「平釜陽貴様、どうか橋倉くんに渡してくれませんか?」
あぁ、やっぱりね。
女子達、というか料理部の部員は僕以外女子なので、全員が僕のことを取り囲んでいる。
廃部の危機と聞いて入部したのに、十数人いたら廃部になんてならないだろう。
「私のもお願いします」
さっきまで一緒に作っていたカップケーキが綺麗にラッピングされ、次々と俺の前に差し出された。
昨日、橋倉くんこと僕の幼なじみである夕晴とした会話が蘇る。
⭐︎⭐︎⭐︎
「陽貴、部活明日からだっけ?」
「そうだよ」
僕の返事がそっけなく聞こえたのか、夕晴は「そうなんだ」と相槌だけして、スマホをいじり始めてしまった。
電車の揺れる音が際立つ。
久しぶりに会話をする機会ができたのだからと話題を探すが、特に思いつくことなく目をつぶる。
僕たちは今年の春から高校2年生になった。
夕晴とは違うクラスになってしまったが、去年も違うクラスだったので、大きな変化はない。
今日は夕晴の部活が休みだから一緒に帰っているが、普段はバスケ部の練習があるので登下校はバラバラである。違うクラスだから学校でも待ち合わせしないと会えない。
中学生の時は、僕もバスケ部に入っていてクラスも同じだったから、ほぼ一緒に居たのに、今では一緒にいるほうが珍しいなんて不思議である。
寂しいとか悲しいとかではなく、こういうものかと受け入れている。でも、これから大学、就職と歳を重ねるごとに距離は遠ざかる一方だと考えると、やっぱり寂しいかもしれない。
たまに会う機会があったらいいなと夕晴を見ると、夕晴も僕を見ていたようで目が合った。気恥ずかしくなり目線を晒すと、夕晴は話をかけてきた。
「料理部だっけ?」
「よく知ってるね」
部活に入ることすら伝えてなかったのに、そこまで知っているとは驚いた。まぁ母さんが言ったんだろうけど。
夕晴と僕は幼稚園からの縁で、家も近く親同士の仲がいいから、お互いのことは筒抜けである。
「原田さんが言ってた」
「えっ?」
耳を疑った。
原田さん?
原田さんって、僕を料理部に誘った原田花香さんのことだろうか。
誘ったというか、廃部の危機だから平釜くんが必要だからとお願いされたんだけど、なんだ。そういうことか。
原田さんは高校から一緒になった人で、去年は僕と同じクラスだった。今年は同じくクラスに居なかったので、もしかしたら夕晴と同じクラスなんだろうか。
「え? 原田さんに誘われたんじゃないの?」
「そうだけど」
そうじゃなくて。
原田さんに誘われたけど、誘われたのが初会話みたいな感じだったから、僕は原田さんと仲良いわけじゃない。当然、夕晴と僕が幼なじみなのを知らないはず。知らないはずだけど、夕晴に僕の話をしているということは、いつものやつなんだろう。
モテ男め。
「なんか変?」
「いや、母さんから聞いたと思ってたから」
原田さんと仲良くなれると思っていたけど、違ったのか。
なんだか分からないけど、妙に恥ずかしい。
「あぁ、そっちからも聞いたけど」
「そうなんだ」
動揺を悟られたくなくて平然を装うが、バレている気がする。
夕晴目当てで僕に近づく女子がいるのは分かっていたのに、高校に入ってからは夕晴と話す機会が少なくなったせいか出くわさなかったので油断していた。中学の時はしょっちゅうだったのに。
「原田さんの方が先だったから」
「そうなんだ」
中学の時、僕に話しかける女子は夕晴と仲良くなりたいという子ばっかりだった。
夕晴は女子とあまり話さない。だから僕を使うのだ。
ちょっといいなと思った子も全員、夕晴のことが好きなのだ。本当に僕に興味あるのかなって子も、結局は夕晴に告白して振られている。
「原田さん今年同じクラスで、席が前後だから」
「そうなんだ」
夕晴が女子と会話してるのが想像できない。
女子に話しかけられたら、めんどくさそうに返事をして、もしくは無視をして距離を置いていたのに、原田さんとは普通に会話をしていたのか。
僕が知っている教室での夕晴は中学の時のまま止まっていて、1年も経てば変わっているだろう。
高校生になった夕晴、同じ学校にいるのに遠くに行ってしまったようだ。
もしかして、原田さんからではなく夕晴から声をかけたとか?
