「そんなことないです。優勝、おめでとうございます」
鳴海は的花の顔を見つめ、試合以上に真剣な顔つきになった。その表情には、本気以外の感情は込められていない。
的花はそれが分かり、落ち着かない様子である。しかし繋がれた手が暖かいため、安心することができる。
鳴海は的花の目を見て、真剣に想いを伝えた。肝心な時に、盛大に噛んでしまった。
頬を赤く染めて、どことなく落ち着かない様子であった。的花は、花のような笑みを浮かべていた。
揶揄うと、鳴海はさらに顔を真っ赤にしている。夕日のせいにしては、綺麗過ぎた。
二人は微笑み合い、握っている手をさらに強くした。熱が先ほどよりも高く、鼓動が速くなった。
周りから、見られていた。ネットでは、鳴海は一躍有名人になっている。
それもあってか、妙に目立っていた。一番の理由としては、道着姿の高校生二人が抱き合っているからだ。
しかし二人には、お互いの姿しか見えていない。そのため、外野の視線は気にならない。
「これ……誕生日おめでとう、宮内」
本気の告白が成功し、二人の距離が縮まった。西日が沈みかけ、あたりが少し暗くなり始める頃。
学校の弓道場に入り、二人は微笑み合う。ここは始まりでもあり、二人の出会いの場だ。
二人は、的場の縁にある木製の段差に腰を下ろした。鳴海は鞄の奥から、少し皺の寄った小さなラッピング袋を取り出す。
実は大会の何日も前から、一人で頭を抱えていたのだ。好きな人に渡すなんて、生まれて初めてだからだ。
渡せるか分からないけど、買っておいて損はないし……。だけど、急に渡しても重たいだろうか。
いや、付き合っているわけでもないのに……クリスマスプレゼントなんて、引かれるか?
だけど……何も準備しないのは、絶対に嫌だし。こんな風に、世界一うじうじと悩み抜いたのだ。
散々迷った挙句、結局鞄に忍ばせておいた。耳を真っ赤にしながら、一番優しい声で緊張しながらも伝えた。
「可愛いっ! ありがとうございます」
「つ……付き合ってるんだから……その……畏まらなくていい」
「ふふっ………うんっ、ありがとう」
完璧な無双を見せた天才エースが、小さなプレゼント一つで手が震えるほど緊張している。
それが嬉しくて、的花は自然と笑顔になった。鳴海の肩に頭を置き、ハンカチを愛おしそうに見つめる。
弓道部らしく、矢が刺繍されている。的花が好きな琥珀色で、夕日に染まった鳴海の髪に似ていた。
それだけで、胸の奥がじんわりと熱くなった。胸に抱きしめ、泣きそうなぐらいに喜んでいる。
鳴海が嬉しそうにくしゃっと笑って、的花を抱きしめる。的花は鳴海の腕の中に収まり、嬉しそうに微笑む。
「……あの、ずっと気になってたんですけど、今までの大会の黒髪スプレーって、誰がやってたんですか。元カノ、ですか?」
座り直して、手を繋いでいた。的花は改めて、大きさの違う鳴海の手にドキドキしていた。
横にいる河原を見ている鳴海を見つめ、髪が目に入ってきた。黒髪スプレーが少し取れて、茶髪が見えている。
そこで的花は少し拗ねた様子で、意を決して聞いてみる。毒舌混じりで、随分棘があった。
「は? 姉貴だけど。俺、姉貴に『おい不器用、貸せ』って毎回ガシガシ頭掴まれてやられてた。……え、もしかして宮内、嫉妬してくれたわけ?」
「うるさいです!」
鳴海は一瞬きょとんとした後、爆笑していた。的花をもう一度抱きしめて、優しく微笑んでいた。
体は凍えるぐらいに寒いが、何よりも暖かい。鳴海に頬を触られて、そこから全身に熱が広がり始める。
二人はお互いの体温を感じあい、目を見つめあった。世界中の何よりも、美しく見えた。
鳴海にからかわれて、今度は的花が顔を真っ赤にして突き放す。だけど、鳴海の香りに胸が熱くなる。
モヤモヤの正体がお姉さんだと知り、拍子抜けした。それと同時に、心底ホッとする的花。
「……だって、今回はみや……的花が、応援に来てくれたから。他の誰でもなくて……的花に、やってほしかったんだよ」
