パシン、と乾いた音が俺の立っているネット越しでも大きく響いていた。
「──そこ、もっと速く!」
監督の鋭い声が時折聞こえてきて、何か言う度に『はい!』と野太い声があとから響くから、正直耳が痛い。
グラウンドには等間隔に野球部員が並んでいて、ボールを投げては捕っては投げ返す、という行為が繰り返されている。
傍目から見たらキャッチボールをしてるのと変わらないけど、ああいうお遊びよりもずっと顔が真剣だった。
……まぁ野球には興味無いし、ルールだってあんまり分かってない。
今やってる練習の意味も、正直なところ曖昧だ。
でも文芸部の活動の一環じゃなかったら、多分一度も見学しにこないと思う。
「……先生も自由だよなぁ」
ふぅ、と小さく溜め息を吐きながら、先程文芸部で言われた言葉を思い出す。
『無事に文化祭も終わったことだし、短編の小説書いてみようか。お題は部活の一幕で、一万文字以内ね!』
きらきらとした笑顔で、そう顧問の立浪先生が言ったのはつい二十分前。
お題の要素が少しでもあれば後はなんでもいいという、いつもの緩さ。
ただ、部活の風景の臨場感を出すために『許可するから見学してこい』って……実質部活じゃなくてサボりに近いと思う。
ま、元々本好きや将来の夢は小説家とか創作好きな人ばっかりだし、サボる人はいないかもだけど。
「というか、一万文字って……すぐ終わるじゃん」
目線はグラウンドに向けたまま、俺は誰にともなくぼそりと呟いた。
元々五万字くらいの中編から長編が専門だから、今回みたいな短編は不得手に近い。
多少文字数が多くなってもいいみたいだけど、なんとか文字数以内に収めたい。
仮にWebコンテストに提出するってなったら、そんな『多少』は許されないから。
「……っ!」
すると、白球が速いスピードで俺に向けて飛んできた気がして、無意識に目をつぶった。
でも俺が居る場所は構内の廊下。
その間にはネットが張ってあるから、間違ってもボールが顔めがけて飛んでくることは無いってのに。
あっても捕り落としたボールが速度を落として転がってくるくらいで、心配するような事は無いって頭では理解してる。
正直ここに居るのはちょっと怖いけど、でも俺はじっと野球部の練習を見つめた。
……あ、あの人。
ふと、ある部員の姿が目に留まった。
深く帽子をかぶってるから顔も学年も分からないけど、練習してる誰よりもずっと存在感があった。
ボールがグローブに収まる音も、練習してる誰よりも大きくてはっきりしてる……ように聞こえる。
「っ」
じわ、と身体の奥から何かが溢れ出しそうな気がして、俺は反射的に脚に力を込めた。
それまで全体を見ていた視線はただ一人に向けて、ほとんど瞬きすることなく観察する。
高く上げられた右脚、ボールを投げる姿、まっすぐに向けられた瞳──。
思い付いた言葉や題材をすぐ書き留められるように、部室を出る前に小さめのノートとシャーペンを持ってきた。
まだ何も書かれていない白いそれに、ざかざかと感情のままに手を動かす。
【野球部、ボールを投げ合う練習、みんなとは違う、鋭い瞳、真剣な表情、日焼けした肌、綺麗な投げ方、力強い音】
「……よし」
断片的だけど、一応小説のネタになりそうな言葉を書けた。
あとは部室に戻って、物語の起承転結を決めてからパソコンや原稿用紙に本文を書き込むだけだ。
けど、俺には懸念事項が一つある。
「投げる表現とか……ちゃんと見ておかないとな」
なにぶん野球のことなんてからっきしだし、かと言って文芸部副部長としても、(一応)一端の物書きとしても、適当に書くのは俺のポリシーが許さない。
正直、次の部活もこうして見学出来る訳じゃないから、少しでも練習風景を覚えておかないと。
時間ギリギリ、それこそ部長が俺の所に呼びに来るまで、野球部の練習を廊下の端で見ていた。
