追放された補助魔術師は、婚約破棄された悪役令嬢にスカウトされる ~辺境で始まる凸凹コンビの逆転劇~

 ギルドに登録してから、数日後のことだった。

「よし、今日は初めての討伐依頼だ!」

 朝一番、掲示板の前で俺は気合を入れて声を上げた。
 依頼内容は、町外れの古い洞窟に住み着いたゴブリンの巣の調査と掃除。被害はまだ出ていないものの放っておくと厄介な集団になるらしい。
 いわば、Fランク恒例の『お試し戦闘任務』といったところだ。

「ふん、よりによって『ゴブリン』だなんてね。もっと手応えのある敵はいなかったの?」

 隣でシンシアが鼻で笑う。
 長い金髪をいつもより高く結び、動きやすい軽装の魔導士服に身を包んだその姿は、たしかに見た目は一流の冒険者そのものだ……中身はさておき。

「むしろちょうどいいと思うけどな。俺たち、まだ始めたばかりなんだし」
「ちっ……まあいいわ。貴族たるもの、仕事はきっちりこなす主義よ。さっさと終わらせましょう」

 そうして、俺たちはテルマの町から南へ、森を越えた先にある小さな洞窟へと向かった。

 洞窟の入り口は、思ったよりもしっかりしている。
 ゴブリンたちが住み着いてから時間が経っているのだろう。
 簡単な木製の柵まで作られていて、入り口には汚れた骨の山が転がっている。

「うわ、臭っ……」
「野蛮な生き物に相応しいわね」

 シンシアは眉をひそめながらも、杖を構えてずんずんと中へ入っていく。

「お、おい、もうちょっと慎重に……!」

 俺の声もむなしく、彼女は魔力を込めた杖を前に掲げ、洞窟の中に向かって言い放った。

「この私に立ち向かおうなんて、身の程知らずにもほどがあるわ。掃除ついでに燃やし尽くしてあげるっ!」

 そして――

「《フレイムバースト》!!」

 ドンッ!!

 ……あ。

 シンシアの杖の先端から放たれた炎の塊は、洞窟の奥で凄まじい爆発を起こした。
 爆音とともに、洞窟の奥から熱風が吹き荒れ、天井からはバラバラと石片が降ってくる。
 その爆発の余波はまるで生き物のように洞窟全体を揺らし、内部の壁にひび割れを走らせていく。

「ちょっ、おいシンシア!?いきなり奥に火球ぶっ放すやつがあるか!?」
「だって、先手必勝って言うじゃない!」
「『制圧』じゃなくて『調査』が主目的だって、ちゃんと説明聞いてたよね!?」
「細かいこと気にしすぎよ!」
「気にしろォォォ!!」

 天井がメリメリッと不穏な音を立てる。
 今にも落ちてきそうな岩の塊が、俺たちの頭上で不気味に揺れていた。
 このままじゃまずい!?

「《プロテクト・フィールド》っ!」

 俺は慌てて魔法陣を展開し、シンシアと自分を包むように防御結界を張った。
 直後、頭上からドガラガッシャアア!!と崩落する岩の嵐。
 結界に叩きつけられる岩の音と衝撃が、嫌なまでに響き渡る。

 ――はい、洞窟、崩れました。

   ▽

「くっ……セーフ。ギリギリ……!」

 結界は、なんとか俺たちを潰される前に防ぎ切ってくれた。
 が、周囲は完全に瓦礫の山。外への道は完全に塞がれていた。

「……え、これ、どうすんの?」
「出るしかないでしょ。魔力は使いすぎたけど、なんとか穴を──」
「待て待て! また火球撃とうとしてない!?」
「じゃあどうやって出るのよ!」
「俺がやるから黙ってて!!」

 再び《プロテクト・フィールド》を展開。
 今度は、空気の流れと構造を解析しながら通気のある部分を探し、そこに向かって崩落防止の支柱代わりの魔法を配置する。
 シンシアもまた、俺の指示に従い、瓦礫の隙間に光魔法を放って視界を確保してくれる。
 狭い、苦しい、暑い。全身から汗が噴き出すが、お互いに文句を言う余裕はない。

 だけど、なんとか……なんとか、

「──よしっ! ここを抜ければ外だ!」
「ふう……助かったわ。やるじゃない」
「最初から爆発させなければ、もっと楽だったけどな……」

 外の空気を吸った瞬間、俺たちはぐったりと地面に座り込んだ。
 新鮮な空気が肺を満たし、冷たい土の感触が、生きていることを実感させてくれる。

   ▽

 ギルドに戻ると、クラリスが眉一つ動かさずに報告を聞き、依頼書に受理印を押してくれた。

「洞窟は部分的に崩落、ゴブリンの生息は確認できず……まあ、『掃除』って意味では成功ね」
「……本当は、掃除というより『全壊』に近い気がするけど……」
「でも、成果はあったわよね?」

 横でシンシアが得意げに言う。
 その直後、ギルドの奥からヒソヒソ声が聞こえてきた。

「やべぇな……あの火球の音、ギルド前まで届いてたぞ」
「威力だけならAランク級じゃねぇか?」
「……ただし、使いどころはC級以下だな」
「誰がC級よ!? もう一発撃つわよ!?」
「やめてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 俺の悲鳴が、テルマのギルド支部にこだました。