追放された補助魔術師は、婚約破棄された悪役令嬢にスカウトされる ~辺境で始まる凸凹コンビの逆転劇~

 王宮の大広間は、聖なる光に満たされているというのに凍りついたような静寂に包まれていた。
 窓から差し込む朝日は、ステンドグラスを通り虹色の光となって磨き上げられた大理石の床に映っている。
 その神聖な輝きが、いまの俺の境遇を、いっそう残酷に照らしていた。
 広間の中央に立たされた俺に、四方八方から冷たい視線が突き刺さる。
 まるで、俺という存在そのものが罪であるかのように。

 俺を囲むのは、剣を携えた勇者リカルド。
 慈愛の微笑みを浮かべる聖女マリーベル。
 巨大な戦斧を肩に担ぐ戦士ガレス。

 選ばれし勇者パーティーの彼らは、自信と栄光に満ち、まばゆい光を放っていた。
 その中で、攻撃魔法ひとつ使えない俺はただの『役立たず』だ。
 彼らにとって俺は、その輝きを曇らせる影にすぎないのだろう。

「――エリオット・レナード。お前を、勇者パーティーから追放する」

 リカルドの冷酷な声が、大広間に響き渡る。
 その瞳には感情の色はなく、あるのは苛立ちと、冷徹な意志だけだった。

「この旅は、魔王を討つための聖なる使命だ。全人類の希望を背負っている。そこに『お前のような役立たず』を連れていく余裕はない」
「……待ってください、リカルド様。俺は……みんなの身を守る結界を張ったり、動きを速める補助魔法を……できる限り、精一杯……」

 喉が震え、声がかすれる。
 俺は必死に訴えたつもりだった。
 だがその言葉は、すぐにガレスの嘲笑にかき消される。

「精一杯? はっ、そんな小細工にどんな意味がある?魔王軍の力の前じゃ、お前の薄っぺらい結界なんて、紙切れ同然だ!」

 大柄な彼は、心底バカにするように鼻で笑った。
 戦場で必要なのは『力』だ――その価値観が、俺の全否定となって突き刺さる。
 マリーベルは、鈴の音のような声で笑った。
 だがその笑みは氷より冷たく、俺の胸を深く抉った。

「可哀想に、エリオット。自分の実力も分からないまま、勇者パーティーに入ってしまったのね。あなたの居場所は、ここにはないわ」

 その言葉には、一片の温かみもなかった。
 彼女の美しい顔は、冷酷な仮面のようだった。
 積み上げてきた努力も、誰かを守りたいと願った気持ちも――すべて否定される。
 俺の存在そのものが、無意味だと言われているようだった。
 反論の言葉なんて、どこにも見つからない。
 確かに、俺は攻撃魔法を使えない。
 勇者としての資格なんて、最初からなかったのかもしれない。
 胸が締めつけられ、呼吸が浅くなる。
 氷の刃で心臓を抉られるような痛みだった。

「お前はもう用済みだ。即刻、王都から出ていけ。二度と、我々の前に姿を現すな」

 リカルドの冷酷な宣告は、まるで死刑宣告のように、俺の心を打ち砕いた。

 ……俺は、深く頭を下げた。

 その場を後にする足取りは覚束なく、今にも崩れ落ちそうだった。
 背後で重々しい扉が閉まる音が響く。
 それは、俺がいた世界と、これから歩む世界を隔てる境界線だった。
 光に満ちた勇者たちは、俺の抜けた席を当然のように埋め、もう誰も俺のことなど気にしていない。

 ――俺は、一人になった。

 『役立たず』の烙印を押されたまま、王都の雑踏の中へ、俺という存在は音もなく溶けていった。