「榊先輩……いえ、鳴海先輩……可愛いですね」
「うっ……的花の方が、可愛いだろ……」
「そんなに真っ赤になるなら、言わなければいいのに」
「う、うるせー」
鳴海は、ウルフカットの襟足を恥ずかしそうにガシガシと掻いている。頬を林檎のように真っ赤に染めて、視線を彷徨わせ。
チャラ男のプライドを完全に捨てて、本音の独占欲と甘えを口にする。
――可愛い。本当に、可愛い。それ以外、出てこない。
的花は鳴海の顔を見つめ、花のような笑顔を浮かべる。自分にだけは、本当の自分を見せてくれる。
それだけ愛されていることが、痛いほど伝わってきた。日に日に好きが増して、もう抑えることができない。
「鳴海先輩。これ……大会の優勝お祝いです。……手が荒れてたから、使ってください」
「え、俺に?……ありがとう」
的花の心臓は、嬉しさと愛おしさで爆発しそう。気持ちが溢れてしまい、自然と笑顔になる。
的花は鞄から、綺麗にラッピングされた箱を取り出す。的花はこの日のために、一生懸命に選んだ。
鳴海のあの不誠実な告白が、胸にずっと残っていた。だけど言い過ぎてしまったと、ずっと反省していた。
中学生の妹に選ぶのを手伝ってもらい、ラッピングにも拘った。欠伸をしている妹の隣で、的花は終始真剣だった。
――喜んでくれるかな……。ハンドクリーム……なんて、人に送るの初めてだよ。
鳴海の手が荒れており、傷だらけだった。弓道に真剣に向き合っている証拠だが、心配になってしまう。
今日もまた、新たな傷ができている。精神が乱れていた時に、矢で擦ってしまったのだ。
的花は心配そうに、鳴海の顔を見つめる。鳴海は静かに涙を流し、ゴシゴシと道着で拭いた。
「これ、力加減わかんねーから……的花が塗って」
「はいっ、鳴海先輩っ」
鳴海はラッピングを不器用に外し、中からハンドクリームを取り出した。お花の香りで、鳴海は嬉しそうに微笑んだ。
蓋を開け、自分の手の甲に出した。恥ずかしながら、的花に甘えてみる。
的花は優しく微笑み、両手で包み込んだ。琥珀色の温もりを分け合うように、ゆっくりとクリームを伸ばしていく。
二人はどちらからもなく、顔を近づけた。夕日に染められた二つの影は、静かに重なった。
冬の冷たい射場のなかで、二人が灯した小さな温度。これから先も、ずっと消えることはない。
鳴海は的花の顔を見つめ、試合以上に真剣な顔つきになった。その表情には、本気以外の感情は込められていない。
的花はそれが分かり、落ち着かない様子である。しかし繋がれた手が暖かいため、安心することができる。
鳴海は的花の目を見て、真剣に想いを伝えた。肝心な時に、盛大に噛んでしまった。
頬を赤く染めて、どことなく落ち着かない様子であった。的花は、花のような笑みを浮かべていた。
揶揄うと、鳴海はさらに顔を真っ赤にしている。夕日のせいにしては、綺麗過ぎた。
二人は微笑み合い、握っている手をさらに強くした。熱が先ほどよりも高く、鼓動が速くなった。
周りから、見られていた。ネットでは、鳴海は一躍有名人になっている。
それもあってか、妙に目立っていた。一番の理由としては、道着姿の高校生二人が抱き合っているからだ。
しかし二人には、お互いの姿しか見えていない。そのため、外野の視線は気にならない。
「これ……誕生日おめでとう、宮内」
本気の告白が成功し、二人の距離が縮まった。西日が沈みかけ、あたりが少し暗くなり始める頃。
学校の弓道場に入り、二人は微笑み合う。ここは始まりでもあり、二人の出会いの場だ。
二人は、的場の縁にある木製の段差に腰を下ろした。鳴海は鞄の奥から、少し皺の寄った小さなラッピング袋を取り出す。
実は大会の何日も前から、一人で頭を抱えていたのだ。好きな人に渡すなんて、生まれて初めてだからだ。
渡せるか分からないけど、買っておいて損はないし……。だけど、急に渡しても重たいだろうか。
いや、付き合っているわけでもないのに……クリスマスプレゼントなんて、引かれるか?