「──そこ、もっと速く!」
監督の鋭い声が時折聞こえてきて、何か言う度に『はい!』と野太い声があとから響くから、正直耳が痛い。
グラウンドには等間隔に野球部員が並んでいて、ボールを投げては捕っては投げ返す、という行為が繰り返されている。
傍目から見たらキャッチボールをしてるのと変わらないけど、ああいうお遊びよりもずっと顔が真剣だった。
……まぁ野球には興味無いし、ルールだってあんまり分かってない。
今やってる練習の意味も、正直なところ曖昧だ。
でも文芸部の活動の一環じゃなかったら、多分一度も見学しにこないと思う。
「……先生も自由だよなぁ」
ふぅ、と小さく溜め息を吐きながら、先程文芸部で言われた言葉を思い出す。
『無事に文化祭も終わったことだし、短編の小説書いてみようか。お題は部活の一幕で、一万文字以内ね!』
きらきらとした笑顔で、そう顧問の立浪先生が言ったのはつい二十分前。
お題の要素が少しでもあれば後はなんでもいいという、いつもの緩さ。
ただ、部活の風景の臨場感を出すために『許可するから見学してこい』って……実質部活じゃなくてサボりに近いと思う。
ま、元々本好きや将来の夢は小説家とか創作好きな人ばっかりだし、サボる人はいないかもだけど。
「というか、一万文字って……すぐ終わるじゃん」
目線はグラウンドに向けたまま、俺は誰にともなくぼそりと呟いた。
元々五万字くらいの中編から長編が専門だから、今回みたいな短編は不得手に近い。
多少文字数が多くなってもいいみたいだけど、なんとか文字数以内に収めたい。
仮にWebコンテストに提出するってなったら、そんな『多少』は許されないから。
「……っ!」
すると、白球が速いスピードで俺に向けて飛んできた気がして、無意識に目をつぶった。
でも俺が居る場所は構内の廊下。
その間にはネットが張ってあるから、間違ってもボールが顔めがけて飛んでくることは無いってのに。
あっても捕り落としたボールが速度を落として転がってくるくらいで、心配するような事は無いって頭では理解してる。
正直ここに居るのはちょっと怖いけど、でも俺はじっと野球部の練習を見つめた。
……あ、あの人。
ふと、ある部員の姿が目に留まった。
深く帽子をかぶってるから顔も学年も分からないけど、練習してる誰よりもずっと存在感があった。
ボールがグローブに収まる音も、練習してる誰よりも大きくてはっきりしてる……ように聞こえる。
「っ」
じわ、と身体の奥から何かが溢れ出しそうな気がして、俺は反射的に脚に力を込めた。
それまで全体を見ていた視線はただ一人に向けて、ほとんど瞬きすることなく観察する。
高く上げられた右脚、ボールを投げる姿、まっすぐに向けられた瞳──。
思い付いた言葉や題材をすぐ書き留められるように、部室を出る前に小さめのノートとシャーペンを持ってきた。
まだ何も書かれていない白いそれに、ざかざかと感情のままに手を動かす。
【野球部、ボールを投げ合う練習、みんなとは違う、鋭い瞳、真剣な表情、日焼けした肌、綺麗な投げ方、力強い音】
「……よし」
断片的だけど、一応小説のネタになりそうな言葉を書けた。
あとは部室に戻って、物語の起承転結を決めてからパソコンや原稿用紙に本文を書き込むだけだ。
けど、俺には懸念事項が一つある。
「投げる表現とか……ちゃんと見ておかないとな」
なにぶん野球のことなんてからっきしだし、かと言って文芸部副部長としても、(一応)一端の物書きとしても、適当に書くのは俺のポリシーが許さない。
正直、次の部活もこうして見学出来る訳じゃないから、少しでも練習風景を覚えておかないと。
時間ギリギリ、それこそ部長が俺の所に呼びに来るまで、野球部の練習を廊下の端で見ていた。


