俺と大ちゃんの終わらない夏


 さて、今日は文化祭である。
 文化祭と言えばつまり文化の祭、俺たち文系の部活が日の目を見る日。さぁ、いざ晴れ舞台!
 ……なんて言いたいところだが、実はそれほどやることはない。
 特に俺たち三年はもう引退しているし、一応作品は展示してもらうが、わざわざ文化祭のために書いたりはしない。最後の大会に出した作品を、そのまま掲示してもらうだけだ。
 うちの学校の文化祭は、二年生が主体となってやることになっている。クラス出店も一、二年生だけで、三年生はほぼお客様って感じだ。まぁそのぶん受験に集中しましょうってことなんだろうけども……。
 しかし俺の所属していた書道部は当の二年生の人数が少なく、俺はちょっとだけ手伝いとして参加することになっていた。
 その手伝いというのは……。



「ふぁ〜……」

 俺は誰に遠慮することなく大きなあくびをして、むにゃむにゃと机に突っ伏す。

「暇だぁ」

 俺の文化祭における書道部のお手伝いは、いわゆる店番だ。部員の作品が展示してある書道室で、訪れた人に『あ、どうぞゆっくり見ていってくださいね』と言う係。来訪者の数も記録しないし、本当にいるだけ。
 一、二年生はクラス出店の準備や当番で忙しいから、暇な俺がこの暇な役割を代わっている、というわけである。
 しかし書道部室というのは校舎の中でも端の方にあって、なかなか人がやって来ない。一応パンフレットには記載されているのだが、やっぱりみんな飲食店やら迷路やらおばけ屋敷に行きたいわけで……。

(まぁおかげでのどかな時間を過ごせてるんだけど)

 開け放った窓からは、風にのって文化祭のざわめきが聞こえてくる。が、それもどこか遠い。ほどよいざわめきは、まるで子守歌のようだ。
 俺は冷たい机に頬をぺたりと張り付けて、うと……と目を閉じた。

「こら、立野」

 急に頭上から声が降ってきて、俺は『はっ!』と慌てて顔を上げる。

「大ちゃんっ、ごめ…………あれ?」

 大ちゃんかと思って目をやった先にいたのは、なんとびっくり大ちゃんの弟の輝樹くんであった。俺や大ちゃんも着ていた中学のブレザーを着て、俺を見下ろしている。大ちゃんによく似た顔、でも大ちゃんより髪が長くて、ちょっぴり線が細い。

「輝樹くん」
「きょうちゃん、やっほ」

 輝樹くんの頬はにやにやとゆるんでいて、俺をからかってやろうという魂胆が見てとれた。

「もー、わざと大ちゃんみたいな声出したでしょ」
「へへへ、見事に騙されてくれてありがとう~」

 最近声変わりをした輝樹くんは、ぐんと背も伸びて、大ちゃんに似てきたと騒がれている。本人は『俺が兄貴に似てるんじゃなくて、兄貴が俺に似てるんだよ』なんてことを言っているが、そういうふてぶてしいところも似てるなぁなんて俺は思っている。
 声が似てきてから、輝樹くんはときどきこうやって俺を騙してくるようになった。普段は『きょうちゃん』って呼ぶくせに『立野』なんて呼んじゃってさ。まったくもう。

「大ちゃんが来たのかと思って焦っちゃった」

 俺は机に座ったまま、だるんと力を抜く。もし大ちゃんなら『サボってんなよ』とでっかい拳で、こつ、と額を小突いてくるかもしれない。

「その兄貴は? きょうちゃんと一緒にいるかと思ってたけど」

 輝樹くんは白い歯を見せて笑ったあと、きょろ、と書道室の中を見渡した。部屋の中にはもちろん俺しかおらず、デカい図体をした大ちゃんが隠れる場所もない。

「ん、大ちゃんは野球部のイベントの応援〜」

 俺はひらひらと手を振って、そのまま中庭の方を指差した。
 大ちゃんは、野球部の今年の催しものであるストラックアウト大会の特別審査員……という名の客寄せ要因として駆り出されている。
 文化祭は基本的に文系部が主役なんだけど、運動部も別に排除されているわけではない。部活単位でイベントを企画することが許されていて、野球部も毎年なにかしらの催しものを用意している。
 今年は『みんなでやろうよストラックアウト大会』がテーマで、お客さんにストラックアウト(いわゆる九つの的を狙ってボールを投げるゲームだ)をやってもらい、その的に当たった数で景品をプレゼント……なんてことをやっているらしい。
 それを説明すると、輝樹くんは「ふーん」と興味なさげに鼻を鳴らした。

