カリカリ、カタカタカタ……。
原稿用紙やノートに文字を書く音や、パソコンを打ち込む音が図書室に響いている。
それは俺も例外ではなく──と言いたいところだけど、それどころじゃなかった。
「──なぁ、この続きは?」
「ありません」
ほとんど遮るようにして、俺のことをじっと見てくる男に言った。
テーブル一つ挟んだ真正面には、学ランを肩に羽織っただけの男子生徒が肘をついてこちらを見ていた。
もう一時間くらい居座っている。
正直、視線が痛くて何も手につかない。
「というかこの時間、野球部は部活じゃないんですか? みんな、もうグラウンドに集まってると思いますけど」
すると俺の言葉に一瞬視線を逸らして、でもまっすぐに見つめてくる。
「……ない」
「はい?」
ぽそりと零された言葉が何を意味しているのか分からず、俺は反射的に聞き返した。
ここのところ、文芸部が活動してる図書室に来ると、高確率で男──三澄優真がいる。
なんなら俺が居るのを見計らってるみたいに、さぁ今日も執筆するぞ! って時にタイミングよく現れる。
逆に俺がいなかったらすぐ部活に行くみたいだけど、こっちとしては迷惑以外の何ものでもない。
「今日は休み。朝練はしたけど」
いや、一応言っとかないと、って顔で付け加えられましても。
あと休みでも何人か……特にお前みたいな野球バカは、率先して自主練すると思いますけど。
そう俺がひっそりと突っ込んでるとは露しらず、三澄はまたまっすぐに見つめてくる。
「で、続きは」
俺が前『落とした』プロットを書き留めてるノートのページの端を、とんとんと人差し指で叩く。やめろ、気が散るだろ。
なんて馬鹿正直に言えるはずもなく、溜め息が出そうになるのを懸命に押し殺した。
「……さっきも言いましたよね、ないって」
プロットはあるけど。
本当は今すぐにも本文を書きたい。でも、三澄が居るから何もできない。
だからこうして本を読んで、ただ次の作品のネタになりそうなジャンルの小説だから、あんまり無意味な時間じゃなかったりする。
「……そか」
口の中で短く呟いたかと思うと、ややあって三澄が椅子から立ち上がった。
お、やっといなくなる……自主練しに行くのか!
三澄に向けてるポーカーフェイスも忘れて、にこにこと笑顔を浮かべていると肩越しに振り返った。
あ、やべっ。
と思ったけど、三澄は俺よりもずっと表情が変わらないから、変化なんて分からない。
「また来る」
来なくていいです!
「……さよならー」
にこ、と形だけでも口角を上げて、三澄の背中に向けてひらひらと手を振った。
元々野球しか能がないような、そんな男だと思ってたのに……どうしてこうなっちゃったんだ!
そう叫んでやりたいけど、生憎とここは文芸部の部室だし、それを抜きにしても図書室だ。
静かにしないといけないって分かってるし、そもそも副部長だからしっかりしないといけないってのに。
「うう〜……」
でも我慢できなくて、俺はそのまま机に突っ伏すと腕で口元を隠して短く唸った。
「ふ、副部長!?」
「立花ぁ、声抑えなー?」
案の定というか、俺の行動に驚く声や諫める声や……って後者は部長だ、あとで謝らないと。
けど、部活がある時はほとんどこんな感じだから、少しくらいは多めに見てほしい。
……なんて言えたら苦労しないんだよな。
「はは……っ」
段々自分が惨めになってきて、乾いた笑いが漏れる。
まぁこれで執筆出来る、って思ったら気持ちも切り替えられるわけで。
「──よし、やるか」
「今日も独り言大きいなぁ。まぁそれが立花だし、いいことだけど」
自分を鼓舞するように気合いを入れると、別のテーブルで執筆していた部長の声が後から聞こえてきた。
「え、そんな大きいですか?」
ふと思った疑問を口にすると、部長がにっこり笑って『大きい!』と言った。
いや、部長は普通に声デカイって。
「……あ、静かにするんだった」
やべ、って顔した後に唇に人差し指立てても遅いです、部長。
あと申し訳なさそうにぺこぺこしながら座られても、こっちも困ります。
でもクスクスと部長の周りを中心に、かすかな笑い声が聞こえてきて、やがて伝播したように俺も笑っていた。
