放たれた矢は、最高に高くて硬いパァン!という弦音を残して、的のど真ん中を射抜く。
鳴海は、氷の柱のように微動だにしない。その場にいた全員が、その姿に釘付けになった。
他の選手も、自分の番になってもその姿に見惚れてしまった。審判員でさえも、それに気づくのが遅れたほどだった。
他の選手が矢を放つが、鳴海の放った圧倒的な残心に心奪われてしまった。その余韻からか、完全に呑まれてしまう。
鳴海を完全に化け物を見るような目や、覚醒したと恐れた目をしている。
斎藤は自分の番が終わってよかったと、胸を撫で下ろしていた。その時点で、もう既に会場全体が鳴海に呑まれてしまっていた。
――先輩、凄い。全員が先輩を見つめ、息をするのを忘れてしまっている。これが、圧倒的な強者なのか。
的花は自分がいかに、凄い人から教わっていたのか。それを再確認し、誇らしく思った。
それと同時に、先ほどとは打って変わって別人になった。その様子に、若干の恐怖を覚えた。
結果、他校が次々と外した。鳴海は、ギリギリで決勝進出の切符を掴み取る。
その瞳には、喜びや歓喜は映っていない。ただ真っ直ぐに、的だけを見つめていた。
「先輩……かっこいい」
的花だけでなく、会場全体が鳴海に魅入られていた。静寂を切り裂くように、無機質なブザー音が射場に響いた。
それを合図に、順番に矢を放つ。選手たちは、鳴海に呑まれてしまい次々と的を外してしまう。
斎藤も例外ではなく、サドンデス方式のため敗退してしまった。鳴海の番になり、雑念を振り払う。
頭の中には、弓道への礼節。客席で見守ってくれている的花の姿だけがあった。
道着の胸元で、鳴海の激しい鼓動とともに熱を帯びていくお守り。それを肌で感じ、ゆっくりと深呼吸をした。
一本も外さずに、皆中を連発。矢を全て的に当て、完璧な残心を決めた。
会場中が榊鳴海の一挙手一投足に息を呑み、呑み込まれてしまう。射詰《いづめ》という、文字通り【射て、詰める】極限の緊張状態。
鳴海が会場の視線を独り占めしている中、次の選手はそれに呑み込まれてしまう。
なぜなら、鳴海の放つ圧倒的な覇気と品格。平然としており、汗ひとつかいていない。
その様子を見つめ、完全に呑まれてしまった。手が震えて、まともに弓を引くことができない。
鳴海は相手を一歩も寄せ付けず、見事な残心で完全勝利を収めた。会場全体が、榊鳴海という怪物に恐れを抱いた瞬間だった。
鳴海は歓声に沸く会場を無視し、観客席にいる的花を、真っ直ぐに見据えた。
「お前のために引いた」と言わんばかりの、どこまでも誠実な瞳が的花を射抜く。
――先輩……好きですっ……。
的花は感動してしまい、口元を両手で覆って涙を流した。心の中は鳴海への恋心で、溢れてしまった。
視界が歪む中、愛する人の背中を見つめる。凛とした佇まいは、的花が憧れたあの背中そのものだった。
「男子個人戦優勝、天聖高校。榊鳴海」
表彰式が始まり、全校の選手が整列した。そこで先ほど、見事な残心で優勝した鳴海が名前を呼ばれた。
鳴海は、代表として前へ進んだ。審判員から、賞状と優勝カップとメダルを授与された。
鳴海はその間も、的花のことしか頭になかった。「早く宮内に会いたい、早く話したい」その雑念しかない。
試合中とは打って変わって、そわそわして落ち着かない。その様子を、的花は観客席から見ていた。
――可愛いっ。緊張しているのかな?