胸の辺りが引き締まる。
これはきっと、気づかないふりをしている感情。
電車が揺れる。
まもなく降りる駅に到着するというアナウンスが流れた。
「原田さんが話しかけてきたんだけどね」
「そうなんだ」
夕晴は僕のちょっとした変化に気がついて必ず指摘をする。髪を切ったとか、眠そうだとか、外見も内面も隠し事はできない。もしかしたら、僕が分かりやすいだけなのかもしれないけど。
「好きなの?」
変化打球が飛んできた。
驚いて夕晴を見ると、僕のことを真っ直ぐに見つめている。冗談ではなく、真面目な表情だ。
胸の鼓動が鮮明に聞こえる。
どういう意味で夕晴は、その質問をしているのだろう。それで僕はなんて答えればいい?
電車が降りる駅に到着してドアが開く、僕は何も答えずにホームに降りた。
夕晴が少し慌てた様子で僕に追いつき、横に並びながら階段を目指して歩いて、改札を出て、駐輪場で自転車に乗って、いつもの道を進んでいく。
その間、会話はしなかった。
家の近くまでやってきて、分かれ道のところで夕晴は自転車の速度を落としたから、僕も同じく速度を落として止まった。
「陽貴、原田さんのこと好きなの?」
またもや変化球が飛んできた。
さすがの夕晴も僕が気づかないふりをしている感情には気づかないか、
「違うよ」
と答えると、
「よかった。またね」
と微笑んで、夕晴は過ぎ去っていく。
よかったって、どういう意味なんだろう。
よかったって、夕晴が原田さんのことを好きってことになるのか。
立ち尽くしていたけど、カラスがカァと鳴いたから帰った。
⭐︎⭐︎⭐︎
「夕晴、そういうの嫌がると思うよ」
僕が厳しめに言っても諦める様子は一切なく、「そこをどうにか」と食い下がる。
「自分で渡せばよくはない?」
わざわざ僕に頼むんだろう。めんどくさいなという気持ちが伝わるように声を強めに使うと、特に怯むことなく、
「受け取って貰えないんだよね」
「だから、平釜くんから渡して欲しい」
と粘られた。
そういうのは夕晴のままなのか。
「あー、そういうの嫌いって中学の時に言ってたから」
あの頃を思い出す。
「えー、八方塞がりじゃん」
「橋倉くんに渡すのは無理だよ」
と言ったのはポニーテールの女子で見たことないから、違う学年か違うクラスだろう。
「どうして?」
と言ったのは原田さんで、原田さんも夕晴に断られたことがあるのかと初歩的なことに気づいてなかったのに今気がついた。原田さんが僕を誘っているのだから僕を使って夕晴とお近づきになりたいのだろう。
じゃ、夕晴が原田さんを好きな説はないのか。
でも、原田さんが気づいてないだけもあるか。
それなら、夕晴が原田さんからの料理を断らないか。
いや、夕晴が気持ちを隠すために平等に扱ってる可能性もあるのか。
「人が作ったの苦手って言われた」
笑いが巻き起こる。
それなら、僕から渡すのも無理じゃないか。
「じゃ、なんでもダメじゃん」
「本当に言ってたの?」
注目が僕からポニーテールの子に完全に移った。
「そうだよ、そうやって私は断られたから」
原田さんを含めた女子たちが落胆をする。
「私は好きな人のじゃないと無理って言われたけど」
今度はショートヘアの子が発言をした。
「何それ?」
「好きな人がいるってこと?」
「えー!」
さっきよりもザワザワしている。
「平釜くん、知ってる?」
と、原田さんは僕に話を振ってきた。
注目が一気に僕に戻る。
「えっ……と」
夕晴の好きな人?
僕の推理だと原田さんだけど違うと思うし、万が一そうでもここで言ったらパニックになる気がする。
そもそも夕晴に好きな人いるのか?
