放課後、所属の委員会の所用を終えて教室に入ると、クラスメイトの男子たちがひとかたまりになって、誰かのもってきた本の話題で盛り上がっていた。
自分は自分で、そのままカバンを取り上げて帰宅時につこうとする。その時、ひとかたまりの男子のうちのひとりが、
「なあ、お前も見るぅ?」
などと声を掛けてきた。その様子から、その本がどういう類のもので、男子が何を話題にもちあがっっているかの想像は難しくない。
柚真人は、嫌みはなく多少相手への迎合もうかがわせるような表情を作りつつ、
「――悪いねえ。おれ、そういう苦労はしてないもんで」
そのまま教室を出て行こうとすると、背後で、くそー! とか、ちくしょー! とか、入れ食いかよー! とか、男の敵! とか、笑いの混じった罵詈雑言が聞こえた。とはいえ、それは反感や敵対心を含むものではない。柚真人は、自分の容貌や身の上のことに鑑みて、自分がどういう行動をすれば人がどういう感情を抱くか、どうすればそれを上手くコントロールできるかということを良く知っていた。だから、同年代の男子たちのそのようなアレでソレな行動にも、卒なくトゲなく付き合うことにしている。
だがまあ、実のところは、苦労してないどころか――真逆だ。
しかも、いまやりすごしてきたごくごく普通の同年代の男子高校生たちがそういう欲求を晴らすために見たり回したり使ったりするものが、自分にはまったく意味をなさないのがまたいけない。
柚真人ももちろんそういう意味ではごくごく平均的に男子だし、高校生にもなれば、まわりからいやおうなくそういうものが目に入るようにもなる。だから、試してみたりしたことはあるのだ。その手のアレソレを、見てみたり、まあ、それでいろいろと考えようとして見たり、あるいはその――先も。それで、自分の中にあるどうしようもないものを少しでも吐き出したり、軽減できたりするのなら、と。
結論として、思い知ったのは、まったく無駄だった、ということ。
たとえば、異性のグラビアとか、ちょっとあられもない姿とか、さらにはもっと過激な姿を目にしたとする。でも、自分はそれ自体についてはあんまり反応しない。というか、頭の中で即座に自然に異性の対象がすりかわり、それに身体が反応する。そうして、そうなると想像が勝手に制御を失い、どんどん悪い方へと転がり始めてしまうのである。
つまりは――妹で、抜ける。
否。
妹でしか――出来ない。
どうやら、自分は、そこまで末期的らしい。もちろん性的なアピールをともなう異性を観れば、普通に、卑猥だな、とか、猥褻だな、とか感じる感覚はある。でも、それはあくまで認識上の感覚であって、肉体の反応へは繋がらない。まあ、本能的に生理的にどうしようもなくちょっとは反応したとしても、それ以上には、なっていかない。そうなる場合、必ず、頭の中では相手が彼女にすりかわっている。
それを自覚したとき、さすがに最悪も最悪だと思った。止まらない想像の果てに自分の手の中に吐き出したものをみたときには、絶望すら覚えた。深く、ひどい、快楽と――ともに。
だから柚真人は、それ以降は基本的には自分に禁欲を課している。
余計な衝動は、その種さえ排除して、眠らせておくより他にない。
まあ、幸い、自分からその手のもの――妹以外の、というこれまた最悪な前提がつくところからして実は全然幸いでもなんでもないのだが――が見たいとか、欲しいとか、といった欲求がないからいいのだけれど。いや、よくはない。
顔がいいとか成績がいいとかモテるとか。外からの評価は飽くほど良くても。ミリほどのアドバンテージにもなりはしない。この世にただひとつのものを、皇柚真人は欲している。
それが自分のものになるならと、頭の中でした妄想は、とてもじゃないが、――誰にも、言えたもんじゃない。

