小学校の出来事がきっかけで、自分でも意識してなかった時から性的指向が『普通とは違う』って自覚したんだと思う。
俺は自分を証明するのが小説しかなかったから、無意識に『こういうの書いてるんだ』って同級生に言って、何も考えずノートを見せてしまった。
もちろん言われた事は今でも覚えてるし結構トラウマだけど、同時に分かって良かったと思ってるくらいだ。
そうじゃなかったら、今も人間関係や恋愛で悩んでると思う。
……そういや、俺が何を書いてるのかとか性的指向とか、唯一言えたのは高嶺だけだったっけ。
『あ、そうなの? 大丈夫、俺も似たようなもんだから』
あっけらかんと高嶺は笑って、『俺達親友でいようね』って言ってくれたんだよな。
俺が気まずくならないようにさらっと流してくれて、嬉しかったし救われた。
同時に俺は『恋するならリアルじゃなくて二次元』って決めて、今まで生きてきた。
男同士の物語を書くのはまだ良くても、男が好きとか絶対に引かれるって分かってるから。
けど、まさか自分ですら気付かないうちに現実の同性を──三澄優真を好きになってたとは。
今思い出しても恥ずかしくて、告白した(というか俺が言わせた)前後のやり取りは途中から覚えてない。
でも確かにあいつと恋人になって、一週間が経っていた。
もう世間はクリスマスまであと三日で、街に出るとクリスマスムードが漂っている。
ちょっと早いけど、今回の短編を書き終えたら今まで書き溜めてたプロットノートを処分しよう。
さすがに文芸部のみんなで作った部誌や文学賞の原稿は置いとくけど、それ以外は綺麗さっぱり無くすんだ。
冬休み前には短編の作品も完成するから、その日の夜にパソコンに保存してる原稿も削除する。
「──そう思ってたはず、なのになぁ」
はぁ、と誰にともなく呟いて、短く溜め息を吐く。
俺の目の前にはパソコンの画面があって、ぽつぽつとだけど本文を書き散らしていた。
「どした立花」
すると俺の真正面に座ってパソコンを打ち込んでた部長が、ひょいと顔を覗かせた。
今日は冬休み一日目で、十一時くらいから部長──海理さんとカフェで原稿をしている。
『一緒に原稿してくれ! この際、パソコン打つフリでもいいから!』
そう頼み込んできたのは昨日、終業式が終わって文芸部に顔を出した時だった。
なんでも年が明けて半ばくらい、分かりやすく言えば成人式の次の日が応募しようとしてるコンテストの締切らしい。
でも本文が全体の半分も終わってなくて、年末年始は帰省するからなんとか年内に終わらせたい──というのが海理さんの言い分だった。
聞けば小説コースがある専門学校に行くみたいで、それ以外の時間はコンテストに全力をそそぎたいとか。
勉強しなくてもいいんですか、って言いそうになったけど、海理さんは模試も上位で、なんなら定期テストも学年一位だった。
大学の受験と比べたら、専門は余裕なのかもな……まだ大学受験すら始まってないのに。
勉強しておいて損は無いと思うけど、そこら辺は俺が指摘しちゃ駄目な気がする。
「……いや、なんでも。少しは進みました?」
そこで頭を切り替えて、にこりと愛想笑いを返しながら尋ねると、海理さんは腕組みして渋面を作った。
「まぁ、まぁ……まぁいいんじゃないですかね?」
「なんで疑問形なんですか。──ってもう一時か、二時間くらいで結構書けると思うんですけど」
パソコンのディスプレイに表示されてる時刻は十三時三分で、思わずそんな呟きが漏れる。
「あ」
言い終わってすぐ、しくじった、って思った。でも気付いた時にはもう遅くて。
「いいよなお前は。二時間で五千とか一万とか、集中したら一日で二万とか書けて。短編苦手なくせに長編書くってなったらイキイキしだして爆速で仕上げてさ、俺なんか長編一作完結させるまでに何ヶ月も掛かって最悪間に合わなくて──」
みるみるうちに海理さんが早口になって、ずぅんと俺の周りに重苦しい空気が流れていく。
せっかくセットしたであろう髪もぐしゃぐしゃにして、テーブルに突っ伏して……ひと口サイズのサンドイッチを昼頃に注文したきり何も食べてないのに、なんだか胃が痛くなってくる。
こうなった時の海理さんは長い。愚痴言う時間があるなら一文字でも書け、って思うけど今言ったら火に油をそそぐだけだし。
「き、気分転換……そう、気分転換しましょ! 近くにデカい本屋ありますし、俺も丁度ゆっくりしたいなって思ってたんで!」
はたと思い付いたことを言えば、海理さんはそれまで掛けてた眼鏡を外した。
あ、ちょっと生気戻った? 目にハイライトは無いけど。
「……いいな、するか。じゃあ一旦休憩」
深く長く息を吐きながら、海理さんがソファの背もたれに身体を預ける。
よかった、ちょっとはリフレッシュ出来ればいいけど。
ほっとしているとスマホのバイブがいきなり鳴って、なんだろうと思いながら手に取った。
画面を見ると通知が一件。
海外の野球選手のユニフォームを着た後ろ姿のアイコン、次に『ゆうま』の順番で目に入って、通知が誰から来たのか理解する。
「……あ、っ」
『午後から時間あるか』