「で、兄貴の名前で客を呼んで盛り上げるってわけ」
「そういうこと」

 野球部の作成したチラシには『あの皆本大輝も登場!?』なんて煽り文句が書かれていた。まるで大ちゃんもストラックアウトに挑戦するかのような文言だが、実際はただその場にいて、みんなが投げるところを見守るだけ、らしい。

「ストラックアウトの妖精みたいな感じなんじゃない?」

 知らないけど、と肩をすくめると、輝樹くんが「ぶはっ」と吹き出した。

「あんないかつい妖精、ぜってぇ嫌だよ」

 たしかに。大ちゃんが浮かれた妖精みたいな格好で現れたところを想像して、俺もちょっと嫌かもと思ってしまった。……そんな想像をしたこと自体、大ちゃんに知られたらめちゃくちゃ怒られそうだけど。
 怒れるストラックアウトの妖精……うーん、あまりにもシュール。

「それで、きょうちゃんは一人で店番ってわけだ」
「うん、そう。正確には店じゃないから、店番じゃなくて当番だけど」

 ちょっとだけ訂正して、そして俺は輝樹くんもまた一人であることに気づく。

「あれ。輝樹くんこそ一人? 友達は?」
「うん。さっきまで友達といたけど、行きたいところはあらかた行けたから、抜けてきた」
「あ、バスケ部行けたんだ」

 輝樹くんはバスケ少年だ。小学校からミニバスを始めて、今は地元で有名なクラブチームに所属している。

「うん。体育館でフリースロー対決しててさ、俺も参加してきちゃった」

 にか、と笑う輝樹くんは年相応って感じで可愛い。俺は「そっかそっか、よかったね」とお兄ちゃんみたいな気持ちで頷いてしまう。

「でも……抜けてきたって、友達はいいの?」
「いいの。俺の目的はバスケ部と、きょうちゃんに会うことだったから」

 えー、なんだそれは。俺はますます嬉しくなって、にへら、と頬をゆるめた。
 昔から、輝樹くんは俺によく懐いてくれている。大ちゃんは『立野は俺の家族に好かれるのが上手い』なんて言うが、皆本家の面々こそ俺に好かれるのが上手すぎる。もうメロメロだ。

「嬉しいな〜なんか飴ちゃんとかあげたいな〜」

 まぁなにも持ってないけど。今日は朝からずっと当番だし、クラス出店に行くことは叶わなさそうだ。去年とおととしは思いきり楽しんだし、別にいいんだけども。
 すると、輝樹くんが「あ」と声を上げて、そして背負っているリュックの中からなにかを取り出した。

「これ、いちご飴。きょうちゃんにあげるよ」

 それは可愛くラッピングされたフルーツ飴だった。俺はそれを受け取ってから、首を傾げる。

「えー! 俺が飴ちゃんもらうの? ていうかどうしたの、これ」
「さっき買ったけどまだ食べてなかったやつ。きょうちゃんまだどこも店行けてないんでしょ?」

 かわいそうだしあげる、と言われて、俺はジーンと感動してしまう。なんていい子なんだろうか。本当にあの大ちゃんの弟なんだろうか。
 ……いやしかし、食べ盛りの、しかも中学生からこんなものを受け取るわけにはいかない。三つも年下なんだぞ。

「ありがたいけどさ、申し訳ないよ。輝樹くんが自分でお食べ」

 そう言うと、輝樹くんはケロッとした顔で「俺もうお腹いっぱいだもん」と腹を叩いた。

「なんか皆本大輝の弟ってバレてさ、いろんなところで『これ食べて』『これも食べて』ってタダで食いもんもらったから」
「え?」
「クレープでしょ、たこ焼き、焼きそば、あとわたがしも」
「えぇ〜!」