「誰だか知ってるの?!」
「分からない」
俺が首を傾げると、何も情報を持っていないのを悟ったのか女子たちは一気に散った。
あぁ、やっぱりね。
女子達、というか料理部の部員は僕以外女子なので、全員が僕のことを取り囲んでいる。
廃部の危機と聞いて入部したのに、十数人いたら廃部になんてならないだろう。
「私のもお願いします」
さっきまで一緒に作っていたカップケーキが綺麗にラッピングされ、次々と俺の前に差し出された。
昨日、橋倉くんこと僕の幼なじみである夕晴とした会話が蘇る。
⭐︎⭐︎⭐︎
「陽貴、部活明日からだっけ?」
「そうだよ」
僕の返事がそっけなく聞こえたのか、夕晴は「そうなんだ」と相槌だけして、スマホをいじり始めてしまった。
電車の揺れる音が際立つ。
久しぶりに会話をする機会ができたのだからと話題を探すが、特に思いつくことなく目をつぶる。
僕たちは今年の春から高校2年生になった。
夕晴とは違うクラスになってしまったが、去年も違うクラスだったので、大きな変化はない。
今日は夕晴の部活が休みだから一緒に帰っているが、普段はバスケ部の練習があるので登下校はバラバラである。違うクラスだから学校でも待ち合わせしないと会えない。
中学生の時は、僕もバスケ部に入っていてクラスも同じだったから、ほぼ一緒に居たのに、今では一緒にいるほうが珍しいなんて不思議である。
寂しいとか悲しいとかではなく、こういうものかと受け入れている。でも、これから大学、就職と歳を重ねるごとに距離は遠ざかる一方だと考えると、やっぱり寂しいかもしれない。
たまに会う機会があったらいいなと夕晴を見ると、夕晴も僕を見ていたようで目が合った。気恥ずかしくなり目線を晒すと、夕晴は話をかけてきた。
「料理部だっけ?」
「よく知ってるね」
部活に入ることすら伝えてなかったのに、そこまで知っているとは驚いた。まぁ母さんが言ったんだろうけど。
夕晴と僕は幼稚園からの縁で、家も近く親同士の仲がいいから、お互いのことは筒抜けである。
「原田さんが言ってた」
「えっ?」
耳を疑った。
原田さん?
原田さんって、僕を料理部に誘った原田花香さんのことだろうか。
誘ったというか、廃部の危機だから平釜くんが必要だからとお願いされたんだけど、なんだ。そういうことか。
原田さんは高校から一緒になった人で、去年は僕と同じクラスだった。今年は同じくクラスに居なかったので、もしかしたら夕晴と同じクラスなんだろうか。
「え? 原田さんに誘われたんじゃないの?」
「そうだけど」
そうじゃなくて。
原田さんに誘われたけど、誘われたのが初会話みたいな感じだったから、僕は原田さんと仲良いわけじゃない。当然、夕晴と僕が幼なじみなのを知らないはず。知らないはずだけど、夕晴に僕の話をしているということは、いつものやつなんだろう。
モテ男め。
「なんか変?」
「いや、母さんから聞いたと思ってたから」
原田さんと仲良くなれると思っていたけど、違ったのか。
なんだか分からないけど、妙に恥ずかしい。
「あぁ、そっちからも聞いたけど」
「そうなんだ」
動揺を悟られたくなくて平然を装うが、バレている気がする。
夕晴目当てで僕に近づく女子がいるのは分かっていたのに、高校に入ってからは夕晴と話す機会が少なくなったせいか出くわさなかったので油断していた。中学の時はしょっちゅうだったのに。
「原田さんの方が先だったから」
「そうなんだ」
中学の時、僕に話しかける女子は夕晴と仲良くなりたいという子ばっかりだった。
夕晴は女子とあまり話さない。だから僕を使うのだ。
ちょっといいなと思った子も全員、夕晴のことが好きなのだ。本当に僕に興味あるのかなって子も、結局は夕晴に告白して振られている。
「原田さん今年同じクラスで、席が前後だから」
「そうなんだ」
夕晴が女子と会話してるのが想像できない。
女子に話しかけられたら、めんどくさそうに返事をして、もしくは無視をして距離を置いていたのに、原田さんとは普通に会話をしていたのか。
僕が知っている教室での夕晴は中学の時のまま止まっていて、1年も経てば変わっているだろう。
高校生になった夕晴、同じ学校にいるのに遠くに行ってしまったようだ。
もしかして、原田さんからではなく夕晴から声をかけたとか?