凛々しい鳴海と、緊張していて可愛い鳴海。どちらも愛おしくなって、胸の高鳴りが抑えられなくなった。
神前への礼をし、列へと戻る。そこで的花と目が合い、二人は微笑みあった。
互いに耳が真っ赤だったが、清々しい表情を浮かべていた。最後に、全員で道場の正面に深く一礼をした。
「榊くん、三連覇おめでとうございます! 準決勝ではヒヤリとする場面もありましたが、控室から戻った後の見事な皆中。あの時の心境は?」
「……大切な人に、弓道の品格を見せろって言われた気がしたんです。その人が作ってくれたお守りが、胸元で背中を押してくれました」
「あー、もしかして〜彼女ですか?」
「まだ告白してないですが……自信が」
「またまた〜こんなイケメン振る子、いないですよ」
「だと、嬉しいです」
閉会式が終わり、鳴海は数々のメディアに囲まれた。外の通路だったため、野次馬も相当数いる。
テレビカメラも入っており、的花はその規模に驚いている。口を開けて、ポカンと見つめている。
黄色い悲鳴を上げている女子がいて、的花は少しだけ不機嫌そうにしている。
それ以上に自分のお守りが、大好きな人の優勝に貢献していた。その事実を知り、顔から火が出そうなぐらいに真っ赤になっていた。
鞄で顔を隠し、狼狽えている。鳴海はその様子を見つめ、嬉しそうにしていた。
鳴海の隣で、斎藤は「こいつ取材で何惚気てんだよ……」と頭を抱えていた。
「宮内! 行こうっ!」
「あっ……はいっ」
鳴海は耳を真っ赤にし、的花の元に駆け出す。的花の手首を掴み、走り出した。
テレビや、鳴海を見に来た女子生徒たち。それよりも、不器用なお守りで応援してくれた後輩。
宮内的花の存在が大きいため、居ても立っても居られなかった。的花も驚いてはいたが、嬉しそうに微笑んでいた。
二人だけの世界ができており、誰も踏み込めない。喧騒を抜け出した。
斎藤が取材を受け、適当に話した。そのため、二人が付き合っていることが全国に知れ渡った。
「あの……先輩」
「多分……さっきの取材で、俺の気持ち分かったよな」
「……はい」
「だけど、しっかりと言うから。聞いてほしい」
「はい、聞きたいです」
大会後の、静まり返った夕暮れの帰り道。雪が降りそうな、凍えるような肌寒さであった。
しかし繋がれた手は、どんなものよりも暖かい。二人は目を合わせ、恥ずかしそうに頬を染めた。
西日が、鳴海の髪を真っ赤に照らした。的花が、一生懸命吹き付けた黒髪スプレーの隙間。
そこから、夕陽の強い光が透過していた。鳴海の地毛である色素の薄い茶髪が、琥珀色にきらきらと透けて見える。
鳴海は、チャラ男のメッキを完全に捨てた。手が震えるほどの本気で、まっすぐ的花の目を見ていた。
その真剣な眼差しを見つめ、的花は綺麗な笑顔を浮かべている。それに見惚れてしまったが、鳴海は深呼吸を繰り返した。
「お前からチャラいって言われて、目が覚めた。俺が本当に見てほしいのは、お前だけだ。俺と付き合ってしょ……ほしいです……噛んだ」
「ぷっ……僕も好きです。付き合ってしょしいですっ」
「うっ……締まらない」
鳴海は、氷の柱のように微動だにしない。その場にいた全員が、その姿に釘付けになった。
他の選手も、自分の番になってもその姿に見惚れてしまった。審判員でさえも、それに気づくのが遅れたほどだった。
他の選手が矢を放つが、鳴海の放った圧倒的な残心に心奪われてしまった。その余韻からか、完全に呑まれてしまう。
鳴海を完全に化け物を見るような目や、覚醒したと恐れた目をしている。
斎藤は自分の番が終わってよかったと、胸を撫で下ろしていた。その時点で、もう既に会場全体が鳴海に呑まれてしまっていた。
――先輩、凄い。全員が先輩を見つめ、息をするのを忘れてしまっている。これが、圧倒的な強者なのか。
的花は自分がいかに、凄い人から教わっていたのか。それを再確認し、誇らしく思った。
それと同時に、先ほどとは打って変わって別人になった。その様子に、若干の恐怖を覚えた。
結果、他校が次々と外した。鳴海は、ギリギリで決勝進出の切符を掴み取る。
その瞳には、喜びや歓喜は映っていない。ただ真っ直ぐに、的だけを見つめていた。
「先輩……かっこいい」
的花だけでなく、会場全体が鳴海に魅入られていた。静寂を切り裂くように、無機質なブザー音が射場に響いた。
それを合図に、順番に矢を放つ。選手たちは、鳴海に呑まれてしまい次々と的を外してしまう。
斎藤も例外ではなく、サドンデス方式のため敗退してしまった。鳴海の番になり、雑念を振り払う。
頭の中には、弓道への礼節。客席で見守ってくれている的花の姿だけがあった。
道着の胸元で、鳴海の激しい鼓動とともに熱を帯びていくお守り。それを肌で感じ、ゆっくりと深呼吸をした。
一本も外さずに、皆中を連発。矢を全て的に当て、完璧な残心を決めた。
会場中が榊鳴海の一挙手一投足に息を呑み、呑み込まれてしまう。射詰《いづめ》という、文字通り【射て、詰める】極限の緊張状態。
鳴海が会場の視線を独り占めしている中、次の選手はそれに呑み込まれてしまう。
なぜなら、鳴海の放つ圧倒的な覇気と品格。平然としており、汗ひとつかいていない。
その様子を見つめ、完全に呑まれてしまった。手が震えて、まともに弓を引くことができない。
鳴海は相手を一歩も寄せ付けず、見事な残心で完全勝利を収めた。会場全体が、榊鳴海という怪物に恐れを抱いた瞬間だった。
鳴海は歓声に沸く会場を無視し、観客席にいる的花を、真っ直ぐに見据えた。
「お前のために引いた」と言わんばかりの、どこまでも誠実な瞳が的花を射抜く。
――先輩……好きですっ……。
的花は感動してしまい、口元を両手で覆って涙を流した。心の中は鳴海への恋心で、溢れてしまった。
視界が歪む中、愛する人の背中を見つめる。凛とした佇まいは、的花が憧れたあの背中そのものだった。
「男子個人戦優勝、天聖高校。榊鳴海」
表彰式が始まり、全校の選手が整列した。そこで先ほど、見事な残心で優勝した鳴海が名前を呼ばれた。
鳴海は、代表として前へ進んだ。審判員から、賞状と優勝カップとメダルを授与された。
鳴海はその間も、的花のことしか頭になかった。「早く宮内に会いたい、早く話したい」その雑念しかない。
試合中とは打って変わって、そわそわして落ち着かない。その様子を、的花は観客席から見ていた。
――可愛いっ。緊張しているのかな?
