない。

「……その、ありがとう。助けてもらったわ」

 ぽつり、と漏れるような声。

「別に。俺はただ、後衛として当然のことをしただけだよ」

 俺は苦笑しながら返した。

(けど、本当はちょっと嬉しい)

 『あの彼女』が自分の支援を受け入れてくれたということが、なによりの進歩だった。
 これがたった一歩目だとしても――チームとしての、俺たちの物語が動き始めた気がした。