 たしかに輝樹くんは一目で大ちゃんとの血縁関係があるとわかるし、素直だから『皆本大輝の弟?』と問われて嘘もつかないだろう。それでまぁ食べ物をどんどん貢(みつ)がれていった、というわけか。わらしべ長者じゃなくて、海老で鯛を釣る、でもなくて……、なんていうんだろうな、こういうの。

(なんか、すごく大ちゃんみを感じる)

 そう、大ちゃんもそういうところがある。街を歩いてるとよく『あら皆本くんじゃない! ほら、コロッケ食べてきなさい!』みたいな声をかけられるのだ。皆本家はきっと人気者の血筋なのだろう。食べ物をあげずにいられなくなる系の。
 なんだか俺はいつもそのおこぼれに預かってる気がする。と思いながらいちご飴の棒を回す。紅くつやつやと輝くいちごが、まるで魔法の杖のようにくるりと宙を舞った。

「あ、でもそれは自分で買ったやつだかんね。俺からのプレゼント」

 食べてね〜と無邪気に笑う輝樹くんを見ていたら俺も笑えてきて、結局はありがたくその飴を頂戴することにした。

「輝樹くんも座ってよ。椅子、こっちの使っていいから」

 立ち上がって、教室の後方に並べた椅子のひとつを持ってくる。と、輝樹くんが「俺が持つよ」とそれをひょいと持ち上げた。

「輝樹くん、大きくなったねぇ」

 いつの間にかすっかり身長を追い抜かれてしまった。俺だって百七十二センチくらいはあるのだが、輝樹くんはそんなのゆうに越している。大ちゃんも中三のときは百七十後半くらいあったし、やっぱり遺伝子のなせるわざなのかもしれない。
 椅子を担ぐ輝樹くんを見上げると、輝樹くんもまたジッと俺を見下ろしてきた。

「きょうちゃんは小さくなったね」
「なにを~? 失礼な〜」

 生意気な口をきく年下の子の胸元に、このっ、と拳をあてる。大ちゃんほどゴツくないけど、輝樹くんの体には、なんかスラッとしなやかな筋肉がついていた。
 やっぱりスポーツマンだなぁとしげしげ見つめてたら、輝樹くんの方も俺を見ていた。

「ねー。もしさ、俺と兄貴の歳が逆だったらさ」
「ん?」
「そしたら、俺がきょうちゃんといつも一緒にいたと思う?」

 大ちゃんによく似た黒い目で、じぃ、と見つめられて。俺は「えー? んんんー……」と腕を組んで考え込んだ。
 えっとつまり、大ちゃんが輝樹くんで、輝樹くんが大ちゃんで。俺があいつであいつが俺で、みたいな? いや、それは違うか。

「まぁ、そうかもね」

 なんにしても、輝樹くんが同い年だったら、それはそれで仲良くなっていたような気がする。なにしろ皆本家の面々は俺をメロメロにさせるのが上手だから。俺はきっと、輝樹くんと仲良くなりたいと思っていただろう。でも……。

「でも、輝樹くんは輝樹くんだし、大ちゃんは大ちゃんだと思うよ。どんなに似ててもさ」

 たとえ年齢が違っても、大ちゃんは大ちゃんだから。俺はたぶん大ちゃんを特別好きになっていたと思う。だって大ちゃんだし。
 俺の答えに、輝樹くんはなんとも言えない……鳩が豆鉄砲、いや、鳩がいちご飴もらったような微妙な顔をして「あ、そ」と肩をすくめて笑った。

「なんか兄貴には敵わないって感じ?」
「そんなことないよ。いっぱい勝ってるとこあると思うけど」

 そう言うと、輝樹くんはすかさず「たとえば?」と聞いてきた。たとえば、たとえば……うーん、たとえば……。

「大ちゃんはいちご飴なんて可愛いものくれない」

 ポム、と手のひらに拳を打ちつけてからようやく見つけた答えを返すと、輝樹くんはまた鳩がいちご飴もらったような顔して、そして、はははっと笑った。きらきらっと星が弾けたような、そんな、明るい笑い方だ。
 目尻に少しだけ皺が寄るその笑い方は、やっぱりちょっと大ちゃんに似ている。似ているけど、やっぱりちょっと違う。大ちゃんは大ちゃんだし、輝樹くんは輝樹くんだ。