凛々しい鳴海と、緊張していて可愛い鳴海。どちらも愛おしくなって、胸の高鳴りが抑えられなくなった。
神前への礼をし、列へと戻る。そこで的花と目が合い、二人は微笑みあった。
互いに耳が真っ赤だったが、清々しい表情を浮かべていた。最後に、全員で道場の正面に深く一礼をした。
「榊くん、三連覇おめでとうございます! 準決勝ではヒヤリとする場面もありましたが、控室から戻った後の見事な皆中。あの時の心境は?」
「……大切な人に、弓道の品格を見せろって言われた気がしたんです。その人が作ってくれたお守りが、胸元で背中を押してくれました」
「あー、もしかして〜彼女ですか?」
「まだ告白してないですが……自信が」
「またまた〜こんなイケメン振る子、いないですよ」
「だと、嬉しいです」
閉会式が終わり、鳴海は数々のメディアに囲まれた。外の通路だったため、野次馬も相当数いる。
テレビカメラも入っており、的花はその規模に驚いている。口を開けて、ポカンと見つめている。
黄色い悲鳴を上げている女子がいて、的花は少しだけ不機嫌そうにしている。
それ以上に自分のお守りが、大好きな人の優勝に貢献していた。その事実を知り、顔から火が出そうなぐらいに真っ赤になっていた。
鞄で顔を隠し、狼狽えている。鳴海はその様子を見つめ、嬉しそうにしていた。
鳴海の隣で、斎藤は「こいつ取材で何惚気てんだよ……」と頭を抱えていた。
「宮内! 行こうっ!」
「あっ……はいっ」
鳴海は耳を真っ赤にし、的花の元に駆け出す。的花の手首を掴み、走り出した。
テレビや、鳴海を見に来た女子生徒たち。それよりも、不器用なお守りで応援してくれた後輩。
宮内的花の存在が大きいため、居ても立っても居られなかった。的花も驚いてはいたが、嬉しそうに微笑んでいた。
二人だけの世界ができており、誰も踏み込めない。喧騒を抜け出した。
斎藤が取材を受け、適当に話した。そのため、二人が付き合っていることが全国に知れ渡った。
「あの……先輩」
「多分……さっきの取材で、俺の気持ち分かったよな」
「……はい」
「だけど、しっかりと言うから。聞いてほしい」
「はい、聞きたいです」
大会後の、静まり返った夕暮れの帰り道。雪が降りそうな、凍えるような肌寒さであった。
しかし繋がれた手は、どんなものよりも暖かい。二人は目を合わせ、恥ずかしそうに頬を染めた。
西日が、鳴海の髪を真っ赤に照らした。的花が、一生懸命吹き付けた黒髪スプレーの隙間。
そこから、夕陽の強い光が透過していた。鳴海の地毛である色素の薄い茶髪が、琥珀色にきらきらと透けて見える。
鳴海は、チャラ男のメッキを完全に捨てた。手が震えるほどの本気で、まっすぐ的花の目を見ていた。
その真剣な眼差しを見つめ、的花は綺麗な笑顔を浮かべている。それに見惚れてしまったが、鳴海は深呼吸を繰り返した。
「お前からチャラいって言われて、目が覚めた。俺が本当に見てほしいのは、お前だけだ。俺と付き合ってしょ……ほしいです……噛んだ」
「ぷっ……僕も好きです。付き合ってしょしいですっ」
「うっ……締まらない」