原稿用紙やノートに文字を書く音や、パソコンを打ち込む音が図書室に響いている。
それは俺も例外ではなく──と言いたいところだけど、それどころじゃなかった。
「──なぁ、この続きは?」
「ありません」
ほとんど遮るようにして、俺のことをじっと見てくる男に言った。
テーブル一つ挟んだ真正面には、学ランを肩に羽織っただけの男子生徒が肘をついてこちらを見ていた。
もう一時間くらい居座っている。
正直、視線が痛くて何も手につかない。
「というかこの時間、野球部は部活じゃないんですか? みんな、もうグラウンドに集まってると思いますけど」
すると俺の言葉に一瞬視線を逸らして、でもまっすぐに見つめてくる。
「……ない」
「はい?」
ぽそりと零された言葉が何を意味しているのか分からず、俺は反射的に聞き返した。
ここのところ、文芸部が活動してる図書室に来ると、高確率で男──三澄優真がいる。
なんなら俺が居るのを見計らってるみたいに、さぁ今日も執筆するぞ! って時にタイミングよく現れる。
逆に俺がいなかったらすぐ部活に行くみたいだけど、こっちとしては迷惑以外の何ものでもない。
「今日は休み。朝練はしたけど」
いや、一応言っとかないと、って顔で付け加えられましても。
あと休みでも何人か……特にお前みたいな野球バカは、率先して自主練すると思いますけど。
そう俺がひっそりと突っ込んでるとは露しらず、三澄はまたまっすぐに見つめてくる。
「で、続きは」
俺が前『落とした』プロットを書き留めてるノートのページの端を、とんとんと人差し指で叩く。やめろ、気が散るだろ。
なんて馬鹿正直に言えるはずもなく、溜め息が出そうになるのを懸命に押し殺した。
「……さっきも言いましたよね、ないって」
プロットはあるけど。
本当は今すぐにも本文を書きたい。でも、三澄が居るから何もできない。
だからこうして本を読んで、ただ次の作品のネタになりそうなジャンルの小説だから、あんまり無意味な時間じゃなかったりする。
「……そか」
口の中で短く呟いたかと思うと、ややあって三澄が椅子から立ち上がった。
お、やっといなくなる……自主練しに行くのか!
三澄に向けてるポーカーフェイスも忘れて、にこにこと笑顔を浮かべていると肩越しに振り返った。
あ、やべっ。
と思ったけど、三澄は俺よりもずっと表情が変わらないから、変化なんて分からない。
「また来る」
来なくていいです!
「……さよならー」
にこ、と形だけでも口角を上げて、三澄の背中に向けてひらひらと手を振った。
元々野球しか能がないような、そんな男だと思ってたのに……どうしてこうなっちゃったんだ!
そう叫んでやりたいけど、生憎とここは文芸部の部室だし、それを抜きにしても図書室だ。
静かにしないといけないって分かってるし、そもそも副部長だからしっかりしないといけないってのに。
「うう〜……」
でも我慢できなくて、俺はそのまま机に突っ伏すと腕で口元を隠して短く唸った。
「ふ、副部長!?」
「立花ぁ、声抑えなー?」
案の定というか、俺の行動に驚く声や諫める声や……って後者は部長だ、あとで謝らないと。
けど、部活がある時はほとんどこんな感じだから、少しくらいは多めに見てほしい。
……なんて言えたら苦労しないんだよな。
「はは……っ」
段々自分が惨めになってきて、乾いた笑いが漏れる。
まぁこれで執筆出来る、って思ったら気持ちも切り替えられるわけで。
「──よし、やるか」
「今日も独り言大きいなぁ。まぁそれが立花だし、いいことだけど」
自分を鼓舞するように気合いを入れると、別のテーブルで執筆していた部長の声が後から聞こえてきた。
「え、そんな大きいですか?」
ふと思った疑問を口にすると、部長がにっこり笑って『大きい!』と言った。
いや、部長は普通に声デカイって。
「……あ、静かにするんだった」
やべ、って顔した後に唇に人差し指立てても遅いです、部長。
あと申し訳なさそうにぺこぺこしながら座られても、こっちも困ります。
でもクスクスと部長の周りを中心に、かすかな笑い声が聞こえてきて、やがて伝播したように俺も笑っていた。