「たしかに。兄貴は絶対こういうとき焼きそばとかしか買ってこない」
「だよね〜、あとイカ焼きとか」
「あぁ、買いそう。基本的に自分の食いたいもんしか買わないから」
「長男気質なんだよね~」
「まじでそれ。根が横暴なんだよ」

 大ちゃんの愚痴……のようななにかで盛り上がりながら椅子に腰掛けて、もらったばかりのいちご飴の包装をペリッと剥がす。透明の飴をまとったいちごはキラキラしていて美味しそうだ。

「じゃあ遠慮なく、いただきまー……」
「きょうちゃん」

 名前を呼ばれて、いちご飴を口に含む直前の「んぁ?」という間抜け顔でそちらを見る。と、パシャッと写真を一枚撮られてしまった。

「あ、こら〜事務所通してくださいね〜」

 冗談を言いながら、俺は輝樹くんのスマホに向かってピースしてみせる。輝樹くんは笑って、そして何枚か写真を撮った。



 ひとしきりそんな感じで写真を撮ったり、話したり笑ったりして楽しんでたら、輝樹くんが「んじゃ、そろそろ行こうかな」って腰を上げた。

「あれ、もう行くの?」

 輝樹くんと話している間も、書道室の来訪者はゼロだった。この感じだと、俺は文化祭が終わるまで一人で過ごすことになるだろう。
 とはいえ、せっかく文化祭に遊びに来てくれた中学生をここにいつまでも縛りつけておくわけにもいかない。俺は潔く「それじゃあまたね」と見送ることにした。
「いや〜でもあの、まだ行きたくないんだったら全然残っていいし、またここに来たくなったら来ていいし、なんならずっといてもいいんだけどね?」
 いや、全然潔くない。だって寂しいに決まってる。輝樹くんと楽しく過ごしていたから余計に。一度人と過ごす楽しさを知ったあとの寂しさは、知らなかった頃の寂しさよりこたえる。
 縋(すが)るような目で輝樹くんを見ると、彼は大ちゃんより長い前髪をくしゃくしゃと散らして笑った。

「大丈夫。そろそろ俺の代わりが来る頃だから」
「輝樹くんの、代わり?」

 はてなんのことか、と思っていると、書道室の扉がガラッ! と勢いよく開いた。

「のわっ、びっくりした!」

 誰がそんな勢いで書道室に来たのか、と輝樹くんの肩越しに扉の方を見やる。……と、ちょうど大ちゃんが大きい体を屈めながら部屋の中に入ってくるところだった。あれ、大ちゃんだ。ストラックアウトの妖精……じゃなくて、ただの大ちゃん。

「大ちゃん? 野球部のやつもう終わったの?」

 ててて、と大ちゃんの側に寄って聞いてみる。と、大ちゃんはなぜかめちゃくちゃ苦い、激渋のお茶を一気に飲み干したような顔をしていた。

「な、なに?」
「俺の役目は終わった」

 それはお疲れ様でした。でもなんでそんなに怖い顔をしているんだろう。

「おー兄貴、お疲れ。いい写真撮れてたでしょ?」

 輝樹くんは大ちゃんにひらひらと手を振る。が、大ちゃんの方はなにも答えない。どころか、はっ、と鼻を鳴らした。めちゃくちゃ嫌味な感じで。で……それだけ。返事は特になにもなし。

「写真ってなに?」

 俺は話についていけず、大ちゃんのシャツの裾を引っ張って聞いてみる。
 大ちゃんはなにか言いたげに口を開いて……、そしてちらりと輝樹くんを見てから「なんでもねぇよ」と話を切り上げてしまった。なんだよ、気になるなぁもう。
 でも大ちゃんの方はそれ以上言うつもりはないみたいだし、輝樹くんの方も同様だ。なんなんだこの秘密主義の兄弟は。
 口を『へ』の字に歪めていると、輝樹くんがそんな俺の顔を見て笑って、そして立ち上がってリュックを背負った。