胸の辺りが引き締まる。
これはきっと、気づかないふりをしている感情。
電車が揺れる。
まもなく降りる駅に到着するというアナウンスが流れた。
「原田さんが話しかけてきたんだけどね」
「そうなんだ」
夕晴は僕のちょっとした変化に気がついて必ず指摘をする。髪を切ったとか、眠そうだとか、外見も内面も隠し事はできない。もしかしたら、僕が分かりやすいだけなのかもしれないけど。
「好きなの?」
変化打球が飛んできた。
驚いて夕晴を見ると、僕のことを真っ直ぐに見つめている。冗談ではなく、真面目な表情だ。
胸の鼓動が鮮明に聞こえる。
どういう意味で夕晴は、その質問をしているのだろう。それで僕はなんて答えればいい?
電車が降りる駅に到着してドアが開く、僕は何も答えずにホームに降りた。
夕晴が少し慌てた様子で僕に追いつき、横に並びながら階段を目指して歩いて、改札を出て、駐輪場で自転車に乗って、いつもの道を進んでいく。
その間、会話はしなかった。
家の近くまでやってきて、分かれ道のところで夕晴は自転車の速度を落としたから、僕も同じく速度を落として止まった。
「陽貴、原田さんのこと好きなの?」
またもや変化球が飛んできた。
さすがの夕晴も僕が気づかないふりをしている感情には気づかないか、
「違うよ」
と答えると、
「よかった。またね」
と微笑んで、夕晴は過ぎ去っていく。
よかったって、どういう意味なんだろう。
よかったって、夕晴が原田さんのことを好きってことになるのか。
立ち尽くしていたけど、カラスがカァと鳴いたから帰った。
⭐︎⭐︎⭐︎
「夕晴、そういうの嫌がると思うよ」
僕が厳しめに言っても諦める様子は一切なく、「そこをどうにか」と食い下がる。
「自分で渡せばよくはない?」
わざわざ僕に頼むんだろう。めんどくさいなという気持ちが伝わるように声を強めに使うと、特に怯むことなく、
「受け取って貰えないんだよね」
「だから、平釜くんから渡して欲しい」
と粘られた。
そういうのは夕晴のままなのか。
「あー、そういうの嫌いって中学の時に言ってたから」
あの頃を思い出す。
「えー、八方塞がりじゃん」
「橋倉くんに渡すのは無理だよ」
と言ったのはポニーテールの女子で見たことないから、違う学年か違うクラスだろう。
「どうして?」
と言ったのは原田さんで、原田さんも夕晴に断られたことがあるのかと初歩的なことに気づいてなかったのに今気がついた。原田さんが僕を誘っているのだから僕を使って夕晴とお近づきになりたいのだろう。
じゃ、夕晴が原田さんを好きな説はないのか。
でも、原田さんが気づいてないだけもあるか。
それなら、夕晴が原田さんからの料理を断らないか。
いや、夕晴が気持ちを隠すために平等に扱ってる可能性もあるのか。
「人が作ったの苦手って言われた」
笑いが巻き起こる。
それなら、僕から渡すのも無理じゃないか。
「じゃ、なんでもダメじゃん」
「本当に言ってたの?」
注目が僕からポニーテールの子に完全に移った。
「そうだよ、そうやって私は断られたから」
原田さんを含めた女子たちが落胆をする。
「私は好きな人のじゃないと無理って言われたけど」
今度はショートヘアの子が発言をした。
「何それ?」
「好きな人がいるってこと?」
「えー!」
さっきよりもザワザワしている。
「平釜くん、知ってる?」
と、原田さんは僕に話を振ってきた。
注目が一気に僕に戻る。
「えっ……と」
夕晴の好きな人?
僕の推理だと原田さんだけど違うと思うし、万が一そうでもここで言ったらパニックになる気がする。
そもそも夕晴に好きな人いるのか?
「誰だか知ってるの?!」
「分からない」
俺が首を傾げると、何も情報を持っていないのを悟ったのか女子たちは一気に散った。