十文字も満たない短いそれは、恋人──優真からだった。
俺は自分を証明するのが小説しかなかったから、無意識に『こういうの書いてるんだ』って同級生に言って、何も考えずノートを見せてしまった。
もちろん言われた事は今でも覚えてるし結構トラウマだけど、同時に分かって良かったと思ってるくらいだ。
そうじゃなかったら、今も人間関係や恋愛で悩んでると思う。
……そういや、俺が何を書いてるのかとか性的指向とか、唯一言えたのは高嶺だけだったっけ。
『あ、そうなの? 大丈夫、俺も似たようなもんだから』
あっけらかんと高嶺は笑って、『俺達親友でいようね』って言ってくれたんだよな。
俺が気まずくならないようにさらっと流してくれて、嬉しかったし救われた。
同時に俺は『恋するならリアルじゃなくて二次元』って決めて、今まで生きてきた。
男同士の物語を書くのはまだ良くても、男が好きとか絶対に引かれるって分かってるから。
けど、まさか自分ですら気付かないうちに現実の同性を──三澄優真を好きになってたとは。
今思い出しても恥ずかしくて、告白した(というか俺が言わせた)前後のやり取りは途中から覚えてない。
でも確かにあいつと恋人になって、一週間が経っていた。
もう世間はクリスマスまであと三日で、街に出るとクリスマスムードが漂っている。
ちょっと早いけど、今回の短編を書き終えたら今まで書き溜めてたプロットノートを処分しよう。
さすがに文芸部のみんなで作った部誌や文学賞の原稿は置いとくけど、それ以外は綺麗さっぱり無くすんだ。
冬休み前には短編の作品も完成するから、その日の夜にパソコンに保存してる原稿も削除する。
「──そう思ってたはず、なのになぁ」
はぁ、と誰にともなく呟いて、短く溜め息を吐く。
俺の目の前にはパソコンの画面があって、ぽつぽつとだけど本文を書き散らしていた。
「どした立花」
すると俺の真正面に座ってパソコンを打ち込んでた部長が、ひょいと顔を覗かせた。
今日は冬休み一日目で、十一時くらいから部長──海理さんとカフェで原稿をしている。
『一緒に原稿してくれ! この際、パソコン打つフリでもいいから!』
そう頼み込んできたのは昨日、終業式が終わって文芸部に顔を出した時だった。
なんでも年が明けて半ばくらい、分かりやすく言えば成人式の次の日が応募しようとしてるコンテストの締切らしい。
でも本文が全体の半分も終わってなくて、年末年始は帰省するからなんとか年内に終わらせたい──というのが海理さんの言い分だった。
聞けば小説コースがある専門学校に行くみたいで、それ以外の時間はコンテストに全力をそそぎたいとか。
勉強しなくてもいいんですか、って言いそうになったけど、海理さんは模試も上位で、なんなら定期テストも学年一位だった。
大学の受験と比べたら、専門は余裕なのかもな……まだ大学受験すら始まってないのに。
勉強しておいて損は無いと思うけど、そこら辺は俺が指摘しちゃ駄目な気がする。
「……いや、なんでも。少しは進みました?」
そこで頭を切り替えて、にこりと愛想笑いを返しながら尋ねると、海理さんは腕組みして渋面を作った。
「まぁ、まぁ……まぁいいんじゃないですかね?」
「なんで疑問形なんですか。──ってもう一時か、二時間くらいで結構書けると思うんですけど」
パソコンのディスプレイに表示されてる時刻は十三時三分で、思わずそんな呟きが漏れる。
「あ」
言い終わってすぐ、しくじった、って思った。でも気付いた時にはもう遅くて。
「いいよなお前は。二時間で五千とか一万とか、集中したら一日で二万とか書けて。短編苦手なくせに長編書くってなったらイキイキしだして爆速で仕上げてさ、俺なんか長編一作完結させるまでに何ヶ月も掛かって最悪間に合わなくて──」
みるみるうちに海理さんが早口になって、ずぅんと俺の周りに重苦しい空気が流れていく。
せっかくセットしたであろう髪もぐしゃぐしゃにして、テーブルに突っ伏して……ひと口サイズのサンドイッチを昼頃に注文したきり何も食べてないのに、なんだか胃が痛くなってくる。
こうなった時の海理さんは長い。愚痴言う時間があるなら一文字でも書け、って思うけど今言ったら火に油をそそぐだけだし。
「き、気分転換……そう、気分転換しましょ! 近くにデカい本屋ありますし、俺も丁度ゆっくりしたいなって思ってたんで!」
はたと思い付いたことを言えば、海理さんはそれまで掛けてた眼鏡を外した。
あ、ちょっと生気戻った? 目にハイライトは無いけど。
「……いいな、するか。じゃあ一旦休憩」
深く長く息を吐きながら、海理さんがソファの背もたれに身体を預ける。
よかった、ちょっとはリフレッシュ出来ればいいけど。
ほっとしているとスマホのバイブがいきなり鳴って、なんだろうと思いながら手に取った。
画面を見ると通知が一件。
海外の野球選手のユニフォームを着た後ろ姿のアイコン、次に『ゆうま』の順番で目に入って、通知が誰から来たのか理解する。
「……あ、っ」
『午後から時間あるか』
十文字も満たない短いそれは、恋人──優真からだった。