「んじゃ、俺もう行くから。きょうちゃん、兄貴、またね」

 輝樹くんはひらひらと手を振って、俺もそれにひらひらと手を振る。まぁまた近いうちに大ちゃんの家に遊びに行くし、そのときに会えるだろう。

「さっき撮った写真、あとできょうちゃんにも送るね」

 輝樹くんの言葉に、俺は「ありがとう」と返す。自分がいちご飴頬張ってる写真なんてそんなに必要としていないが……貴重な文化祭の思い出だし。輝樹くんはニコッと笑って、そして今度こそ書道室を出て行った。
 後に残されたのは、ストラックアウトの妖精こと大ちゃんと、書道室の主と化した俺。

「立野」

 さてさてどうしようかな〜、と思っていると、大ちゃんが手に下げていた袋を俺に押し付けてきた。

「なにこれ?」

 袋の隙間からは、ふんわりとソースのいい香りが漂っている。これってまさか……。

「大ちゃんからの差し入れ?」

 えー、うそー、やったー! と、俺はほくほく顔でそれを机の上に置いて中を覗く。そこには、透明なパックに入った美味しそうな目玉焼きののった焼きそばが鎮座(ちんざ)していた。端の方に添えられた真っ赤な紅生姜が、焼きそばという作品の芸術点をぐ〜んと引き上げている。
 文化祭の焼きそばにしては、かなり出来がいいのではなかろうか。

「やった~! お腹空いてたんだよね。さっきいちご飴食べたんだけど、ちょっと食べたら余計お腹すいちゃった。大ちゃんも食べるでしょ」

 一緒に食べようよ、と誘うと、大ちゃんは目を細めて「おう」と頷いた。
 そして、さっきまで輝樹くんが腰掛けていた椅子に座る。

「いただきまーす! やっきそっば、やっきそっば」

 歌いながら手を合わせて割り箸を割ると、額のあたりに視線を感じた。

「え、なに?」

 視線の主はもちろん大ちゃんだ。大ちゃんは頬杖をついて、なんとも言えない顔で俺を見ている。

「いや。悪かったな、飴とか、クレープとか、そういうんじゃなくて」

 大ちゃんの言葉に、俺は思わずぱちぱちと目を瞬かせてしまう。

「なに言ってんの? 俺、焼きそば好きだよ」

 めっちゃ好き、と箸で持ち上げた麺をずぞっと食べる。あー、このしょっぱいソースが美味しいんだよな。鰹(かつお)節(ぶし)と青のりもかかってるだなんて、この焼きそばを出店したクラスには焼きそば好きがいるに違いない。収益度外視の豪華さだ。
 うまいうまい、と焼きそばを味わっていると、大ちゃんはやっぱり頬杖をついたまま、「そうかよ」と呆れたように笑った。

(まぁ、目の前に大ちゃんがいるからでもあると思うけど)

 こんなに美味しく感じるのは、この焼きそばを買ってきてくれたのが大ちゃんで、かつ、大ちゃんが目の前にいるからじゃないかな。と自分なりに分析して、俺はふんふんと頷く。わかんないけど。

「大ちゃんって、最高の調味料なのかも」

 口に含んでいた焼きそばを飲み込んでからそう言うと、俺の箸を使って焼きそばをひと口(めちゃくちゃデカい)食べた大ちゃんが「はぁ?」と眉間に皺を寄せた。本当に『なに言ってんだこいつ』って感じの顔。まぁ大ちゃんならそういう反応するよね。


 恋人に対しても遠慮なくそんな顔する大ちゃんが、俺は好きだよ。いちご飴を買ってこなくても、ストラックアウトの妖精でも、同じ歳でも違う歳でも、友達でも友達の弟になっても、きっと好きだ。
 俺はなんだか楽しくなって、いひ、と笑ってしまった。もしかしたら青のりが口端にくっついているかもしれないけど……まぁいいや。見てるのは大ちゃんだけだし。