だけど……何も準備しないのは、絶対に嫌だし。こんな風に、世界一うじうじと悩み抜いたのだ。
散々迷った挙句、結局鞄に忍ばせておいた。耳を真っ赤にしながら、一番優しい声で緊張しながらも伝えた。
「可愛いっ! ありがとうございます」
「つ……付き合ってるんだから……その……畏まらなくていい」
「ふふっ………うんっ、ありがとう」
完璧な無双を見せた天才エースが、小さなプレゼント一つで手が震えるほど緊張している。
それが嬉しくて、的花は自然と笑顔になった。鳴海の肩に頭を置き、ハンカチを愛おしそうに見つめる。
弓道部らしく、矢が刺繍されている。的花が好きな琥珀色で、夕日に染まった鳴海の髪に似ていた。
それだけで、胸の奥がじんわりと熱くなった。胸に抱きしめ、泣きそうなぐらいに喜んでいる。
鳴海が嬉しそうにくしゃっと笑って、的花を抱きしめる。的花は鳴海の腕の中に収まり、嬉しそうに微笑む。
「……あの、ずっと気になってたんですけど、今までの大会の黒髪スプレーって、誰がやってたんですか。元カノ、ですか?」
座り直して、手を繋いでいた。的花は改めて、大きさの違う鳴海の手にドキドキしていた。
横にいる河原を見ている鳴海を見つめ、髪が目に入ってきた。黒髪スプレーが少し取れて、茶髪が見えている。
そこで的花は少し拗ねた様子で、意を決して聞いてみる。毒舌混じりで、随分棘があった。
「は? 姉貴だけど。俺、姉貴に『おい不器用、貸せ』って毎回ガシガシ頭掴まれてやられてた。……え、もしかして宮内、嫉妬してくれたわけ?」
「うるさいです!」
鳴海は一瞬きょとんとした後、爆笑していた。的花をもう一度抱きしめて、優しく微笑んでいた。
体は凍えるぐらいに寒いが、何よりも暖かい。鳴海に頬を触られて、そこから全身に熱が広がり始める。
二人はお互いの体温を感じあい、目を見つめあった。世界中の何よりも、美しく見えた。
鳴海にからかわれて、今度は的花が顔を真っ赤にして突き放す。だけど、鳴海の香りに胸が熱くなる。
モヤモヤの正体がお姉さんだと知り、拍子抜けした。それと同時に、心底ホッとする的花。
「……だって、今回はみや……的花が、応援に来てくれたから。他の誰でもなくて……的花に、やってほしかったんだよ」
「榊先輩……いえ、鳴海先輩……可愛いですね」
「うっ……的花の方が、可愛いだろ……」
「そんなに真っ赤になるなら、言わなければいいのに」
「う、うるせー」
鳴海は、ウルフカットの襟足を恥ずかしそうにガシガシと掻いている。頬を林檎のように真っ赤に染めて、視線を彷徨わせ。
チャラ男のプライドを完全に捨てて、本音の独占欲と甘えを口にする。
――可愛い。本当に、可愛い。それ以外、出てこない。
的花は鳴海の顔を見つめ、花のような笑顔を浮かべる。自分にだけは、本当の自分を見せてくれる。
それだけ愛されていることが、痛いほど伝わってきた。日に日に好きが増して、もう抑えることができない。
「鳴海先輩。これ……大会の優勝お祝いです。……手が荒れてたから、使ってください」
「え、俺に?……ありがとう」
的花の心臓は、嬉しさと愛おしさで爆発しそう。気持ちが溢れてしまい、自然と笑顔になる。
的花は鞄から、綺麗にラッピングされた箱を取り出す。的花はこの日のために、一生懸命に選んだ。
鳴海のあの不誠実な告白が、胸にずっと残っていた。だけど言い過ぎてしまったと、ずっと反省していた。
中学生の妹に選ぶのを手伝ってもらい、ラッピングにも拘った。欠伸をしている妹の隣で、的花は終始真剣だった。
――喜んでくれるかな……。ハンドクリーム……なんて、人に送るの初めてだよ。
鳴海の手が荒れており、傷だらけだった。弓道に真剣に向き合っている証拠だが、心配になってしまう。
今日もまた、新たな傷ができている。精神が乱れていた時に、矢で擦ってしまったのだ。
的花は心配そうに、鳴海の顔を見つめる。鳴海は静かに涙を流し、ゴシゴシと道着で拭いた。
「これ、力加減わかんねーから……的花が塗って」
「はいっ、鳴海先輩っ」
鳴海はラッピングを不器用に外し、中からハンドクリームを取り出した。お花の香りで、鳴海は嬉しそうに微笑んだ。
蓋を開け、自分の手の甲に出した。恥ずかしながら、的花に甘えてみる。
的花は優しく微笑み、両手で包み込んだ。琥珀色の温もりを分け合うように、ゆっくりとクリームを伸ばしていく。
二人はどちらからもなく、顔を近づけた。夕日に染められた二つの影は、静かに重なった。
冬の冷たい射場のなかで、二人が灯した小さな温度。これから先も、ずっと消えることはない。


