寡黙な野球部エースは俺の小説がお気に入りらしい

 海理さんに断って、別行動を……いや、今日はこれで解散する事になった。

 海理さんには優真と想いを伝え合ったその日の夜、メッセージアプリで報告した。

 他の誰よりも海理さんなら、俺の性的志向が他の人と違っても引かないって思ったから。

 まぁ最初は驚いてたけど祝福してくれて、学校で顔を合わせた時も『おめでとう』と俺に聞こえる声で祝ってくれた。

 俺が何か言う前に一瞬顔を逸らした時があったから、ちょっと泣いてた気がする。めちゃくちゃ予想だけど。

『あー、その顔は三澄だろ。あとは俺一人でなんとかするから、デートしておいで』

 ニヤニヤと意地悪そうな笑みを浮かべて、海理さんとカフェの前で別れて五分くらい。

 近くのベンチで座って待ってる、って続けてメッセージが来たから、俺はそこまで急いで向かっていた。

「あ……っ」

 やがてベンチに座ってスマホを見てる優真を見つけて、小さく声が出た。

 当たり前だけど優真は私服で、カーキ色のブルゾンに白いシャツ、下は緩めの黒いワイドパンツだった。

 対して俺は寒がりだからロング丈のグレーのチェストコートに黒いニット、黒いデニム。

 ……こうして見ると対照的だな。寒くないのか、あいつ。

 なんて考えながら優真のところに向かってると、ふと優真がスマホから顔を上げた。

「っ」

 まだ十メートルくらい距離があったけど真正面からばちりと目が合って、優真がずんずんと俺の方に向かってくる。

「待ってた」

 やがて俺の前に立って一言。

 相変わらず優真は口数が少なくて、でも何を考えてるのかは分かるようになっていた。

 俺に会いたくてたまらなかった、っていう目だ。

「……待ってなくても良かったのに」

 ふふ、と笑い混じりで呟く。

 よく見れば耳や鼻の頭が赤くなってて、俺が着くよりもずっと前から待ってたのが分かる。

 昨日のうちに海理さんとカフェで原稿合宿するって言ったから、本当はあるはずの午後練を切り上げて来たんだろうな。

「なんで? 千晴は俺に会いたくなかった?」

「っいや、そんなこと……言ってない、ですけど」

 まだ付き合って一週間とかなのに、俺は定期的に優真のペースに乱されていた。

 本当は俺がリードしたいけど、もういいってくらい予想の斜め上のことを言うから困る。

 でもまっすぐな言葉に救われてるのも事実で。

「俺も──」

 会いたかった。

 そう言いたいけど、なんだか優真に言わされてるようで小っ恥ずかしくて、途中で口をつぐむ。

 ……いや、俺も会いたかったけどさ。なんか嫌だろ、こういうの。

「ん?」

 何か言った、と優真が軽く首を傾げて尋ねてくる。

「なんでもない。……どこ行く?」

「そうだな……ここは?」

 誤魔化すように言うと、優真はすぐにスマホの画面を見せてきて、あまりの用意の良さに笑ってしまう。

 俺の目に入ったのはロック画面とかじゃなくて、検索履歴だった。

 そこは前から行きたいと思ってたテーマパークで、ここからだと電車一本ですぐだ。

同時に優真が頑張って考えたんだって思うと、自然と笑みがこぼれた。

「いいよ、そこ行こっか」

 普段よりもやや高い声で、ゆっくりと言った。

 それと同時にリュックに入れてるパソコンが、ほんの少し重くなった気がした。

 ……今からテーマパークに行くには荷物になるかもだけど、ロッカーかどっかに預けないとな。

 ぼんやりと考えながら、思い返すのは今までの優真との出来事だ。

 苦手な奴だったはずなのに、こうして付き合ってるんだから不思議だよな。

 それに創作はすっぱり辞めるはずだったのに、今も続けてるから驚く。

 まぁやっぱり書くのが楽しくて……何より楽しみにしてくれる優真のためで、こいつになら素を見せても大丈夫と思ったから。

「ギリギリまで遊びたい。……いい?」

「……ん」

 そっと上目遣いで見上げると、優真は小さく笑う。

 かと思えば控えめに指先を絡めてきて、そのまましっかりと手を握られる。

 あ、恋人繋ぎじゃんこれ。

「っ、おま……!」

 そう自覚したらボッと顔が熱くなって、でも愛しそうに俺を見下ろしてくるから、結局黙るしかなくなる。

 段々速くなる鼓動に気付かないふりをしながら、優真と二人並んで、駅に向けて歩き出した。