俺と大ちゃんの終わらない夏


 昨日は、俺が受験した大学の合格発表の日だった。
 どきどきしながらインターネットで結果を見てみると、俺はちゃんと合格していた。受験番号を打ち込むを合否がわかるシステムだったのだが、打ち込んで『結果を見る』のボタンを押したら体感一秒くらいで『合格』と表示されて。なんだか拍子抜けするほどあっさりしていたので、俺は『え、え、これでいいの?』と何度も手順を確認してしまった。
 一応親にも確認してもらって、しっかり夢じゃないって確かめてから、大ちゃんに受かったよとメッセージを送った。大ちゃんは『おめでとうございます』と返してくれた。その日の夕飯は、俺の大好きなお寿司屋さんの出前だった。これまで食べてきたお寿司の中で、一番美味しいお寿司だった。
 これで、俺は春から九州の人になる。大ちゃんの所属する野球チームと所在地が同じ県なので、近いといえば近いけど、まぁ遠いといえば遠い。球団員じゃないから入れないし、大ちゃんは試合で遠くに行ったりするし。大学生とプロ野球選手じゃ生活のすべてが違いすぎる。
 会える時間が減るのもなにもかも承知済みではあったが、寂しいものは寂しい。早く大ちゃんをあのスポーツアプリで拝みたいものだ。今のところあのアプリは俺のスマホの中の端っこにただちょこんと居座っている。いずれはちゃんと活躍してもらわないとな。
 俺の方は大ちゃんを見る機会があるものの、大ちゃんの方にそれはない。

「寂しくないの?」

 と聞いてみたところ、大ちゃんは『まぁ寂しいけど』と前置きをしたあと、腕組みをして変な顔をした。
 どうしたの、って聞いてみたら、なんか『俺、頭の中に小さい立野がいるんだよな』って変なことを言い出した。さすがに『えっ』って一歩引いたら『引くなよな』って言われた。いや、いやいや。

「試合のときとかさ、なんか肩のあたりとかにいてさ、『頑張れ〜』って呑気な顔して言うんだよ」
「なにそれこわい」
「普通に飯食ってたり、寝たりしてる」
「こわいこわい」

 イマジナリーフレンドってやつなんだろうか。それにしても好き勝手なことをしているフレンドである。

「俺の中の立野のイメージなんだろうな。知らんけど」
「知っててよ。なんだよ〜、なんかいいな。俺もちっちゃい大ちゃん欲しい」

 手のひらサイズの大ちゃんを想像して、思わずけらけら笑ってしまう。

「本物の大ちゃんは大きいしかさばるけど、小さい大ちゃんならどこにでも連れていけるし」

 なんて言ったら大ちゃんに抱きしめられた。というより絞め技をくらった。コブラツイストだ。ぐぇえ。大ちゃんはスポーツ全般が得意である。
 とにもかくにも大ちゃんはそれほど寂しくはないらしい……が、やはりそれはそれとして、週に一回くらいは写真が欲しいと言われた。
 『じゃあ日記も添えて、「週刊立野」を毎週お届けしようかな』と言うと、おう、と楽しそうに頷いていた。冗談のつもりだったのだが、大ちゃんはすっかりその気だ。
 俺の週刊誌なんてなにが楽しいんだ、って思うけど、大ちゃんは欲しいと言った。絶対欲しい、と。まぁできる限り送ってみようと思う。



 そんな感じで、卒業式も終わり受験も合格という形で無事に終わって……。
 ……あ、言い忘れていたけど大ちゃんのキャンプ参加も無事に終わっている。
 大ちゃんはそのポテンシャルで練習にガシガシ楽しく参加したらしい。
 その様子はネットニュースやらテレビやら、あと、キャンプを見に行ってファンの人たちのSNSの投稿でたっぷり見ることができた。画面越しでも、大ちゃんがワクワク楽しそうな顔をしているのがよくわかった。
 テレビのニュースでは『皆本選手も緊張した面持ちですね』なんて言われていたが、俺にはわかる。大ちゃんのあの顔は緊張じゃなくてワクワクなのだ。大ちゃんは表情筋の使い方が下手っぴで、感情が表に出にくい。
 大ちゃんは帰ってきてから、やっぱりプロはすごいと、ちょっと興奮気味に報告してくれた。やっぱりね。もちろんきつさだってあるんだろうけど、大ちゃんはそもそも野球が大好きなのだ。
 これからももっと好きになって、もっともっと上手になっていくのだろう。俺も負けずに勉強を頑張ろうと思えた。
 


 とにもかくにも、すべてが終わったということは、つまり待っているのはご褒美だ。俺と大ちゃんは卒業旅行という名目でお泊まりデートに出かけることになった。
 旅行のことを親に相談してみたところ、ぜひ行っておいでと、とてもノリノリだった。大ちゃんの家もそうだったらしく、なんなら俺たちより母親同士で旅行の計画も盛り上がっていた。

『せっかくなら海外にでも行ってきたらどう?』

 なんて言われてしまったほどだ。俺と大ちゃんで海外に行っても二人とも英語もろくに喋れないし、大ちゃんはボディランゲージなんてしなさそうだし、絶対苦労する(俺が)。ので、『国内でいい。普通に旅行できればいいから』と丁重にお断りした。
 なんでそんなに張り切ってくれるのだ、と思ったら……。

『お互い環境が変わったら、旅行だってそう簡単に行けなくなるわよ。思い出なんていくら作っても損はないんだから、近くにいるうちにたくさん作っておきなさいよ』

 とのことだった。『お母さんも、学生時代に仲良かった友達と、今は数年に一回会えればいい方なんだから』とも言っていた。
 母さんにだって学生の時代があったし、俺たちと同じ十八歳のときがあったんだよなぁ。なんて思った。
 大ちゃんに聞いたら、大ちゃんちも『せっかくだから行ってきなさいよ。お金? あんたがプロで稼いでいつかハワイにでも連れてってくれればそれでいいわよ』って言ってたらしい。おぉ、出世払いってやつだ。

 とまぁそんな感じで、俺たちは軍資金に困ることなく旅行に行けることになった。といっても別に贅沢旅行なんてするつもりもなく。前から行ってみたかった沖縄に旅先を決めた。